世界IT事情第9回 アイルランド、クレア発 「欧州きってのIT立国」道具は同じでも、使う人が違えば、その反応も違うもの。「世界IT事情」では、世界各国のお国柄をご紹介しつつ、人々のITとの関わり方を、生活者の視点でご紹介していきます。 今月は、この国出身のミュージシャンには日本でもファンの多い、アイルランドからお届けしします。日本ではあまり知られていない国アイルランド。私がこの国へ移住した1990年代後半、友人知人たちは、こう聞いてきたものだった。「アイルランドって北欧だから極寒の国だよね!大きな温泉があるんでしょ」。それはアイルランドではなく「アイスランド」なのだが、そのアイルランドはつい30年ほど前まで、欧州の中でも最貧国の一つとまで言われる国だった。何世紀もの間、隣国イギリスとの間に確執があり、更に19世紀には、この国の主食であるジャガイモに伝染病が発生して大量に枯れてしまい、百万人ほどのアイルランド人が餓死したといういわゆる「ジャガイモ飢饉」が起こったためだ。この時、生き延びた者も次々とアメリカなどへ移住していってしまった。
しかしITの出現によって、アイルランドは劇的に変化した。企業誘致のために税金を優遇したという政策に加えて、アイルランドは英語が公用語の一つであり、しかも地理的にちょうどアメリカとアジアの真ん中に位置するなど様々なメリットがあった事から、1980年頃からIT関連のベンチャー企業がアイルランドに進出するようになり、その後1990年代までIT投資の大きな波が押し寄せたのだ。それまで農業が中心だったアイルランドだが、今や世界のトップIT企業始め、何百社という海外IT企業がアイルランドで先進技術分野の活動を展開するという、まさに「欧州きってのIT立国」となったのである。IT事業がアイルランドに多く入ってきたことでオフィスワーカーも増えて、ビルの建設も進んだ。もちろん失業率も大幅に低下した。 そして、それに付随して新たな問題が出てきた。皆が車を購入し始めたのは良いが、自動車税の納税や車検に関しては無頓着で、納税の義務を怠る輩がその分増加したのだ。そもそも車検制度だって法律化されたのは2000年と最近のことで、それまではどんな劣悪な状態の車でも堂々と道路を走り回れたのである。良い言い方をすれば大らかで細かいことにはこだわらない、そして悪い言い方をすれば、時間にルーズと言われるアイルランド人なので、わざわざ税金や車検代を払うために期日までに役所に赴くとは考えにくい。催促をされれば「多忙で払う暇がなかった」などと言い訳をするだろう。実はパブでサッカー観戦するのに「多忙」な場合もあるのだが…。
だがまだ課題があった。IT立国であるはずのアイルランドなのに、一般家庭においてインターネットなどのインフラ設備は未だ整っていない。例えば、日本では2007年のブロードバンド普及率は50.9%(出典:『インターネット白書2007』)だが、アイルランドでは31%(『Finfacts
Ireland』)。ちなみにEU(欧州連合)の平均が42%とアイルランドはEUの平均すら下回っている。ダイヤルアップ接続でインターネットをする家庭もまだ多いようだ。
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