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Scrum Fest Osaka 2022講演リポート 
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2022年6月17日・18日の2日間、Scrum Fest Osaka 2022が開催されました。アジャイル開発に関心が高い企業から集まったエキスパートや初心者が知識を共有したり、困りごとを相談するなど、活発な議論が行われました。登壇した田中洋輔はアジャイル開発をリードする立場から、現場で行っているスクラムチームの改善活動について紹介しました。

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エンタープライズ企業のアジャイル開発現場にありがちなこと

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NTTコムウェア
NTT IT戦略事業本部
スペシャリスト
田中 洋輔

NTTコムウェアはNTTグループのソフトウェア開発を担うSIerで、長年大規模基幹系システムの開発を得意としてきたが、近年はSoE(*)分野の拡大に伴いアジャイル開発が急速に増えている。

(*) SoE: System of Engagementの略。情報システムの分類のひとつ。顧客や取引先とのつながりを強化することを目的としたシステムを示す。例として、共同作業を促進するグループウェア、ECサイトなどのレコメンドエンジンが挙げられる。日々変化する要求に対応できるよう柔軟性やスケーラビリティが求められる。

NTTコムウェアの行っているアジャイル開発は、顧客にエンタープライズ企業が多く、パートナー企業と協業体制を作って開発に臨んでいるという特徴がある。
具体的な体制としては、顧客がビジネス部門、NTTコムウェアがシステム部門であり、顧客はシステム部門のマネージャーという役割も兼ねている。NTTコムウェアは、主にプロダクトオーナー(PO)とスクラムマスター(SM)を担い、デベロッパー(Dev)の一部も担当するが、Devの多くはパートナーで構成される。また、他社SIerもシステム部門として別チームで参画している。

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この現場の構図をScrum Allianceによる認定資格である「アドバンスド認定スクラムマスター」の研修(A-CSM by Andy)で紹介したところ、「最も興味深いスクラム」賞を受賞した。受賞した理由はこの図を見て「おやっ」と思われるところが何点もあったからだ。

  • 顧客側のビジネス部門とシステム部門が組織として分断され、分かれてしまっていること
  • パートナー、他社SIerを含めて、関係する会社がとても多いこと
  • POやSMに求められる役割が少し異なること、など

これらは日本のエンタープライズ企業にありがちな特徴である。

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具体的に特徴を整理すると、次のようになる。

Why? Agile

  • 要件と納期が明示されることが多い
  • ビジネス部門がリリース後も継続的な改善に前向きになりづらい
    (リリースすれば終了という雰囲気がある)
    したがって「なぜAgileでやっているのだろう?」と思うことが度々ある。

組織間取引の大量発生

  • ネスト化された受発注構造により発生する多数の利害関係
    (多段構造で受発注が発生する)
  • 社内組織間取引による見積の頻発
    (顧客側でも組織間取引が発生し、至る所で日々見積が取り交わされている)

アジャイルな文化への転換が不十分?

  • 価値よりも計画遵守、オンスケジュールであることを気にする人がとにかく多い
  • POが部署間の調整役(いわゆるPO Proxy)になっていたり、プロジェクトマネージャーのように理解されていることがある。さらに、SMはチームリーダー、Devがプログラマーのように捉えられているように感じることが時折ある。

「変わらない」のはなぜか?

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変わらないのはなぜか?の理由を突き詰めていくと、組織構造上の問題やSIerとして確立されたビジネスモデル、旧来からの契約形態や風土などが挙げられる。アジャイルの“理想的なチーム”になるには課題が多く、いますぐに変えることは難しいが、「どこかできっと変えることはできる」と前向きに捉えている。
今は「私が考えている理想像が顧客を含む周囲と共有できていないのかもしれない」という見方をして、自分が現場でできることから始めている。
ここでは4つの取り組みを紹介する。基本は理想像(目指すべき姿)を自分のまわりと一緒に描くことが大切だと考え、周りの人たちを巻き込んで学ぶ場を作っている。

1)顧客社員とアジャイルコミュニティを立ち上げ

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顧客社員とアジャイルコミュニティを立ち上げ、顧客内の組織をまたぐ形で月2回の情報交換の場を設けた。今では口コミで拡がっていき、十数人が集まっている。
また、顧客を含めた10名ほどの参加者で『The New New Product Development Game』を朗読してみると、顧客から「スクラムの原典から本質を知ることができた気がする」という良いフィードバックがもらえた。

2)他社チームと困りごとを相談・共有

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同じ現場にいる他社のチームとは月1回、チームの悩みごとや困りごとを共有し、相談できる場を設けた。同じ境遇にいて、コンテキストを共有しているメンバー同士だからこそ話せることがあり、お互いのチームが改善に向け、現実に即した解決策やヒントを得られる場になった。集まりの後のアンケートでは8~9割の参加者が有意義だったと答え、現在も継続している。

3)既存チームでの読書会とディスカッション

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既存のチームでは毎週金曜日の朝に30分間の読書会を開催している。アジャイル関連の書籍を中心に読み、ディスカッションして、知識を共有している。Regional Scrum Gathering Tokyo(RSGT)やスクラムフェス大阪などのカンファレンスに参加した後は、興味深かったセッションの上映会や共有会をして、他社事例の紹介の場としている。刺激を受けるメンバーも多く、参加者が少しずつ増えてきている。

4)新規チーム向けのオンボーディング

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新規チーム向けにはPOとDev向けにオンボーディングを企画した。アジャイル未経験者が多いことを前提に、『アジャイルソフトウェア開発宣言』『スクラムガイド』を通して、「なぜこうした原理・原則があるのか」「セレモニーの意味」などを問いながら、理解を深めていく場としている。
POにはプロダクトビジョンの決め方をバリュープロポジションキャンバスやエレベーターピッチなどのフレームワークを使い指導している。
DevにはWebアプリ開発に必要なエンジニアリングスキルを一定にまで上げる、基本を教える場としている。チームビルドも兼ねており、新規メンバーからも好評である。

現実はうまくいかない。しかしそれでも続けていく

いろいろと取り組んできているが、参加者がなかなか増えない、開発業務が多忙で休みがち、運営と改善のコストがそれなりに大きいなど、悩みはつきない。
しかし、それでもコツコツ続けている。

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TED2010で発表されたデレク・シヴァーズの『社会運動はどうやって起こすか』のなかに、「一人のバカがつくるムーブメント」という動画がある。これはたった一人がずっと踊っていたらそのまわりの何人かが一緒に踊り出し、そのうちその場は踊るところという雰囲気が生まれ、大人数で踊るムーブメントが起きるという内容になっている。
今、取り組んでいることも同様で、同じ想いを共有できる仲間が少しずつ集ってきて、挑戦の原動力になりつつあると感じられる。いずれムーブメントが起き、顧客やパートナーを含めてまわりが同じ理想像を描いて日々改善できる世界を実現できるのではないかと考えている。

田中 洋輔プロフィール

現在お客様先常駐でプログラムマネージャーとして大規模アジャイル開発組織の運営に携わっている。過去には、デベロッパー(Dev)としてWebアプリ開発の経験(2年間)やスクラムマスター(SM)として複数チームの支援経験(2年間)がある。
ウォーターフォールでの基幹系システム開発も上流から下流までの経験がある。

2022/08/09

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