Scrum Fest Osaka 2022講演リポート
アジャイル推進活動におけるBe Agileへの変化の兆し

2022/08/09

2022年6月17日・18日の2日間、Scrum Fest Osaka 2022が開催されました。アジャイル開発に関心が高い企業から集まったエキスパートや初心者が知識を共有したり、困りごとを相談したりと、活発な議論が行われました。登壇した伊山宗吉はアジャイル開発推進をリードする立場から、長年の活動のなかで感じ取ったNTTコムウェアの変化を紹介し、大企業も革新できることを伝えました。

関連記事
Scrum Fest Osaka 2022講演リポート 現場のスクラムチームで挑んでいる改善

NTTコムウェアのアジャイル推進組織の活動

NTTコムウェアは従来SoR(*)領域の開発を主軸としてきたが、近年はお客様との協創ビジネスの拡大やNTTグループのDX推進のため、アジャイル開発に積極的に取り組んでいる。

(*) SoR: System of Recordsの略。情報システムの分類のひとつ。会計・経理、人事、受発注管理など、主に記録することを目的としたシステムを示す。企業活動に欠かせないため、安定性が強く求められる。

また2022年1月にNTTドコモグループの一員となり、コンシューマー向けのサービス開発が増えたことで、ますますアジャイル開発の重要性が高まっている。

2016年、IT業界でアジャイル開発の認知度が高まる中、NTTコムウェアのアジャイル推進組織が発足した。伊山氏は、以来6年間の活動を4つの期間に分けて紹介した。

まずは推進組織発足当時、アジャイル開発を阻む壁は4つあった。

  1. 5名程度で発足した推進組織メンバー自身がアジャイルの経験が浅いか未経験であった。
  2. もともとウォーターフォール型の開発に強い会社であったことから開発標準や社内ルール・手続きがアジャイルに適していなかった。
  3. アジャイルで必要とされる開発環境についての知識がないため整備が進まなかった。
  4. プロジェクト支援体制を組んでも、プロジェクトには未経験者しかしないため、推進組織メンバーのスキルが求められた。

これらの壁を乗り越えるべく、推進組織メンバーの挑戦が始まった。

まずは推進組織メンバーのスキル向上のために認定を取得し、アジャイル開発がわかる人材を増やすという活動に注力した。そのほか、知見のある外部企業で直接指導を受けながらアジャイル開発を実践して経験を積んだり、外部コーチを招いてトレーニングを受けたり、一緒にプロジェクトを支援したりするという取り組みを行うことで、アジャイル開発のスキルを身につけていった。

こうした活動を続けながら、アジャイル開発の制度改善(ガイドライン制定や審査体制確立)、開発環境の整備(開発管理ツール等の環境構築と貸出)、支援体制の確立(研修やアジャイルコーチ、よろず相談など)を進めていった。アジャイル開発の経験・ノウハウが蓄積してくると、推進組織だけでなく事業組織のアジャイル開発経験者も新しいチームをけん引したりアドバイスできるようになっていき、さらに案件が増えていった。

発足から3年が経過した2019年、アジャイル開発案件は増え続けていき、良い成果を出し始めているチームがある一方で、経験者によるフォローが行き届かずに課題を抱えるチームも多くあった。アジャイル開発をやること自体が目的になっていたり、実質ウォーターフォール型の開発になっているチームが散見され、推進組織の取り組みがなかなか成果につながらないという悩みが続いていた。

しかしその後も、あきらめずにいろいろな試みを続け、アジャイルポータルサイトを開設して資料や情報を充実させたり、エバンジェリストという役割を作ることで情報発信する機会を増やすなど、推進活動を継続した。他にも、アジャイル開発のプロジェクト開始前に、推進組織が案件内容をヒアリングして、リスクを明らかにし、アドバイスを実施することで、問題プロジェクトになることを防止した。プロジェクトへアドバイスすることで、プロジェクトメンバーが自分事として今のチームでのアジャイル開発のやり方を見つめ直して改善する良いきっかけとなり、本来の意味でのアジャイル開発へとまた一歩近づいた。

