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世界IT事情第6回 カナダ、ウィニペグ発 「ITが支える自由なワークスタイル」道具は同じでも、使う人が違えば、その反応も違うもの。「世界IT事情」では、世界各国のお国柄をご紹介しつつ、人々のITとの関わり方を、生活者の視点でご紹介していきます。 今月は、日本からの移住も多く、住みやすさに定評のあるカナダからお届けします![]() ![]() 私は、カナダ人と結婚して、小麦畑が見渡す限り地平線まで広がる都市郊外の小さな町に住んでいる。夫は、ここ10年間、自宅のオフィスでコンピュータ・プログラマの仕事をしている。 幹線道路沿いの柵の向こうで何十頭の牛が草を食んでいる。黄色いスクールバスが子供たちを迎えに来て学校に行ってしまうと、会社員である夫は、コーヒーカップを片手に持って出勤。10歩、歩けばオフィスに到着する。夫は毎朝「オフィス」に着くと、Eメールのチェックと返事を書くのに1時間程を費やしている。そう、夫のオフィスは自宅の書斎。彼は会社員でありながら、在宅勤務をしているのだ。
コンピュータ・プログラマの仕事は一人でコンピュータに向かってキーボードを叩く孤独な時間が長いが、大きなプロジェクトは、マネージャーや他のプログラマと連携して仕事を進めていかなければならない。以前、正社員として働いていた会社は、社員全員が在宅勤務。あるプロジェクトのメンバーは、アメリカの東西海岸、南部のテキサス州、カナダとそれぞれ数千km離れた所に住んでおり、2ヶ月に一度、全員がカリフォルニアにあるオフィスに集まって顔を合わせて会議をするが、普段は一週間に一度、全員が同じ電話番号に電話をかけて、電話会議を行うという仕事の進め方をしていた。まとまった要件はEメールで連絡、仕事中は常時インターネットのチャットでやりとりする。皆、仕事柄、タイプを打つのは速いので、普通の会話をしているのと同じぐらいの速度で会話が進められていく。コンピュータのモニタの上にウェブカメラを置いて、仕事仲間の顔はもちろんのこと、部屋の散らかり具合、飼っている猫も覗き見ることができる。 ![]() ITの恩恵に最大限に与っているのは、都会に住んでいる人よりも、むしろ地方生活者なのではないかと思う。インターネットの求職サイトで自分の技能に合った仕事を探して、Eメールで履歴書を送る。ITの仕事はやはりシリコンバレーを中心にカリフォルニアに集まっているが、先方に赴く必要はない。仕事の内容、給料、在宅勤務で一ヶ月に一回は出張などと、細かい勤務形態の交渉は電話やEメールでする。交渉次第で、在宅はもちろん勤務形態もいろいろと融通が利くのは、やはりカナダらしい。 在宅で仕事をするメリットは多い。通勤時間がゼロなので、自分の時間、家族と過ごす時間が増える。交通費がかからない。普段は通勤用の服もいらない。専用の仕事部屋を用意する必要はあるだろうが、それも地方に住むと、比較的簡単に確保できるだろう。
在宅勤務にもいろいろあって、知り合いの女性は、専門学校の講師として初等教育コースを担当しており、自宅からインターネットで講義を行っている。このコースを終えた学生は保育士の資格が取れるのだが、彼女は、これまで車で30分かけて学校に行き、この講義を行っていたそうだ。だが、彼女自身、家の近くの保育所に子どもを預けているので、自宅から講義を行えるようになって、安心して仕事に取り組めるようになったという。都会に暮らす人も、毎日の交通渋滞にうんざりして、在宅勤務を取り入れる会社が増えている。例えば木曜日までオフィスに行って、金曜日は家で書類の整理などをするのだ。夫の友人曰く、金曜日は在宅勤務をする人が増えてラッシュ時の混雑が減ったので、在宅勤務日を月曜日に代えてもらったそうだ。車を使わないから環境にも良いとは彼の弁。 夫が在宅でITの仕事を始めた10年前はまだ珍しかったので、カナダのテレビ局が取材に来て、在宅勤務の先駆けとして全国ネットで紹介された。アナウンサーは、これから在宅勤務が増えていくだろうと、そのレポートを締めくくっていたが、予想通り、家庭用コンピュータの性能が上がって、価格が下がり、インターネットが一般的に使われるようになって、家にオフィスを持つ人が増えた。カナダも日本と同じように、結婚年齢が上がり、出産率が下がっている。在宅勤務の広がりが家庭に目を向ける後押しになれば、少子化も引いては高齢化社会にも少し歯止めがかかるだろうか。
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