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第34回 ポーランド、グリビツェ発

「気軽な法律相談サイトが密かな人気」

二人いれば三つの意見があるというお国柄だけど…
弁護士事務所

弁護士事務所の玄関。看板も地味だが、このドアを開けるのはなかなかに勇気がいる。

「三人寄れば文殊の知恵」というのは日本の発想。人が集まれば物事が解決するとも言い切れないのがポーランドだ。この国では「二人のポーランド人のいるところ、三つの意見あり」という諺があるが、実際、ポーランドではつくづく、人が集まれば集まるほど、意見がまとまらない。とにもかくにも、自分の意見を通そうという人が多過ぎる。それだけ意見にまとまりがないなら、殺伐とした訴訟社会だろうと思われるかもしれないが、意外やそうでもない。

なぜなら、ポーランドでは中都市以下の町になると、なぜか共通の知り合いや友人がいるという人が多く、小都市になると「友達の友達は、みな友達」を地で行くような地域も多くある。私の住んでいる人口20万人弱の都市でさえ、初めて会った人と共通の知り合いを探そうと思えば、結構簡単に見つかる。当然、いろいろな場面で縁故が力を発揮する社会でもある。
それに加えて、この国の人々は非常に面子を気にする一面があるので、問題を法的に解決するよりは、話し合いで解決したほうが見た目に良いのでは、と思っている節がある。   
そうなると、実際、法的なアドバイスが必要な場面でも、特に小さな町に住んでいると、なかなか法律事務所の高い敷居をまたぐ気にはなれないようだ。

そんな問題を解消するべく、昨年春から『i-相談所』というポータルサービスが始まった。民間と政府が協力して行うインターネット上での法律相談である。このポータルサービスでは、質問事項と回答送付先のメールアドレスを記入しておけば、資格を持った弁護士から法律的なアドバイスを直接メールでもらえるというものだ。名前や年齢など個人情報を書き込む必要は一切なし。完全なる匿名で、遺産問題から民事訴訟に関わることまでアドバイスをしてくれる。今まで、周りの目が気になるために法律事務所を訪問できなかった人には、非常に有り難いサービスだ。
また、ポーランドは近年、ヨーロッパ諸国の中で唯一プラス経済成長を見せているとはいえ、一般労働者の賃金はまだまだ低い。そのため費用のかかる法的な相談をためらうケースもある。だが、法律を知っていれば避けられる不幸もあるはずだ。そのような社会的視点から国の補助金を得て始まったこの『i-相談所』だけに、このプログラムに賛同したボランティアの弁護士への相談料は無料だ。

大盛況!インターネットの法律相談所
i 相談所サイトトップ

『i-相談所』のホームページ。「インターネットでの相談」のところをクリックすると相談内容と返信先のアドレスを書き込むスペースが出てくる。ここに書き込んだら、あとはアドバイスを待つのみ。

もちろん、これが可能なのも、インターネットの相談だからである。弁護士はわざわざ相談者のために時間を作る必要がなく、空いた時間を利用すれば良く、また弁護士達はこのプログラムを通じて自分の名前、事務所なりをアピールすることにもなっている。

ただ、2009年の統計ではポーランド全家庭の59%に、インターネットに接続できる環境があるとのことだが、私が見る限り、年齢差があるようで、若い世代では80%以上が家庭でインタネットにアクセスできる環境があるようだが、50代以上のみの世帯になると、コンピュータの所有率はぐっと下がる。

ところが、この『i-相談所』は、さすがに国が関わるサービスだけあり、インターネットに簡単にアクセスできる環境にない人達に対しても、ちゃんと受け皿が用意されている。このサービスは南ポーランドを中心に始まったサービスなのだが、これら地域ではインターネットに接続できる端末を市役所内で一般に開放した。そこで、アドレスとパスワードを自分で作れば、晴れて『i-相談所』が利用できるという仕組みである。
これまでにも、弁護士団体による無料法律相談会など、時折開かれてはいた。しかし、無料とは言っても、見ず知らずの人を目の前に、自分の私生活の問題を話すというのは、ポーランド人にとっては、なかなか難しい。私の友人に、離婚裁判をもう3年間続けている女性がいる。弁護士もすでに数回、必要に迫られて変えたそうなのだが、その度に普通なら他人に言わないであろう、プライベートなことを話さなければならないので、それが苦痛でたまらないそうだ。
その点、このサービスなら、匿名で相手も見えないので精神的にはかなり楽だろう。自分の書いたものを何度も読み直し、落ち着いて相談ができるのがどうも人気の理由らしい。
2009年3月に始まった『i-相談所』のサービス、同年末までには1,500件以上の利用があったとのこと。どうやら、人の意見に耳を傾けるポーランド人も少なくないようである。

特派員プロフィール

ソルネク流由樹(そるねく・ながれ・ゆき)
2001年に日本を出て2004年からポーランド在住。現地で会社員生活を3年体験した後フリーライターとなる。愛犬シェパードをつれて森を歩くのが憩いのひと時。
日常の呟きはhttp://blog.goo.ne.jp/yukiatkoで。

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