矢野 |
NTTコミュニケーションズにお勤めのときはどういうことをしていましたか。
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粟飯原 |
「先端ビジネス開発センタ」という、研究とビジネスとが半々になった部署で電子マネーの開発をやったりしていました。
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矢野 |
そのかたわら、ウエブでいろんな活動をしておられたわけですね。
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粟飯原 |
96年12月に「LIFE」という非営利の女性ネットワークを作りました。オンライン・ショッピングがどうあってほしいかという提案を、生活者の視点、女性の視点から企業や世間に発信しようというネット上のグループです。どういうショップが使いやすく、どういうサービスが心地よく使えるだろうかというようなことを議論していました。
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矢野 |
会員は若い女性だけですか。
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粟飯原 |
20代後半から30代前半が中心ですが、年齢層はかなり幅広いです。1000人ほどの方が参加しています。
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矢野 |
95年がインターネット元年だと言われていますから、その翌年にオンライン・ショッピングについて考えるコミュニティを作ったというのは早かったですね。
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粟飯原 |
当時からオンライン・ショッピングの時代が来るとしきりと言われていましたが、女性のインターネット・ユーザーは1割にも満たなかった。ショッピングサイトを立ち上げたものの、結局だれも買ってくれないというので、企業の担当者が悩んでおられたころです。一方で、3Dの人形が動き出して、街を歩いてショッピングをしていくような、いまでは考えられないようなサイトを大真面目に作っていらっしゃったんですよね。「売れない、売れない、なぜだろう」などと言いながら。
生活者の側からオンライン・ショッピングの理想の形を提示するために、いろいろなショップとディスカッションしながら、オンライン・ショッピング業界を作っていったという感じでした。
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矢野 |
なるほど、オンライン・ショッピングの歴史そのものに相当深くタッチされていたんですね。
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粟飯原 |
だといいなあ(笑)。インターネット上にショッピング・ユーザーがいないと言われていたときに、突然かなりのボリュームのユーザー集団が現れたということで、いろいろなショップから連日、「うちのショップはこれでいいんだろうか」とか、「どういう商材やサービスがあれば女性は買ってくれるのか」といった問い合わせが来ました。メンバーの中から「ショッピングサイトは、いまこの時点で先方が営業しているかどうかがわからないと、買う気にならない」という意見が出て、サイト上に「今日も営業中」と一言書いてほしいと提案したら、「逸品.com」というモールの参加メンバーが即座に採用してくださり、それをきっかけに日本中のサイトに広がったりしました。
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矢野 |
「LIFE」の活動で『日経WOMAN』誌選出の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」で2000年ネット部門第一位を受賞しておられますね。本業のかたわらでそういうことをなさって、会社では問題なかったのですか。
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粟飯原 |
本業にとっても、むしろ役立ちました。「先端ビジネス開発センタ」の仕事が、システムエンジニアとユーザーの橋渡しをするマーケティング・プランナーでしたから。
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矢野 |
「LIFE」の活動を踏まえて、オンライン・ショッピングについて本をお書きになりました。
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粟飯原 |
はい。女性のネットワークで毎日ショッピングの話をしていたわけですけれども、その中身を知りたいという方がすごく多かったんです。それで97年に東洋経済新報社から『オンラインショップ成功の理由』というビジネス書を出しました。
当時は、オンライン・ショッピングと言っても、実際は現実のウインドウ・ショッピングのネット版でしかないサイトが多く、さっきも言いましたように、アバター(顧客の身代わりになって動くエージェント)が3D世界を歩き、ノックして店内へ……というような感じでした。
だからオンライン・ショッピングはナビゲーションの世界ですよ、と指摘しました。凝ったディスプレイではなく、ユーザーが商品をすばやく買えるための検索機能やディレクトリを備える、注文を受けたら確認のメールを返信するなど、今では当たり前になった基本的なことを提案したのです。
本のほうは、おかげさまで改訂版をというお話もいただきましたが、この世界は変化が激しいので、新たに『女性のためのオンラインショッピングわくわくBOOK』(青樹社、2000年)を書きました。
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矢野 |
僕らがオンライン・ショッピングをするのはコンピュータだったり、書籍、とくに古書だったりするわけだけれど、最近は取り扱う商品の範囲が広くなっていますね。ショップの利用方法やユーザーの考え方はどう変わってきましたか。
