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世界IT事情

第3回 フランス、ボルドー発 「フランス国鉄はハイテクがお好き」

道具は同じでも、使う人が違えば、その反応も違うもの。「世界IT事情」では、世界各国のお国柄をご紹介しつつ、人々のITとの関わり方を、生活者の視点でご紹介していきます。 今月は観光地として日本人に絶大な人気を誇る、フランス、パリからお届けします。

「フランス国鉄はハイテクがお好き」
フランス流IT化はひたすらに大胆

不機嫌なラテン人。フランスのサービス業務はその一言に凝縮される。不必要な愛想は振りまかない、がその割に仕事は緩慢で、同僚とおしゃべりしながらの接客も珍しい光景ではない。かくしてこの国ではスーパーのレジ、郵便局、駅の切符売り場と、あらゆる場所で客は待ち続け、その数は累積されていく。「お客様はカミサマ」の国から来た当初は不便に感じる事も多かったが、案外慣れるものだ。そして実はフランス国鉄はハイテクがお好きで、そのオンラインサービスはなかなかのものであった。

自動券売機前の少年2人組、バックパックでバカンスに出かける。

1993年、フランス国鉄は、その名も「ソクラテス」という情報処理システムを鳴り物入りで導入した。フランスで80年代から普及していたミニテルと呼ばれるヴィデオテックスシステムを介して、時刻表、運賃、座席予約などといったサービスをオンラインで提供する物だ。さすがにミニテルで支払いまで処理するのは難しく、与えられた予約番号を持って駅の窓口で切符を購入する。駅構内にも自動券売機が設置され、長蛇の窓口に並ぶのが嫌な人は自分で切符を発券、購入する事が可能になった。もちろんミニテルで予約した切符もこの券売機から購入する事ができる。しかし、フランス全土の予約、発券を一手に扱うシステムの導入は、空前絶後の大混乱を引き起こし、フランス国鉄はその復旧とシステム改善に数年を費やした。社員教育や事前調査がまだ不十分なうちに、こんな大きな中枢システムを見切り発進させてしまったからだと言われているが、そういう大胆ながら抜けている所が何ともフランスらしい。

その後98年からインターネットでの予約・オンライン購入も可能となったこのシステム、今は、かなり便利なものとなった。出発日を選び、出発駅と到着駅、出発もしくは到着希望時間を入力するとたちまちに時刻表と料金が出てくる。割引設定も大家族割引、若者割引、シニア割引、障がい者割引(付き添いの人にも割引が適用される)、週末往復割引、早期購入割引など多様で、ネット上で自分に合った割引を選びその場で購入できる。今まで通り、予約番号を持って駅で切符を受け取る事もできるが、最近では出発日までにある程度の余裕があれば無料で切符が配送されるサービスや、自分のプリンターで印刷するタイプまである。これを利用すれば、日本からでも「パリから2泊3日のフランスプチ旅行」計画が簡単に立てられ、割引も利用でき、切符を宿泊予定のホテルに送付するなり、あるいはプリントアウトして持参するなりが簡単にできるのである。プリントアウトは解像度300dpi以上でA4サイズの白紙にプリントする事になっているが、裏紙を使っても別に怒られたりしない。切符には乗客の氏名と生年月日が記され、バーコードが入っている。車掌さんに身分証明書を見せて本人である事を確認する。この切符、駅で列をつくる必要もなければ、他の切符のように乗車前にコンポストゥールと呼ばれる機械で刻印をする必要もない。駅に到着したらスグに列車に飛び乗れる優れものだ。

切符だけじゃない! 旅の仲間も見つかります

最近のフランス国鉄は 、「 SNCF 」のロゴを始め、自動券売機やコンポストゥールなどのデザインを一斉に新しくし、駅構内もインターネットのサイト内もピカピカと光っている。2003年にはパリ北駅がWIFI Gare(無線ネット接続駅)になったのを皮切りに大都市の主要駅が続々とWIFI Gareに「昇格」しているし、04年からはインターネットのみで予約、購入が可能、その時の予約状況と座席の数によって値段も変動する 「iDTGV 」というサービスも始まった。この iDTGV 、静かに旅行したい人はiDzen(この「zen」はもちろん「禅」に由来)と言うカテゴリーで予約をすると、車内販売が無く、12歳以下の子供やペット連れのいない車両になる。楽しく旅行をしたければ iDzapを選べば良い。 サイトを介して「パリからボルドーに行く間、トランプを一緒にする人を探しています」など事前に旅友達探しもできるし、車内では DVDやゲームの貸し出しもある。

プリントアウトタイプの乗車券の見本。

次から次へと新しいサービスを打ち出し、フランス国鉄はIT路線を突っ走っているように見える。それでも2004年の7月、バカンスも真っ最中という時期に予約システムのバージョンアップをしたところ、不具合が発生、約2日間にわたりシステムがダウンし、駅には切符を求める人が詰めかけ「馬がひっくり返って蹄が空を向く騒ぎ」(リベラシオン日刊紙)なども起こっている。
フランスの駅構内では 相変わらず有人券売所にも、3台に1台は壊れている自動券売機の前にも列ができている。インターネットに押されて影の薄くなったように思えるミニテル愛用者も健在だ。そして自動券売機の近くでは日々多様化する予約システム操作にまごついている人に親切に指導するハイテク物乞いさんの姿も見られる。この国の光景はIT到来と言っても、簡単には変わらないのである。

特派員プロフィール

小笠原めい(おがさわら・めい)
1995年渡仏、パリに暮らした後、2003年よりボルドー在住。今さらフランス、されどフランス。なんだかんだと言いながらもやっぱり楽しく美味しいフランスよもやま話をいくつかの媒体を通して日本に発信している。フランス生活一般に加えて、美術、考古学が得意分野。

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