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矢野
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林さんのご研究は、かねて興味深く拝見していましたが、このほどその集大成としての論考をおまとめになったとか。もっとも、この場でその全貌をお聞きするのはとても無理で、今日は、僕の関心にそって林理論を「つまみ食い」しながら、林さんがなぜ「情報メディア法」を構想したかという研究の背景というか、問題意識を中心にお聞きしたいと思います。
その前に、今年(2004年)4月、副学長に就任された情報セキュリティ大学院大学のことからお話し願えますか。
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林
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昨年2月、ある人を介して横浜市にある専門学校、岩崎学園の岩崎幸雄理事長から「情報セキュリティ専門の大学院大学をつくりたいから相談に乗ってほしい」というお話がありました。その名も「情報セキュリティ大学院大学」。極秘の話ということでしたが、2年前にこんな構想を言い出したら誰も相手にしないですね。だけど2年後にやろうと思ったら、おそらく2番手、3番手になるでしょう。何という絶好のタイミングでお考えになったのかと、興味をひかれて岩崎さんにお会いしました。
相談に乗っているうちに意気投合しましてね。学長は暗号の権威でもある辻井重男先生(東京工業大学名誉教授)にお願いしようと相談したら、コンピュータ・セキュリティが大切だから田中英彦さん(前東京大学大学院情報理工学系研究科長)も誘おうではないか、というふうに2ヶ月ほどの間に人の縁もあって、次々と教授陣が決まりました。長い付き合いの方々というより、それぞれの分野で活躍されていたみなさんが一気に集まったんですね。これは不思議でした。矢野さんにも非常勤講師をお願いしていますし……。
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矢野
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林さん自身は、そのとき慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授だったわけですよね。
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林
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定年までにまだ2年あったので、のんびりやろうかと思っていたんですが(笑)、こういうのはやはり最初にやるのが面白い。辞めるといったら周囲は驚いていましたよ。情報セキュリティ大学院大学というと、世界で一番特化した大学院のように見えますが、その実、世界で一番広いテーマを扱っているんですよ。情報セキュリティはさまざまな学問や技術知識に通じていないと太刀打ちできませんから。
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矢野
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2月の開校レセプションでは、辻井学長がセキュリティを「学際総合科学」とおっしゃっていました。
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林
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まったくその通りですね。私自身も学際人間で、大学の法学部を出て経済学を勉強、サラリーマンから学者に転じたんですが、周囲は私を理系出身だと思うほど理系の友だちも多い。まったく雑多な人間です。大学院大学の教授たちもいろいろな分野から集まっています。
第一期生の学生も、結果的に多士済々になりました。下は22歳から上は60歳まで。学生もいるし、会社からの派遣も、会社を辞めて自分のおカネで入学した人もいます。いろいろなテーマを30分にまとめて語り合う「輪講」という授業があるんですが、それを聞いていると、私は何と世の中を知らないのかと実感します。それほどいろいろな知識や経験を持った方々が集まっています。
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矢野
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おもしろそうですね。定員はたしか少なかったですね。
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林
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1学年49人が入学定員で、第1期生は30数人です。働いているビジネスマン向けに午前から夜間まで授業がありますから、教官も大変ですよ。夜8時開始の授業もありますからね。
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