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インターネット上に普通の会社をつくる「ネットオフィス」の試み:田澤由利さん
コム人対談
田澤由利さん

Part1 北海道・北見に咲いた「ネットオフィス」

東京転勤になった夫も会社をやめて戻ってきた

Part2 ネットメンバーを支えるローカルスタッフ

 「バーチャル・グループワーク・マネジメント」

Part3 メインはネット、リアルはサブ

子どもへのネット教育が緊急課題



Part2 ネットメンバーを支えるローカルスタッフ

矢野

ワイズスタッフの現状についてお伺いしますが、いま社員は何人ですか。

田澤

北見オフィスでは、月給制の社員が私たち夫婦を含めて5人、アルバイトが2人の総勢7名です。このほか札幌に社員が1人、奈良オフィスに社員が1人、アルバイトが1人。社員は全部で7人ですね。北見オフィスのようなローカルオフィスの役割は普通の会社でいえば、総務・経理の管理部門。それと物理的業務はすべて担当しています。例えば、電話の応対や交渉、郵便物の受け取り・発送、宅配便の配送など、物流の伴う業務はすべてローカルオフィスでやっています。ネットメンバーの住所や電話は個人情報なので、お客さんといえども、直接、何かを送ったり、電話をしないようにお願いしています。多少、非効率でも、いったんはローカルオフィスに送ってもらって、必要に応じてネットメンバーに転送します。今年4月に奈良オフィスができたことで、こうした配送業務はだいぶ効率化されました。奈良と北見を拠点にほぼ1日で全国に送れますからね。

矢野

物理的なやりとりは、ローカルオフィスを通すということですが、クライアントとの交渉はどうしているんですか?

田澤

クライアントとの交渉や連絡はプロジェクトのチーフがおこなって、メンバーに伝えます。その間のやり取りはすべてcc(コピー)メールで私にも送ってもらっています。

矢野

ホームページにある資料によると、2004年2月時点で、ネットメンバーは関東が41人、近畿が20人、北海道が17人、海外が5人となっていますが、いまも変わりませんか。

田澤

ほとんど変わっていません。月に1名〜2名が増える程度で、辞める人はほとんどいませんね。年齢は30代が50%、40代が43%、20代が7%で、9割が女性です。大手企業で人事、企画、プログラマーなどをやっていたのですが、夫の転勤や子育て、親の介護などでやむなく会社を辞めた人が多いですね。元国際線のキャビンアテンダントや占い師、婦人警官などの経験者もいます。メンバーたちはいくつかのプロジェクトに参加する形で仕事をしており、現在まで大きなトラブルはほとんどありません。

矢野

どのような仕事をなさっているのですか。

田澤

ホームページやメールマガジンの企画・制作、ネットリサーチ、ネットプロモーション、編集・執筆、イベント企画などで普通のIT企業とあまり変わりません。クライアントは大企業がほとんどですが、私たちの会社がどこにあるかなど気にしていませんね。重要なのはネット上でのレスポンスの早さです。ネットメンバーは選び抜いた人たちなので、仕事の対応に関しては何の心配もありません。

矢野

ネット上の会社としては、働き手が100人弱というのは少ない方ですね。

田澤

たしかにネット上では100人は少ないという印象でしょうね。私の知っているSOHOネットワークの会社では、数千人から数万人のメンバーがいるところもあります。でも数万人いるといっても、本当に仕事をしているのはゼロコンマ数パーセントの単位ですよ。在宅ワークやSOHOが流行っているとき、私たちも集めようと思えばメンバーを増やすことができたでしょうが、結局、人数が増えると仕事を管理できないので、データ入力やテープ起こしといった単純で単価の安い仕事を分配するだけになってしまうのです。
 ワイズスタッフは、限りなく普通の会社を目指し、リアルの会社と同じような仕事の環境や収入を得られるようにしたいと考えました。単なるSOHOではなく、ネットオフィスで働くSOHOなのです。だから、ネットメンバーになるのも簡単ではありません。登録すればOKではなく、書類選考し、試験し、最後に面接します。入社後も教育をします。この5年間ずっと、こうした社内の土台作りをしてきました。

矢野

メンバーの報酬はどのくらいですか。

田澤

人によってバラバラですが、100人を平均すると年収は100万円台でしょう。多い人で700万円ぐらい、チーフクラスで200〜400万円ぐらいでしょうか。育児や介護で今は100パーセントの力を発揮できなくても、将来に向けた勉強を欠かさないという意識が高い人ばかりです。

