関根 |
UDITは4人の正社員と、在宅勤務の登録社員130人ほどに支えられていますが、ほとんどが障害のある方や高齢者、そのご家族です。
正社員の1人で主任研究員の濱田英雄氏は、乙武さんと同じように先天性四肢欠損で1種2級の障害者です。けれどいま、彼は経済産業省や総務省も参加している「Webアクセシビリティ委員会」の主査をつとめています。あれだけ障害の重い人が、国の委員会の、それも日本のIT産業の方向性を決めるような委員会のリーダーをやっているのは、はじめての例だと思います。
障害者でも能力があればどんどん登用しようと、政府の意識が少しずつ変わってきている何よりの出来事だと思っています。
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矢野 |
正社員の方、登録社員の方とは、どのように知り合われたのですか。
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関根 |
インターネットで応募してこられた方が多いです。
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矢野 |
ということは、受け入れる態勢があれば、優秀な人たちがいっぱいいるということですね。
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関根 |
登録社員の中には、全盲で弁護士をめざしている法学部の学生とか、目が見えなくて肢体不自由でもあるが、英語圏のウェブから情報を集めることに関しては右に出る者なしという人とかもいっぱいいます。そういう優秀な人が、通勤できないという理由で、無職でいる場合も多いんです。なんて、つまらないことでしょう。それで、私どもはせっせとお仕事をお願いしているわけです。
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矢野 |
UDITは、ひとつの運動体ですね。
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関根 |
そうです、そうです。オンライン上のバーチャルな活動組織みたいなものです。でも、NPOにしないで株式会社にしました。それは日本社会が、まだそういった枠組みで動いているからなんです。私がたった1人ではじめた会社であろうと、名刺の肩書きは、どんな大企業のトップとも同じ「代表取締役」ですものね(笑)。
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矢野 |
ホームページが、そもそもそういうものですね。大企業が資本と大勢の社員を動員して製作したホームページも、たった1人で作り上げたホームページも、メディアとしては平等です。バーチャルの良さは、現実社会のヒエラルキーや規模に影響されない点にありますね。
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関根 |
会社をはじめた当初は、1件もメールが入ってこない日もあって、これからどうなるんだろうと不安でした。ほら、巨大空母から手漕ぎボートに乗り移り、1人で荒海に漕ぎ出したという感じ。でも、日本で情報のユニバーサルデザインが必要なのは間違いない。高齢化社会とIT社会は絶対に同時並行で進むのだから、ここがつながらなかったら、私が歳をとったときに困るだけだ、という思いがずっと変わらずありました。信じるものがあったから、進んでこられたということでしょうか。
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矢野 |
3年間、いろいろご苦労もおありだったでしょう。いまでは帆船ヨットくらいですか。
雑誌『日経ウーマン』が、その年に活躍した女性を選考する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたそうですね。おめでとうございます。
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関根 |
ありがとうございます。受賞理由は、「誰でもが利用しやすいWebのアクセシビリティを訴え、行政に大きく意識を変えさせた。アクセシビリティのない公共のWebやIT機器の調達に罰則を課す米国の法律『リハビリテーション法508条』の考え方を日本でも認知させようとWebでアピール。これが行政や企業に1つの指針として認められた」ということと、いま申しあげた「主任研究員で自ら障害をもつ濱田英雄さんが、経済産業省の委員会で主査に就任。日本のアクセシビリティに大きな発言権をもつことになった…」ということで、ネット部門の2位、総合7位に選んでいただきました。ネット部門の1位は「テンキー・ラビット」という会社をやっておられる宮田由美子さんで、テンキーだけでウェブサイトをネットサーフィンできるソフトを開発した方です。
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矢野 |
なるほど、アクセシビリティを高めるための活動をした方に焦点があたっていますね。
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矢野 |
関根さんの考える「ウェブのアクセシビリティ」とは、どういうものですか。
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関根 |
インターネットを、高齢者にも障害者にも、誰にとってもアクセス可能なものにするには、ウェブを構築するときに、情報にたどりつくまでの障害をできるだけ少なくすることが大切です。たとえば、目が不自由な方がウェブを音声で聞けるようにするとか。アクセシブルなホームページ作成は、UDITの仕事の大きな柱です。
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矢野 |
パソコンがテキストを読み上げてくれるホームページを作成していらっしゃる?
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関根 |
そうです。UDITのホームページは、耳で聞こえます。
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矢野 |
どうすれば聞こえますか。
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関根 |
ホームページ・リーダーというソフトがIBMから1万5千円で市販されています。無料のおためしバージョンも用意されています。音源が入っているパソコンで、まずお試しソフトをダウンロードされることをおすすめします。Webの画面が視覚障害の方が使うタイプのものに変わり、ヘルプも含めて、すべて音で聞こえるようになります。
目の不自由な方たちのネットサーフィンは速いですよ。皆さん、すごい速度でザーッと聞いて、すぱすぱっとネットサーフィンしていく。ディスプレイをもたない方が多いので、何が行われているのか、はじめて見ると面くらいます。「朝日新聞のこの情報ですね。わかりました、内親王のお名前は……」などと言いながら、あっという間に読み上げてしまいます。
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矢野 |
メールを出すのはどうするんですか。
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関根 |
同じように、メールが読み上げられるのを、ターッと聞いていきます。自分が送信するにはキーボード入力が必要ですが、これまた非常に速いです。
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矢野 |
肢体不自由の方は?
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関根 |
手がふるえたりしますので、OKとNOのボタンがくっついているのは困ります。適切な大きさで離しておくことが必要です。また、スクロールバーを押すのが大変なので、1ページを長くしないということも大事です。そういうポイントはいくつもあります。
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矢野 |
UDITのホームページに、アクセシビリティの高いウェブづくりのポイントが出ていますね。
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関根 |
はい、ガイドラインを紹介しています。新幹線の駅のホームを完璧にユニバーサルデザイン化するのは大変だけれど、ウェブのページをアクセシブルにするのは明日からでもできます。そうすることで、目の不自由な方がウェブを読めるようになる。もう、情報弱者などと呼ばせません。雑誌も新聞も、あらゆる情報にアクセスが可能になるのです。
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