さらに、アジャイル開発の経験者が未経験者と接する機会を設けた。全社ワーキンググループとして「アジャイル推進連絡会」を立ち上げ、組織間で課題解決するための情報共有・ディスカッションを行った。また、「みんなで作るナレッジポータル」というアジャイル関連の研修・イベントへの参加レポートやライトニングトークの資料などを有志によって集めて掲載するサイト上での活動も始まった。

Do AgileがBe Agileへと変化し始める

そして2022年現在、IT業界でアジャイル開発が普及したことにも後押しされ、社内外の両方の活動に変化が見られるようになった。

アジャイル開発の案件が年々増加し、公式HPに掲載しているサービスのうち、60%がアジャイル開発となった。また、開発メンバーだけでなく上長や幹部、そしてお客様も本気でアジャイルを理解し、活かそうしてくれる人がとても多くなった。
これこそがDo Agileだった過去から、Be Agileの未来へと大きく変わった兆候であった。

具体的にはアジャイル推進組織によってトップダウンで進めていた「アジャイル推進連絡会」が、ボトムアップの開催に変わり、強制力がない集まりにも関わらず課長や主査、リーダークラスの一定数の参加が見込める活動として、事例紹介、品質チェックポイントなど有意義な情報交換の場へと成長した。
また、「スクラムマスター(SM)交流会」はスクラムマスターが抱える悩みの相談をきっかけにスタートし、現在では毎週定例で行われるスクラムマスター以外も参加できる会として、ビデオ会議とチャットで業務時間内に参加でき、状況や課題を共有し、意見交換やアドバイス、時には生々しい話ができる会となっている。
「Agile Tips」はアジャイル開発のポイントを気軽に学べる場として有志が推進組織を巻き込んで、社内向けに動画コンテンツの配信を始めている。

推進組織の位置づけの変化と新たな活動

NTTコムウェアがドコモグループに参画し、アジャイル推進組織の社内での位置づけも大きく変わった。元は社内横断のオーバーヘッド組織だったものが事業組織の中の1つの担当へと変化し、全社への支援という位置づけから、案件に取り組んでいるチームを非常に近い位置で支援する体制へと変わった。また、従来、半日や一日という単位での研修であったものが、長期的なトレーニングとして実践に即した施策、実態に即した支援が提供できるようになった。

ドコモグループの一員になったことでアジャイル開発のニーズが更に高まり、実践人材を迅速に増やすために、新たな取り組みとして「スクラムを実践するブートキャンプ」を実施している。ブートキャンプでは、アジャイル開発未経験の社員に対し、アジャイル開発を実践するうえで必要となるスキル(開発手法や開発管理ツール等の理解、クラウド技術等)を身につけられるよう研修企画やコーチングを行っている。約3か月の期間で実施し、最初1か月はスキルアップ期間、残り2か月は開発を実践している。参加者からはスクラムのリズムが理解できた等の前向きなフィードバックを得られており、コーチ側としてもスキル不足や改善点の気づきを得られる有益な場となっている。

他には、案件参画時に円滑なコミュニケーションを図るためにSlack、JIRA、Confluenceなどの環境整備を行ったり、エンタープライズ規模の大規模な開発案件が増えてきているので、複数チームによる大規模アジャイル開発などの取り組みを進めている。

地道な推進活動がBe Agileへと実を結ぶ

長年ウォーターフォール開発をしてきた企業におけるアジャイル開発の推進活動は、成果がなかなか現れにくい活動である。
しかし、改善を繰り返しながら推進活動を継続することで、現場での実践経験者が少しずつ増えていった。そして、経験者、未経験者問わず、交流が広がっていくことで、目に見えて自律的なメンバーが増えてきたという実感がある。
地道な推進活動がようやく実を結び、NTTコムウェアがDo AgileからBe Agileへと変化してきたのである。
NTTコムウェアは今後もアジャイル開発の推進活動を継続していく。そして、同じように苦労を経験している企業へ推進活動を継続していくことの大切さを伝えながら、業界全体のアジャイル開発の推進に寄与できれば幸いである。