 |
|
矢野 |
映像に限らず、テキストも写真も含めて、いろいろな情報がさまざまな形で流れるようになることは間違いないでしょうね。その中で、マスメディアは自分たちのアイデンティティをどう確立していけるか、という点についてはどうお考えになりますか。
|
|
松本 |
いかに市民メディアが増えていこうとも、私はマスメディアの地位は揺るがないと思います。新聞の発行部数が減るとか、若い女性がテレビを見なくなったとか、もしマスメディアの市場が縮小するなら、それは市民メディアの影響ではなく、日本の経済社会それ自体の影響ではないでしょうか。
|
|
矢野 |
しかし、人々にとって、見たり聞いたりする情報が増えていくことは避けられません。これまで情報の多くはマスメディアによって提供されていたわけですが、市民メディアなんかも24時間、質の高い情報を提供するようになったら、マスメディアを見る時間は相対的に減りますからね。
なぜ週刊誌や雑誌が売れなくなったか。かつては電車の中や、ちょっとした待ち時間などに、時間つぶしのために雑誌を買った。いまはケータイでおしゃべりですよ。手持ちぶさたの時間がなくなってきた。放送も、地上波、BS(放送衛星)、CS(通信衛星)といろんな種類があって、BSはたいへん苦戦しています。地上波と同じ内容の番組をどうしてBSで見るのかという話は最初からあったんですね。多メディア下における個々のメディアの戦略があいまいなまま、ただひたすら拡張主義で走ってきた結果ともいえます。CSはBSよりさらに視聴対象が狭く、それだけ制作費もかけられない。その先にブロードバンド通信があるわけです。こうした中で、マスメディアが自らのアイデンティティを見出すのはなかなか難しいと僕は思いますね。
ところで、長さ数分から30分程度の短編映画、ショートフィルムが一時はやりましたが、日本ではどうなんでしょう。
|
|
松本 |
ショートフィルムについては、日本では特殊な事情があって、これまでマーケットが出来なかったんです。それを作ろうとしたのがギャガ・コミュニケーションズのような配給会社です。ショートフィルムを束ねてそれを劇場で見せようとしたわけです。
またヨーロッパでショートフィルムが多く作られたのは、テレビ番組の時間枠がまちまちで、その隙間を埋めるためにショートフィルムを流したことなどが背景にあります。ところが日本では番組の長さがきっちり30分や1時間の枠に収まるように制作されており、ショートフィルムを流す枠も見る習慣も生まれませんでした。
|
|
矢野 |
ブロードバンド・コンテンツは、映像ではなく静止画と音声が中心で、ラジオのようなトーク番組が過渡期的なものとして機能しているという話もありましたが……。
|
|
松本 |
トーク番組の方が映像番組より費用対効果の面で、商業ベースの採算に乗せやすい面はありますが、アメリカのようにインターネットラジオ局が日本で普及しないのは、音楽を配信する際の著作権問題があるからです。音楽を流すのが難しいため、結果として特定の層を対象にしたニッチでコアなトーク番組しかできないんですね。例えばアスキーが始めた(いまはAII)「ラジ@(ラジアット)」や、ビデオニュース・ドットコムの「マル激トーク・オン・デマンド」などは、主にサブカルチャーに関心の強い団塊ジュニア世代の若者をターゲットにして成功しました。
「マル激トーク・オン・デマンド」は、若者に人気の高い社会学者の宮台真司さんとビデオジャーナリストの神保哲生さんのトーク番組で、有料のブロードバンド・コンテンツとしては数少ない成功例になりました。
|
|
矢野 |
最後に松本さんが主催しておられる「メディア研究会」という勉強会についてお伺いします。始められたきっかけは何だったのですか。
|
|
松本 |
バブルの頃、異業種交流会が流行っていて、その中でも最大手といわれたのが「丸の内青年倶楽部」という会です。ディスコを借り切って1000人以上の参加者を集めてパーティーを開き、メーカーにスポンサーになってもらい、ビンゴの賞品として車をプレゼントするなど、今から考えるとずいぶんバブリーなことをやっていました。その分科会の一つが「メディア研究会」で、私はスタッフとして関わっていました。
ところがバブルがはじけて、企業スポンサーが離れると、本体は活動を継続出来ずに解散となり、分科会は自由に活動することになりました。そこでそれまでのような遊びのサークルではなく、幅広くメディアについて勉強する会にしようと、94年6月に内容を改めて再スタートしました。今でも続いており、これまで120回の勉強会を開催しています。他にも年に1、2回、国内外へのメディア視察ツアーを行っています。
2001年12月には100回記念企画として、同時多発テロ事件後のニューヨークに9人で行って来ました。それまでメディア研究会では、「マイノリティ社会の中のメディア」をテーマに、国内の在日外国人メディアについて何度か勉強会を行ってきましたが、それと対比するためニューヨークでは、コロンビア大学の図書館の会議室を借りて在外日本人メディアについて勉強会を行い、「ジパング」、「週刊Nuts」などの現地の日本人生活情報誌の発行人の方から話をうかがいました。
|
|
矢野 |
研究会も多いときは50人ほど参加者があるようですね。それで120回とはたいしたものです。僕自身も講師として呼んでいただいたり、興味深そうなテーマの時に参加させてもらったりと、ずいぶん勉強させていただきました。今後も頑張って続けてください。今日は、あまりなじみのない映像の世界の興味深いお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました。
|