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明日につながる基礎知識

第24回 知っているようで知らないこのワード 「アウトリーチ」 あうとりーち Outreach画像 イラスト

アウトリーチ(outreach)は、英語で「手を伸ばす」という意味。元は社会福祉の分野で、助けが必要であるにもかかわらず自ら申し出ない人たちに対して、公共機関などが積極的に働きかけ、支援を届けることを指した。困難な状況にありながら支援の必要性を自覚していなかったり、相談意欲がなく支援拠点に来ない人の場合、そのまま取り残されたりすることが多かったため、潜在的なニーズを発掘する手法として開発された。

近年、さまざまな分野でアウトリーチの必要性が認識され、その内容は広がりを見せている。例えば、ニートや引きこもりの若者に対する家庭訪問、子育ての孤立感や不安感の解消を目指す子育て支援、精神的不調を抱える人に対して精神疾患の悪化や自殺を予防するための訪問支援などである。

待っているのではなく、こちらから手を差し伸べるアウトリーチという手法は、芸術分野でも活用されており、音楽では公共ホールが学校や地域にプロの演奏家を派遣して、ミニコンサートやワークショップを開催。このような“出前コンサート”は、ひいては音楽に関心のある層を増やし、公共ホールの活性化にもつながる。

また、研究者や研究機関がその成果を広く国民に公開し還元する活動も、近年ではアウトリーチと呼ぶことが多い。国も「科学技術に関する説明責任と情報発信の強化」の一環として、アウトリーチ活動の推進をうたっており、2010年には1件あたり年間3,000万円以上の公的研究費の補助を受けた研究者には「国民との科学・技術対話」を積極的に実施すべしとの基本方針も出されている。

具体的には、研究者が一般の人に研究内容・成果を分かりやすく伝えたり、対話などで双方向のコミュニケーションを行う活動で、科学について気軽に語り合うサイエンスカフェ、公開講座やシンポジウムなどのイベント、インターネットや書籍などによる一般向けコンテンツの発信などがある。

必要なら来るだろうという、いわゆる殿様商売的な待ちの姿勢から、必要とする人のところに自ら出向くという発想の転換。公共機関がその方向に大きく舵を切った意味は大きい。


今月の「アウトリーチ」なアーカイブス
「大阪大学21世紀懐徳堂」
画像 「大阪大学21世紀懐徳堂」

国立大学法人大阪大学は、アウトリーチ活動を熱心に行っている大学の一つ。同大学では、市民と大学が共に学ぶ場として「21世紀懐徳堂」を設立。ここが中心となり、公開講座やサイエンスカフェ、シンポジウムなどを企画・運営し、同大学の高度な研究と教育の成果、文化的資源を広く社会に還元している。気軽に教養を身に付けられる「i-spot講座」、会社帰りに寄り道感覚で参加できる「ラボカフェ」、コーヒー片手に研究者と語り合う「サイエンスカフェ@待兼山」などメニューは多彩。