矢野

勝手にメンバーが仕事を取ってきてもいいのですか。

田澤

それはかまいません。仕事を取ってきたメンバーにも成功報酬があります。でも、外出しにくい環境の人が多いので、自分で営業する人は少ないです。基本的に私が営業を担当しています。

「バーチャル・グループワーク・マネジメント」

矢野

会社を設立された98年頃はSOHOブームで、主婦を中心としたママさんネットが話題になりました。企業側にも女性の声を集める需要があったのでしょう。しかし、SOHOブームは女性の社会進出を促すというより、内職の延長になり、下火になった。ワイズスタッフが築いたネットオフィスの仕組みは特異な存在といっていいですね。いま、ママさんネット全般はどういう状況ですか。

田澤

当時、主婦のSOHOネットに企業が求めたのは、女性たちの意見だったんですね。決して主婦たちに仕事をさせたかったわけではない。だから、ママさんネットの多くは手っ取り早くモニター集団に衣替えしたわけです。中にはプログラマーやデザイナーの専門集団になるなど、SOHOワーカーの組織として生き残ったところもありますが、解散した組織も多いですね。
 私たちには最初からモニターを集めるという考えはありませんでした。また、単純作業ではなく、ちゃんとした報酬をもらえる仕事だけをやりたいと考えていました。ちなみに弊社でも『スピードクッキング』という働く女性のためのレシピ紹介サイトを運営しています。登録メンバーは7万人近くいて、リサーチ業務において、パネルとして利用しています。でも、ネットメンバーとはまったく別の存在ですが、女性の意見を集めたいときなどには、協力いただくことが可能です。

矢野

ネット上で現実の会社と同じ組織を作るというコンセプトは「ビジネスモデル特許」に値すると思いますが(笑)、他では真似できないんですか。

田澤

難しいといえば、難しいでしょう。前例がないので、私も仕組みや環境を模索しながら、なんとかここまで来ました。人材を集めるのはじつに大変です。でも、ほんとうはもっと各地でネットオフィスが増えてほしいんです。知り合いから「田澤さんだからできた」といわれるのが悲しいですね。北見でできるのだから、東京ならもっと簡単でしょう?
 ネットオフィスは、これからの社会に大きなメリットもたらすと思っており、広げていきたいんです。バーチャルなネット上でグループワークを管理するのはかなり大変ですが、そのノウハウは私たちなりに蓄積してきました。これを私は「バーチャル・グループワーク・マネジメント」と勝手に呼んでいるのですが、これはネット上で仕事を管理し、人を育て、組織を作るマネジメント手法になりえると思っています。
 ネット上では仕事中、実際に会えないので、ナーバスな部分も多い。これをもっと学問的に体系化して、世の中に提供できればと思っています。じつはネット上のグループワークはアメリカなどより日本の方が、とくに日本の女性に向いており、今後、ニーズはあると確信しています。

矢野

男性には向きませんか。

田澤

ネットオフィスは、会社で働きたかったのに、何らかの理由で辞めざるをえなかった人に向いているんです。男性でフリーやSOHOになる人たちはどちらかというと、管理されるのが嫌で一匹狼になりたいという志向を持っている人が多いので、ネットオフィスに管理されたくない傾向があります。男性がダメということではなく、結果的に組織で働きたかった女性が中心になっていますね。

矢野

採用基準は厳しいらしいですね。

田澤

ゼロから教育はできないので、実務経験と社会常識をちゃんと持っている方々から採用することになります。その上で、ライティングやデザイン、プログラミングなど、それぞれスキルやノウハウを持っている方が優先的になります。さらに「企業でずっと働きたかったのにどうしてもできなかった」という強い思いを持っている方でないと、自己管理もできないし、長続きしないですね。
 ネットオフィスといっても、面接では必ず実際に会います。海外のスタッフも例外ではありません。遠方の応募者は、最寄りの空港内の喫茶店などで待ち合わせをし、面接します。会って、どれほど働くことに強い思いを持っているか確認するのです。
 東京で面接する場合は、丸ビルにある「東京21世紀クラブ」、関西方面では奈良オフィスですね。面接の際には私だけでなく、人事部の担当スタッフが同席します。
 SOHOワーカーと仕事をしている会社では、SOHOワーカーを「下請け」として扱うケースが多いです。でも、当社ではネットメンバーが中心に業務を行っています。ローカルスタッフはあくまでもネットメンバーのサポート部隊だといつもいっています。

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