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粟飯原 |
私個人はオンライン・ショッピングをする前と後で、ものに対する考え方が変わったように思います。オンライン・ショッピングのいいところは、普通のショップでは商品がどういうふうにできたかとか、作り手の想いはこうだとか、実はこういう仕掛けがあってとか、ストーリーの部分は書いてないですね。しかし、オンライン・ショッピングでは、売るために商品のストーリーを書き込んであるサイトがすごく多いんです。ものを買うときにストーリーも一緒に買っていて、それでものを買うのがすごく楽しくなるんです。
例えば蜂蜜を買うときに、この蜂蜜はこういうふうに作っていて、こういう味のポイントがあって、というのを自分で理解して、商材を楽しめる。すごくライフスタイルが変わったという気がします。
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矢野 |
「こだわりのショッピング」と書いていましたね。
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粟飯原 |
私はもともとミーハーなんですけど、オンライン・ショッピングでは「ミーハーさんがこだわり屋さんになれる」と思っています。通販の世界はすごく面倒くさくて大変で、単なるミーハーだとそのこだわりの世界に入っていけない。でも、オンライン・ショッピングでは、ミーハーでありさえすれば、ちょっと検索すれば、そのこだわりの世界へすぐアクセスできるというか。
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矢野 |
通信販売とはまた違うわけですね。
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粟飯原 |
違うと思いますね。興味を持てばどんどん深く入っていけるというのが面白いと思います。うちのメンバーでもオンライン・ショッピングを始めて、こだわり屋さんだと思われるようになった人がいっぱいいます。お中元やお歳暮とかに、いままではまったく思いもよらなかった、ちょっと変わったものをネットで見つけて、送ったりできるんですよ。送られた方がすごく驚いて、こんなこだわりのものを送ってくれた、あの人はこだわり屋さんなのね、みたいな。実はそうじゃないのに、そういうこだわりの世界に簡単に入っていけるんですね。
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矢野 |
「北海道の○○さんが丹精をこめて作ったスイカです」とか言って送るわけでしょう。
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粟飯原 |
オンライン・ショッピングは、早く、安く買えるのがいいのではなく、ライフスタイルが変わったり、生活が広がったり……、女性はショッピングに、そういう醍醐味を求めていたんだと思います。
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矢野 |
実際にはどういうものを買いますか。
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粟飯原 |
先週は、山椒やちりめんじゃこを買いました(笑)。
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矢野 |
オンライン・ショッピングをやったことがない人に説明してほしいんだけど、サイトに行って山椒を1袋とか、パックで購入すると、どういう決済になりますか。
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粟飯原 |
インターネット上で人気があるショップは、いろいろな決済方法を取り揃えています。クレジットカードでも、代引きでも、銀行振り込みでも、郵便振込みでもOKというように、ユーザーのストレスを低減するために、いろいろな方法を用意しています。その中から好きなものを選べばいいわけです。
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矢野 |
品物が宅配便で送られてきて、その場で決済することもあるし、先に代金を振り込んで後から商品が送られてくる場合もある。先に品物が来て、ということはないのかな。
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粟飯原 |
先に品物が来て後で振り込むパターンはすごく多いです。
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矢野 |
古書の場合は、先に代金を振り込むことが多いですね。だけど、先に商品が来て代金は後でいいですよ、ということもある。
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粟飯原 |
インターネットのユーザーがショッピングに対して一番不安に思っていたのが、代金を支払っても商品が届くのかどうかということだったんですね。お店の側は、それを少しでも払拭するために、まず商品を届けて後から支払ってくださいというのをずっとやってきました。いまようやく、商品はきちんと届くものなんだとユーザーが認識し始めて、ショップさんが前払いにどんどん変え始めているところです。
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矢野 |
真ん中にクッションを置くシステムがありましたね。
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粟飯原 |
エスクロー・サービスといって、もともとはオークションのために始まったんです。個人間取引の不安を解消しようと。仲介機関が、代金の徴収を責任をもって代行してくれるので、これを利用すれば安心です。
