
ICT先進国と呼ばれる韓国では、さまざまなものが日本以上に電子化されているが、学校教育もそのうちの一つ。現在は、教科書に、内容を収録したDVD「e-教科書」が一部付いてくるし、学校の授業も、教育庁が作った映像教材を利用してコンピューターで行われることが多い。今後、すべての教科書が電子化される計画もある。もちろん担任教師の席にはコンピューターがあり、教室には大型画面が設置されている。
この程度の設備なら、特別ICT教育に力を注いでいるわけでもない小学校でも各教室に整っている。宿題や翌日の予定などもクラスのホームページに掲載されるので、生徒は書き写さなくても家庭で閲覧できる。試験の範囲、先生からのお知らせなども同様だ。ネットを使って情報を発信するのは、学校側だけではない。読書感想文など子どもの宿題も、提出はネットへの書き込みのみ、という場合がある。
そういう状況だから、コンピューターを使えない子は学習に参加できないということにもなりかねないが、韓国では小学校低学年のうちから毎週コンピューター教育を実施しているので、基本的な操作ができないという子は見あたらない。当然学校には、そのための教育施設も設けられている。放課後、コンピューターの有料講習を受けられるようにしている学校も多い。経済的にコンピューターを買えないという家庭には、パソコンの購入や通信費に関して補助が出る。
教育大国として名高い韓国であるが、問題点も少なくない。まず都市に人口が集中して、都市部と地方には、経済的、教育的格差が生まれている。家庭での教育費も年々増大して家計を圧迫しているし、公教育の質の低下なども指摘されている。そうした問題を解決するのに一役買っているのがICTだ。地元の全羅北道では教育庁の取り組みとして、「全北e-スクール」というホームページを開設し、地方の小学生たちが学校の予習復習ができるようになっている。また韓国にはEBS(韓国教育放送公社)という公営教育専門の放送局があり、小学校、中学校、高校までの各学年の学習内容に応じたEBS制作の講義をインターネットで無料視聴できるようになっている。日本の放送大学などとも似ており、語学関係の講座など学生以外に一般の人も多く利用している。
わが家の子どもたちが通う小学校で昨年行われたのは「速聴」だった。学校のホームページにある高速音声を聞きとり、解答をホームページ上に入力していくことが、一年生を除いた全校生徒の宿題となった。地域によって取り組み方に違いはあるものの、韓国の子どもたちの教育格差解消にICTが大きく貢献しているのは間違いない。都市では、少しでも良い学校や塾を見つけて子どもを通わせることに母親たちは必死だが、都市に比べて教育環境の整わない地方でも、母親たちは地方ならではの教育情報をネットで一生懸命に探している。私も韓国ではソウルに3年、地方都市3カ所に数年ずつ住んできたが、どこにいっても教育熱心だった。「少しでも上を目指そう!」という上昇志向の強い、積極的な韓国人たちは、周囲から抜きん出るために努力する。速効性、即時性を好む韓国人にICTというツールが急速に浸透していった理由も納得できるような気がするのである。
中村恵実子(なかむら・えみこ)
1998年から韓国在住。韓国各地で居住し、家事育児をこなしながら、大学などの日本語講師や貿易会社に勤務。現在は韓国農村部に居住し、地元の新聞でコラム二スト兼記者、貿易コーディネーターとして活動。日本のメディアに向けても「韓流」だけでは見えない韓国の現実を発信中。
ソウルの教育ママ http://ameblo.jp/happy-seoul/