カフェやバーなどでゆったりとした時間を過ごす文化の残るハンガリー、街角では昼間でもコーヒーやワインを飲みながらおしゃべりしている人々の姿が見られるだろう。その昔、ブダペストの「カーヴェーハーズ(コーヒーハウス)」は文化人の集まる場所だった。作家、詩人、作曲家、芸術家など、常連達が毎日のように通う店が何軒もあったのだと言う。
現在でも、老舗からモダンなカフェやバーまで、それぞれの店にさまざまな人々が集まる。誰もがお気に入りの店をいくつかは持っているだろう。市内にはカフェやレストランの集まる通りや一角が点在していて、春から秋にかけては、店先にテラス席も設けられて一段と賑やかさを増す。
日本ではあまり知られていないかもしれないが、ハンガリーはヨーロッパでも有数のワインの産地だ。気軽に飲める安くて美味しいハウスワインから、国際的なコンクールで賞を取る上質なワインまで、いろいろと揃えている店も多い。
ハンガリーらしいワインの飲み方のひとつに、ソーダ(炭酸入りの水、無糖)で割った「フルゥッチ」がある。ワインを水で割るなんて!と思うかもしれないが、気温が高くなるこの季節、さっぱりとした飲み心地は試す価値がある。昼間に軽く飲む時などにもおすすめだ。
おもしろいのはワインとソーダの割合によって、それぞれ名前がついていること。基本形はワイン200ccにソーダ100cc、これは「ナジ・フルゥッチ(大きなフルゥッチ)」とも呼ばれる。「キシュ・フルゥッチ(小さなフルゥッチ)」はワイン100ccにソーダ100cc、さらに軽いのが「ホーッスー・レペーシュ(ロング・ステップ)」で、ワイン100ccにソーダ200ccなど、好みの割合で注文ができる。フルゥッチは白ワインが主流だったが、ここ数年ロゼワインも人気が高まっている。
ブダペストでは多くの飲食店が無線LANを無料で提供している。ちょっと前は、無料の無線LANを示すポスターやステッカーが店先に貼ってあったりしたが、今では特に宣伝していなくても、たいていの店に整備されている。回線を利用するのにパスワードを設定している店では、店員に聞けばすぐに教えてくれるし、パスワードを設定してない店もあるので簡単にインターネットに接続できる。自宅にインターネットの回線がなくても、ブダペスト市内ではネット環境を探すのはそう難しくはない。店内ではノートパソコンを持ち込んで仕事をする人や、勉強する学生も多く見られる。
ここ数年、ブダペストで流行っているのが、人の住んでいない古い集合住宅の建物を利用した「廃墟バー」。取り壊しが決まっていたり、開発途中にある建物が期限付きで貸し出されることがあり、それを利用してバーをオープンするのだ。古い建物特有のどっしりとした石造りのファサードをくぐると、中庭にはバーカウンターがあり、粗大ゴミを拾ってきたかのような椅子とテーブルが並んでいる。建物の内部にミニシアターやアートギャラリーなどの多目的スペースを設けている廃墟バーもある。そして、ほとんどの廃墟バーには、そのボロボロと朽ちかけた外観によらず無線LANが整備されている。日中は薄暗い店内にモニターの光がいくつも灯っていて、長時間居座る客も少なくない。ブダペストの昔と今が交差するユニークな場所だ。
鈴木文恵(すずき・ふみえ)
ブダペスト在住のフォトグラファー+トラベルライター。ヨーロッパの真ん中に住んでいる地の利を生かして、ハンガリーはもちろん、周辺諸国を訪ね歩き、その土地の文化と生活、そこに流れる時間や空気をテーマに撮影を重ねている。www.suzukifumie.com