ホテルやレストラン、カフェ、ショッピングセンターなど、あらゆる施設が集まるリマ新市街随一の観光エリア、ミラフローレス区。緑豊かな公園がいくつもあり、人々の憩いの場にもなっている。昨年末、同区の公園数ヶ所で24時間無料Wi-Fiサービスが開始され、話題を呼んだ。
ファストフード店やカフェなど、リマでは多くの場所で無料Wi-Fiサービスが利用できるが、公園のような公共施設にサービスを導入した意義は大きい。人々は情報収集のためわざわざカフェに入る必要がなくなり、居心地のよい公園でのんびりネットサーフィンを楽しむことができるようになった。当初4ヶ所の公園でスタートしたこのサービスも、現在では8ヶ所まで拡大された。観光客にも好評で、同区への集客に大きく貢献している。
こう聞くと「ペルーのネット事情もなかなか」と思われるだろうが、さにあらず。ペルーの一般家庭におけるインターネット普及率はわずか18.9%、首都リマに限ってもたった35%だ。その原因は、諸物価と比較して未だ高額な家庭用ADSLサービス料金と、パソコン自体の価格にあると考えられる。
だからか、街中には「カビーナ」や「ロクトリオ」と呼ばれるインターネットカフェがあちこちにあり「自宅」にさえこだわらなければ安価でインターネットが利用できるのだ。ミラフローレスはリマでも一、二位を争うほど物価の高い区だが、それでも15分あたり0.5〜0.7ソレス(約15〜21円)、区の中心部から少し離れれば1時間1ソレス(約30円)という料金の安さ。気が向けばすぐインターネットにアクセスできる環境が戸外にあるため、家庭でのインターネット普及率は前年比でわずか2.7ポイントしか伸びていない。
このような背景から、自宅にパソコンがある家庭はまだ全世帯数の3割にも達していない。一方、携帯電話を1台以上持っている家庭はすでに8割を超えている。これはアンデスの寒村やアマゾンの小集落まで含めた統計であり、その所有率の高さには驚かされる。一人で複数台の携帯を持ち、相手のキャリアに合わせて使い分けるという人も多い。
そうした中、近年注目を集めているのがスマートフォンの台頭だ。2010年にわずか28万台だったスマートフォンの輸入台数は、わずか1年で約270%伸び、翌年には75万4,000台になった。販売店では今、売り場の大部分をスマートフォンが占めている。
日本ではもともとパソコン所有率が高く、国内の携帯電話が高機能なため、当初、スマートフォンの需要が伸びなかったという意見も耳にする。一方、パソコンより安価な上、好きな時間に好きな場所で気軽にFacebookやTwitterにアクセスできるスマートフォンは、ペルー人のニーズを満たす夢のようなツールとなった。さらにそこかしこで無料アクセスポイントが利用できるため、高額な通信費の請求におびえる心配もないのだ。
最近リマでは、戸外でタッチパネルを操作する人を至るところで見かけるようになった。スマートフォンの輸入台数はうなぎ上り。長い間庶民の味方だった街角のインターネットカフェは、そう遠くないうちに淘汰されていくだろう。
原田慶子(はらだ・けいこ)
2006年よりペルー、リマ在住。フリーライターとしてペルーの観光情報からエコやグルメな話題など幅広く執筆、NHKを始め地方のラジオ番組にも出演。自身のブログでリマの日常を発信中。
http://www.keikoharada.com/