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第40回 ペルー、リマ発発

「システムエラー回避のために必要な第2の名字」

父方、母方の姓の組み合わせで個人を識別
長距離バス会社の入力画面

外国人観光客も多く利用する長距離バス会社の入力画面。「Apellido paterno/父方の姓」、「Apellido materno/母方の姓」の入力欄があるが、母方のほうは必須項目にはなっていない。

ペルー人の氏名は、1つないし複数の名前+ 父方の第一姓(パテルノ)+ 母方の第一姓(マテルノ)で構成されている。結婚しても夫婦は別姓のままで、子供には父母それぞれの第一姓が与えられるため親子の姓も同一ではない。例えば、父親がホセ・アントニオ・ロペス・サンチェス、母親がマリア・ローサ・トーレス・ルッソだった場合、この二人の息子の名はファン・カルロス・ロペス・トーレスとなる。現ペルー大統領アラン・ガルシア・ペレスの場合、最初の結婚で1人、現在の妻との間に4人、その妻との別居中に出来た息子が1人と合計6人の子供がいるが、当然ながらそれぞれのマテルノは違う。誰が父親で誰が母親か。自分のルーツがはっきりと分かるこの方式は、「ホセ(キリストの養父ヨセフ)」や「ロサ(聖女ロサ)」など聖人由来の似たような名前が多いペルー人にとって、個人を区別するためにとても重要なのだ。

そんなペルー人から見ると、日本人のように名字が1つというのはどうも違和感があるらしい。なぜ母方の姓も名乗らないのか、たった1つでどうやって個人を識別するのかと言うのである。私としては名字だけにこだわらず、もっとバラエティ豊かな名前をつけてもらいたいと常々思うのだが、どうもそれとこれは別らしい。例えば、自分の息子に敬愛する兄の名をつけている友人がいる。兄のことは「アルトゥーロ」、息子は「アルトゥリート(小さいアルトゥーロの意)」と呼んでおり、ややこしいことこの上ない。しかし友人いわく「名字で分かるから大丈夫」とのこと。確かに家族内で同じ名字になるのは兄弟姉妹だけだから、親子間や親戚内で同じ名前をつけても問題ないとは言えるのだが…。

そんなペルーでは役所の手続きから企業のウェブサイトにいたるまで、ほとんどの場合パテルノ・マテルノ双方の記入が求められる。航空会社などさまざまな外国人を相手にする企業では「名前+第一姓」で問題ないが、多くは自国民の氏名に対応したシステムで設計されており、苗字のどちらかを空欄にしているとエラー扱いになってしまう場合が少なくない。そのエラーを防ぐため、ペルー人は色々なものを入力する。

システムエラーを防ぐために、勝手に他人を改名!
ダイレクトメール

我が家に送られてきたダイレクトメール。こうしてみると、厳密にはすべて他人宛ということになるのだが、それでもなんとかなるのだから大らかなものだ。

例えばある企業から私に送られてきた手紙には、「Keiko Harada NN」と書かれていた。これは「名前なし」という意味だろうか。また「Keiko Null Harada」と記入されたこともある。他にも「Keiko Harada XXXXX」や「Harada X Keiko」というのもあった。仕方がないとも思うが、「Null」だけはどうかやめて頂きたい。

困るのは人の名字を勝手に反復してしまうことだ。「Harada Harada」と、本来1つしかない名字を便宜上パテルノ・マテルノ両方に入力してしまうのだが、これではパスポートや身分証明書と違う氏名になってしまう。しかしクレームを言っても「だってエラーになっちゃうんだもん」と気にも留めていない。身分証明書の提示を求められることが多いこの国では、「あなたの名前はどれ?ひとつだけ?」と質問されるのが日常茶飯事。少々うんざりもする。

更にある電話会社の担当は、名字を繰り返すどころか間違って入力してくれたようだ。我が家の場合、なんと登録名が「Harada Harado Keiko」となっている。「ハラド」さんとは誰だ?これではもう完全に他人であろう。自分たちの名字は大切だといいながら人のものは適当というのは、あまりにもお粗末な話ではないか。細かいことにこだわらない大らかさがペルー人の憎めないところではあるが、このパテルノ・マテルノにはいつもしてやられる。

ペルー経済がますます成長し、各国からの投資が増え外国人がもっと増えれば、航空会社のように名字1つの外国人にも対応するシステムが主流になるかもしれない。だが当面は担当者任せの状況が続くと思われる。世界には苗字のない国もあるが、その場合ペルー人がどう対応しているのか大いに興味のあるところだ。

特派員プロフィール

原田慶子(はらだ・けいこ)
2006年よりペルー・リマ在住。フリーライターとしてペルーの観光情報からエコやグルメな話題など幅広く執筆、NHKを始め多くのラジオ番組にも出演。自身のブログでリマの日常を発信中。http://www.keikoharada.com/

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