 |
|
矢野
|
アメリカと日本の著作権法の違いとは?
|
|
林
|
アメリカは著作者人格権よりも財産権を重視しているのです(著作権は著作者人格権と財産権に分かれ、前者は著作者固有の権利で譲渡不能、後者は譲渡可能)。それは、もし権利を侵害されたらその救済手段は結局おカネの問題という、いかにもアメリカらしい割り切り方があるからです。それが分かるまでに2年かかりました。
|
|
矢野
|
米スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授の考えが面白いと思ったのは、従来は著作権があることがデフォルト(初期設定)になっているけれども、それだと、ことさら著作権を主張するつもりがなくても、創作活動に従事する人はそれをクリアしなければならない。だから著作権をいったんコモンズに置いて、それを主張したい人は何らかのアクションを起こすというふうに、発想を逆転したらいいというところです。
サイバーリテラシーでは、技術が作り上げたサイバースペースの特性を理解すると同時に、サイバースペースと現実世界が交流することで現実世界が変容していく側面に注目すべきだと言っているわけですが、なぜ現実世界とサイバースペースをいったん区別する必要があるかというと、@サイバースペースには現実世界がもっている「あいまいさ」、「不徹底」、「自然減衰」、「物理的障害」、「自ずからなるバランス」、「自然秩序」といったものがない、Aサイバースペースでは、情報を記憶、あるいは記録することにはほとんど努力を必要とせず、逆にそれを削除するためにこそ大いなる努力が要請される、図式的に言えば、「現実世界のデフォルト=<忘れる>、サイバースペースのデフォルト=<記憶する>」、というふうに、現実世界とはまるで違う特性をもっているからなんですね。
だからこそ、あらゆる問題を抜本的に考えないと解決できない。もっとも、レッシグ教授は「クリエイティブ・コモンズ」という、より現実的な運動を展開していますね。一定の条件の下に著作権者の権利を守りながら、ネット上で自由に共有できるコンテンツを増やしていこうというもので、日本でも普及を促すクリエイティブ・コモンズ・ジャパンができ、現在、世界20ヶ国ほどで組織が立ち上がっているようです。それとdマークはどう関係しますか。
|
|
林
|
私もクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのメンバーの一人ですが、実はレッシグさんとは以前から知り合いで、彼もdマークのアイデアに敬意を表してくれています。レッシグさんはもともとコピーライト否定派だったんですが、その後、クリエイティブ・コモンズに変わった。そのアイデアに対してアメリカの弁護士たちが集結してボランティアでアッという間に形にしてしまった。その力はすごいですね。日本では私が一人でやっているからどうしても限界があります。
|
|
矢野
|
dマークとクリエイティブ・コモンズの違いは何ですか。
|
|
林
|
クリエイティブ・コモンズは、やはり著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権の3つに分かれる)を考えていないことですね。財産権的処理だけを対象とすればたしかに話は簡単です。しかし、私は著作権の中でも著作者人格権、とりわけ人格権の中でも著作者名を表示する権利を守る氏名表示権が一番大切だと考えているんです。これはアメリカ法と、日本が参考にしたドイツ法の違いです。
それでは、アメリカには人格権はないのかといえば、連邦法では規定されており、その他、州法にもある。アメリカの半分ほどの州で人格権を規定しているようです。
|
|
矢野
|
クリエイティブ・コモンズは世界的に広がりつつありますか。
|
|
|
林
|
イギリスのBBCがこれを使って映像ソフトの利用を可能にしたようですね。日本は熱しやすく冷めやすいのか、関心は薄れはじめています。日本では著作権を経済学、あるいは憲法と重ね合わせて考えている人はほとんどいないですから、なかなか関心も高まりにくいのです。著作権法の学会ではこれ以上、悪くならないように防戦するだけで、新しい対応はできていないですね。
|
|
|
矢野
|
最後になりましたが、冒頭の情報セキュリティ大学院大学では、今後、どのような学生を育てていきたいとお考えですか。
|
|
|
林
|
法システムというものは振幅が大きく、何かある度に左右両方に振れやすい。だから学生には中庸とは何かということをとくに教えたいですね。バランスを取るということです。
じつは「林の法則」というのがあります。これまで「成果=潜在能力×やる気の2乗」と言っていたのですが、やる気を重視するのはいいとして、マイナスのやる気を2乗してプラスになってしまうのは具合が悪いので、最近「成果=潜在能力×やる気×方向感覚」と変えたんです。いくら潜在能力とやる気があってもマイナスの方向に進んでいって、クラッカーになっては困りますから。勉強も方向性が重要ということです。 |
|
|
矢野
|
今日は、「情報メディア法」の論考をめぐって、スケールの大きな話をお聞きしました。まさに「つまみ食い」で、しかも基本的な説明部分ははしょっているので、雑駁な印象になってしまい、林さんには申し訳ありませんでしたが、興味を抱いた方は、近く出版予定という大部の著作(『情報メディア法の研究(仮題)』東京大学出版会)をご覧いただくことでご勘弁いただきたいと思います。どうもありがとうございました。
|