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松本恭幸さんプロフィールへ メディア・プロデューサーとして活躍する:松本恭幸さん 矢野直明プロフィールへ

衛星放送やインターネット関連のコンテンツの企画開発を手がけてきた松本恭幸さんは、いち早くブロードバンド・コンテンツにも着目し、調査研究を続けてきた。現状のブロードバンドは市民や学生が特定のコミュニティを対象に情報を発信する「ナローキャスト」のインフラとして大きな可能性を秘めているという松本さんに、ナローキャストとは何か、どのような可能性を秘めているのかを聞いた。

index
Part1 ブロードバンドビジネスの難しさ

 メディアを限定しないメディア・プロデューサー

Part2 ナローキャストの可能性

 ビデオジャーナリストの作品を配信
 学生たちがすぐれた作品を発表
 NPOの情報発信を支援するプロジェクト

Part3 始まった情報発信のうねり

 映像の発信は日本人に合うか
 120回続いたメディア研究会

Part1 ブロードバンドビジネスの難しさ

矢野

この数年でブロードバンドという言葉が急速に普及しました。通信機能が強化され、コンピュータの性能も上がり、映像が送れるようになって、誰もが映像を使った自由な表現ができるようになったわけです。しかし、現実にブロードバンドがどこまで使われているのか疑問な点もあります。まずその辺から。

松本

たしかにブロードバンドのコンテンツ・ビジネスで、採算を確保している事業者は極めて少ないですね。東京放送(TBS)、フジテレビジョン、全国朝日放送(テレビ朝日)の民放3社が中心となってトレソーラという会社を設立し、昨年、過去に放送された番組を権利処理して、ブロードバンドを使って有料配信する実験をおこないました。その結果、売上げは2000万円ほどありましたが、1億円近い赤字を計上したそうです。トレソーラは事業化を目指していたのですが、しばらくは事業会社への移行を見合わせ、実証実験のための企画会社として継続することを、2003年5月に発表しました。
 テレビ局のようにすでに独自のコンテンツを持っていて、2次利用のための権利処理だけすればいいというビジネスでも、なかなか事業の採算が合いません。おそらくオリジナルでゼロからコンテンツを作ったら、収益構造はさらに厳しくなるはずです。

矢野

アメリカでもハリウッドの大手映画会社5社が「Movielink」というブロードバンドによる有料映画配信のサービス会社を立ち上げましたね。国内外でこうした会社や実験の例はやたらと増えていますが、一向に利益が出たという話は聞こえてこない。

松本

今のところ、唯一コンテンツ・ビジネスとしてブレークする可能性があるのはゲームだと思っています。トレソーラを上回る売り上げのあるネットワークゲームはいくつもあります。韓国では、数百万人のユーザーを抱えているネットワークゲームもあります。日本でもゲームがブロードバンドで配信される時代は数年先にやってくるはずです。

矢野

どのように収益を上げているのですか。

松本

ユーザーがパッケージソフトを購入し、その後は毎月の会費を払うというのが一般的です(無料でクライアントソフトをダウンロード出来るものもあります)。事業者としては会費が主な収益源になります。ネットワークゲームの多くはRPG(ロール・プレーイング・ゲーム)です。まだインフラ投資にお金がかかっているので、利益を上げているところは少ないかもしれませんが、売上げベースではどんどん増えています。

メディアを限定しないメディア・プロデューサー

矢野

ブロードバンドは企業の情報発信としても有効だといわれていますね。

松本

どうなんでしょうか。企業がプロモーションで利用する場合、収益を考えなくてもかまわないのですが、活発に使われているという話はあまり聞きません。

矢野

eラーニングなどいろいろな話題はあるが、話題のわりにはこれといった魅力的なソフトがないということでしょうか。

松本

結局、現在のブロードバンドでマスを対象にしたコンテンツ配信は非常に難しく、むしろ配信先を特定のターゲットに絞った試みの中から、注目を集めるようなものが出てきています。たとえばeラーニングの領域では、最近、企業だけでなく大学がブロードバンドを利用するようになっています。早稲田大学とリクルートは、全国の高校生向けの模擬授業にeラーニングを利用しようと、昨年の春休みと夏休みに実験をしました。今は少子化で、多くの大学では受験生確保のため、教員を各地の高校に派遣して模擬授業をおこなっています。早稲田大学の場合、首都圏以外の地方からの入学志望者が多いのですが、教員をそうした地方の高校に派遣して模擬授業を行うにはコストがかかる。そこでリクルートと提携し、ブロードバンドを利用した模擬授業の実験を行い、かなり好評だったようです。大学の志願者増加を目的としたものなので、コスト構造はよくわかりませんが。

矢野

アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)やハーバード大学などでもネットで公開授業をおこないましたね。

松本

ある程度の数の受講者に対して配信するなら、ブロードバンドより衛星放送や衛星による映像伝送の方が安いかもしれません。代々木ゼミナールや東進グループなど大手予備校では、スカパー(スカイ・パーフェクTV)のチャネルを利用していますね。山口県下関市にある東亜大学も、昨年までスカパーの無料チャンネルで授業を放送していました。特定の会場への映像配信なら、スカパーと契約するのではなく、衛星による映像伝送の方がよいでしょう。こうしたサービスはNTTサテライトコミュニケーションズなどの会社が提供しています。

矢野

ところで松本さんは大学以外の場では、メディア・プロデューサーという肩書きで仕事をしておられるそうですが、同じ肩書きを名乗っている方は、ほかにもいるんですか。

松本

実はジャーナリストの福富忠和さんがメディア・プロデューサーという肩書きを使っておられたのを、私も拝借しました。というのも特定のメディアに限らず仕事をする中で、相手に自分が何をやっている人間か一言で伝えるのにとても便利な肩書きだからです。昨年はこの肩書きで、ある企業のプロモーション映像の制作をしたり、三鷹市のコミュニティサポーターズというNPOが企画する、多摩地域の学生を情報発信者とするインターネット放送局の立ち上げに協力したりしました。今年もメディア・プロデューサーとして、大学以外の場でいくつか仕事をする予定です。

矢野

マスメディア中心の時代から、そこにパーソナルメディアも合流する「総メディア社会」に向かうなかで、メディア・プロデューサーというのは現実に合致したネーミングだと思いますね。新聞も、雑誌も、テレビも、電話も、メディア単独としては論じられなくなり、すべてが融合していくなかで、プロデューサーとして具体的に何かを生み出していくには全体を見通すことが大切です。サイバーリテラシーと僕が言っていることも、そのことと大いに関係がありますね。

Part2 「ナローキャストの可能性」
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