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第37回 オランダ、アムステルダム発

「現金が消える?!カード天国.オランダ」

カードなくして外出はままならず
OVカードの使い方

OVカードの使い方を簡単に示したもの。非常に使いやすい、という触れ込みだったのだが、昨今、このカードのトラブルが国会でも取り沙汰されている。

2009年の世界的な金融危機以来、オランダでも予想外に不況が長引いている。国民は、財布の軽さを嘆いているのだが、最近、別の側面からも私達の財布が軽くなってきた。というのは、ここ5年の間に、人々が現金を持ち歩く機会が極端に減ってきたからなのだ。

「財布が重くなる!」「お釣りの計算に手こずる!」などなど、さまざまな理由から敬遠される存在なのが、ユーロの小銭だ。欧州全般で使用されている5、10、20、50の他、オランダでは1、2セントも含めて計6種類が使用されている。サイズの違う各コインは識別しやすく、使い心地の良さがウリのはずだったのだが…。小銭だけではなく、ユーロ紙幣もよく槍玉に上がる。こちらは5、10、20、50、100 、200、500ユーロの7種類で、サイズが全て同じであることからとっさの支払いに間違った金額を支払ってしまう等の苦情が絶えない。また、50ユーロ以上の紙幣を使って支払おうとすると「釣り銭が足りないから」と受け取りを拒否されることもある。

せっかちなオランダ人には、こういう不便が我慢ならなかったようで、支払いはすべてカードで簡単に済ませたい!と考える人が急増している。将来的にオランダでは、現金が完全になくなるとまで思っている人も少なくない。大手銀行のオンライン送金は8年前から一般化しているが、国内最大手通信企業では、今年2月から全店舗で現金を一切受け付けず、支払いはカードのみとなるなど、現金のやりとりが急速になくなりつつあるのは確かだ。盗難に遭いやすく危険というのも、現金が敬遠される理由の一つだ。オランダの法務省が被害を最小限に食い止めるため、カード使用を奨励しているほどだ。

電車でもバスでも、現金離れが加速
オランダ大手3銀行発行のカード

オランダ大手3銀行発行のカード。これさえあれば、現金を持参せずとも支払いは簡単。

また公共の乗り物の運賃支払いには、4年前から専用のOVと呼ばれるカードが導入され、小都市の無人駅では現金で切符を購入することができなくなった。人口1,500〜5,000人くらいまでの市町村には無人駅が多く、改札口にある券売機で切符を購入するのだが、この販売機では、現金の支払いを受け付けていない。アムステルダムなど観光客の多い都市では、現金が使える窓口もあるものの、駅の隅の非常に見つけにくい場所にあり、しかもいつも長蛇の列が出来ているため、ほとんどの旅行者は列車やバスを使うことをあきらめてしまう…。

現金がなくなり、全てカードで支払いが出来ることは、フイ.イデー(オランダ語で、「グッドアイデア」の意)なのだろうか? オランダ人に聞くと「カードが一番!面倒くさくないのが何より!」と異口同音に答える。

私も、財布に小銭を入れずに生活して約10年が経った。支払いの際にいちいち勘定する必要もなく、お釣りの間違いにイラつくこともない。命取りになるような強盗にあったこともないし、身軽に買い物ができるのが嬉しい。オランダ人の知人たちも、まず小銭は持ち歩いておらず、お釣りで小銭が出ても、Spaarpot(スパーポット:貯金箱)へ入れてしまう。

日本でも電子マネーなどが普及して現金を使わない場面が増えているが、オランダは現金離れに拍車がかかっている。快適に使用できるまでの困難をいとわず、一方では面倒くさいのは大嫌い、ムダを省き、ややこしさを排除するとう目的を達成することに執念を燃やすオランダ人の性質を考えると、なるほどと深くうなずけたのだった。

特派員プロフィール

カオル フリードリヒス(かおる・ふりーどりひす)
在蘭13年のフリーライター、ジャーナリスト。政治経済問題・衣食住・観光・芸術からエンタメに至るまで、オランダの最新情報を各メディアに発信中。
ブログ: http://kaorufriedrichs.blogspot.com/

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