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明日につながる基礎知識

第26回 知っているようで知らないこのワード 「弱い紐帯の強さ」 よわいちゅうたいのつよさ The strength of weak ties画像 イラスト

「弱い紐帯(ちゅうたい)の強さ」とは、1973年にスタンフォード大学社会学部教授のマーク・S.グラノヴェター(Mark S. Granovetter)が、“The Strength of Weak Ties”という論文で発表した社会ネットワークの概念である。
これは、家族や親友、職場の仲間といった社会的に強いつながりを持つ人々よりも、友達の友達やちょっとした知り合いなど社会的なつながりが弱い人々の方が、自分にとって新しく価値の高い情報をもたらしてくれる可能性が高いという説である。

社会的に強いつながり(=強い紐帯)を持つ人々は生活環境やライフスタイル、価値観などが似通っているために、自分と同じ情報を持つことが多い。一方、つながりが弱い(=弱い紐帯)人々であれば、自分とは違ったライフスタイルや価値観などを持つので、思いもよらない情報を与えてくれる存在になりうるというのだ。
また、強い紐帯を持つグループは関係が緊密であるが故に外部と遮断されがちで、新規の情報が入ってきづらい。そのような状況にある時、弱いつながりが強い紐帯のグループ同士の橋渡しをし、新しいアイデアや重要な情報をもたらす道を開くという。

この考え方は、社会ネットワーク理論において新たな視点をもたらすとともに、企業経営や研究開発の分野においても注目されることとなった。異業種交流や産官学連携などは弱い紐帯を利用して多様性を高め、イノベーションを起こす試みと言えるだろう。
近年、いくつかの企業や大学では、所属や専門性、年齢などに関係なく、対話を通じて問題解決したり新しいアイデアを生み出す場として「フューチャーセンター」を開設している。また、千葉県柏市北部の柏の葉キャンパスタウンでは、「環境エネルギー」「超高齢化社会対応」「経済再生」という大きな社会的課題を解決するため、公・民・学の7団体を中心とした共同運営によって街づくりに取り組んでいる。

一般の個人の場合も、ソーシャルメディアの普及が弱い紐帯の形成を促し、それまで知り得なかった情報の入手に一役買っている。ネットを介して緩くつながる絆にも注目したい。

今月の「弱い紐帯の強さ」なインフォメーション
残響shop」のブラインド試聴
画像 残響shop

本でも音楽でも、人は中身でなく、その外見や評判に影響されやすい。例えば、ベストセラーという触れ込みやアーティストの知名度、同じ趣味を持つ人からの推薦…、こういった情報は人が新しいものに出合うチャンスを阻害する要因ともなる。東京・渋谷に店を構えるCDショップ「残響shop」はブラインド試聴というプロモーションを実施し、CDの売り上げを伸ばしている。ブラインド試聴とは、アーティスト名やタイトル、ランキングといった情報を一切与えず、来店者は無地の試聴用サンプルCD-Rを聞いて購入を決める。偶然が与えてくれる新しい価値の発見―、このプロモーションは人を強い紐帯から解放するきっかけを提供しているとも言えるだろう。

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