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矢野 |
品物を受け取るときはどうするんですか。
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粟飯原 |
会社に送ってもらったり、配達日に休日を指定したりとか。
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矢野 |
近くのコンビニで受け取ることもあるんじゃないですか。
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粟飯原 |
コンビニで受け取る方法も結構出て来ていますが、商品を置く場所の問題がかなり大きいみたいです。生ものを取りに来なかった場合はどうするかとか。
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矢野 |
せっかく現場まで来ているのに、取りに来ない人がいるわけですね。やはり期日を指定してもらって、最初から本人の自宅に届けたほうがいいわけですかね。ところでオンライン・ショッピング自体は、飛躍的に伸びているようですね。
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粟飯原 |
ショップとユーザーのコミュニケーションが密にとれることから、サービスのグレードがぐんと上がってきたと思います。例えば、お花のサイトでは、ギフトを申し込むと、どんな花を相手に贈ったか、写真を送付して知らせてくれたり、商品によっては「その後いかがですか」、「ちゃんと使えていますか」というアフターフォローのメールが来たり。ワインのサイトなどは、ヘビーユーザーに特典つきのメールを送付したりしていますよね。
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矢野 |
オンラインショップは、メールマガジンを併用しているケースが多いですね。一度購入した客に、今度はこういう新商品が出ましたよ、と知らせることもできるし、それを見ているうちに、ついつい衝動で買ってしまう人もいる、と。
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粟飯原 |
楽天の発表では、メールマガジンとホームページの比重は8対2の割合で、メールを通しての購入は圧倒的に多いとのことです。
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矢野 |
ネット・オークションはやりませんか。
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粟飯原 |
私はそんなにヘビーにはやりません。オークションは結構時間がかかる買い方ですね。競りを見て、上げて下げて、結構ゲーム感覚で楽しむものなので。
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矢野 |
それを熱気があって素晴らしいという人がいました。
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粟飯原 |
はまっているメンバーも多いですね。行列のあるお店に並びたくなる。賑わいの論理みたいなところがすごくあって。
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矢野 |
やはりYahoo!が圧倒的ですか。
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粟飯原 |
圧倒的にYahoo!だと思います。オークションはCtoC(消費者同士)モデルだから、一番消費者を捕えているサイトが大きくなるのは当たり前かもしれないですが。
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矢野 |
モバイル、携帯によるショッピングはどうですか。
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粟飯原 |
携帯で買うのは若年層が多いみたいですね。パソコンを持っていない人たちが携帯で買うパターンも多いみたい。
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矢野 |
携帯だと、うんちくとかこだわりみたいな形でショッピングする余地はあまりないですね。
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粟飯原 |
どちらかと言うとほしいものが決まっていて、クイックアクセスで買う。もしくは着メロみたいなものとか。でも、これからはすごく伸びてくると思います。
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矢野 |
伸びてくるでしょうね。事件、事故はどうですか。
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粟飯原 |
「LIFE」でのトラブル経験は皆無に近いですね。トラブルって、少しパブリックに扱えない商品の場合や、本当に個人間の取引で起きるケースがほとんどだと思います。ふつうに買っていてトラブルになるというのはほとんど聞いたことがないですね。
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矢野 |
クレジットカードの番号をオンライン上で教えたりしますか。
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粟飯原 |
しますね。割と気にしていないです。気にされる方は絶対に買わない。どこまで安全性を志向するか、気軽にやってしまうタイプなのか、個人によりますね。実際に100%安全かと言うと、そうではないので。
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