ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。
COMZINE BACK NUMBER

世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう!第61回 スウェーデン、ストックホルム発

北欧、スカンジナビア半島に位置するスウェーデンは、国連の人間開発指数ランクで毎年10位以内に入る先進国だ。世界経済フォーラムのレポートでもその国際競争力は世界第2位に位置するとされた。高い税金に支えられた高福祉国家のスウェーデンは環境問題にも真剣に取り組み、完全持続可能な社会の実現を目指している。首都のストックホルムには産学官連携の新クリーン都市開発などが目白押し。廃棄物の管理や再生可能なクリーンエネルギーなどの環境技術が輸出産業としても成長しつつある。

世界が注目! CO2排出量85%削減を目指した家族

画像 リンデル一家

リンデル一家は、ストックホルムの中流家庭。母アリシア51歳(保育園副園長。現在、園長になるための大学に通っている)、父ニルス52歳(自営コンサルタント。休日はテニス三昧とか)、長男ヨナタン13歳(中学1年生ギターとドラムの演奏、それにコンピュータゲームにはまっている)、長女ハンナ16歳(高校1年生。ビジネス系コースを選択。乗馬が趣味。一番大切なものは友達)

生活を「1トン」にしよう!

環境先進国のスウェーデンでもマスコミなどで話題になったのが、今回ご紹介する「1トン・ライフ」というプロジェクトだ。この「1トン」は、1人当たりのCO2年間排出量を指している。現在、スウェーデンの1人当たりのCO2平均排出量は7.3トンだから、7分の1以下を目標にしたということになる。各分野の民間企業に官学も参加して行われたこの実験プロジェクトは、実際にある家族に協力してもらい、気密性、断熱性の高い省エネ住宅に引っ越して、クリーンエネルギーの電力で走る車を使用し、家族のCO2排出量を80%減らそうという大胆な企画だった。
テストファミリー、リンデル家はニルス、アリシア夫妻に長女ハンナ、長男ヨナタンの4人家族。「1トン・ライフ・ハウス」に転居する前は、築34年の一戸建てに住み、古いガソリン車を2台所有していた。引っ越しに加え、車は電気自動車に、電気は水力発電の電力のみを使用。家電製品、毎日の食事や買い物にまで細かく気を配り、目標達成に向けて約6ヶ月間のプロジェクトに挑んだ。

リンデル家は、残念ながら目標の1トンは達成できなかったものの、合格点といえる1.5トンまでCO2排出量を下げることができた。もともとの7.3トンから比べるとかなりの削減と言える。加えて、このプロジェクトによって、いろいろと分かったことがある。

画像 省エネ住宅 1トン・ライフ・ハウス

1トン・ライフ・ハウスは、省エネ、環境にやさしい機能に徹底的に配慮してデザインされた家だ。南壁と屋根には太陽電池を貼り、窓やドアは最新技術で徹底的に気密性を高め、壁も断熱に最大限配慮して設計されている。セントラルヒーティングシステムは料理や家電からの廃熱以外に、人体からの放熱も逃さず、再利用するようにできている。

暮らしを変えることなく、環境に優しくなれる

まず、家族が今までの生活や習慣を変えることなく、技術や使用エネルギーの種類によって抑えることのできるCO2排出量レベルは約2トンだということ。これを快適なレベル、つまりコンフォート・レベルと呼べるとすれば、極限レベルの1.5トンまで下げるには、食事の内容を変え、買い物を控え、外食もやめるなど、家族が普通にしていた生活習慣を変えなくてはならない。「一番大きな違いは、牛肉と牛乳を摂る量をかなり控えたことかしら。徹底的にエコな食事法も試してみたけれど、年に2週間以上は続けられないと思ったわ。」とアリシアさんは当時を振り返る。牛肉は環境への負担が大きいとはいえ、やはり食事の内容まで変えるのは簡単ではないらしい。
しかし、そこまでしなくても、2台あった車を1台にし、できるだけバスや電車に乗るとか、節電タイプの家電や省エネ住宅、ソーラーパネルを利用してクリーンエネルギーを買うといった、生活をあまり変えずに済むコンフォート・レベルでCO2排出量を60%以上も減らすことができるという手応えを得たのは、明るいニュースだろう。
さらに1トン・ライフに参加したシャルマース工科大学では、実験データを分析して、もしリンデル家を40年後の世界に移してみたらという仮説を提示している。40年後の電力供給は水力発電、風力発電がメインになり、バイオマス発電と原子力発電、太陽電池が少し補うといった形になると想定。自動車はほとんど電気かバイオ燃料で動かすことになり、ガソリンの需要は減るだろうと考えている。放出されるCO2を埋設処理する技術も発達しており、その結果、2050年には1人当たりのCO2排出量は年間2トン程度になっているだろうとのこと。リンデル家が経験したような実験プロジェクトを行なえば、極限レベルで0.5トン近くまで排出量を下げられるという結論を導き出している。
1トン・ライフのプロジェクトには、住宅、車、家電、食料、電力など幅広い業種の企業が参加しており、社会の認知度や注目度はかなり高い。環境先進国であるスウェーデンの取り組みを見ていると、いつか「CO2排出量ゼロ」が実現できてしまうような気がする。

特派員プロフィール

中妻美奈子(なかつま・みなこ)
2000年よりスウェーデン在住。フリーランスのレポーターを経て、現在はICT企業の広報を担当。社会福祉、ハイテク、スカンジナビアン・デザインやモード、ポップ音楽などスウェーデンには様々な顔があるが、特にビジネス系のレポートを発信している。

Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]