「キッチュ」という言葉がある。「一見、俗悪、異様なもの、毒々しいもの、下手物などの事物に認められる美的価値(ウィキペディア)」のことで、下らなくて、ばかばかしいけれど思わず笑ってしまうようなおかしさを見る人に与える。ある程度意図的にデザインされる場合もあるかもしれないが、多くの場合、作者は大真面目で、ただその意図が的外れであったり、度が過ぎていたり、不器用なために逆効果としてキッチュになったりする。モダンデザインの信奉者なら一笑に付したいところだろうが、そういう変なデザインがむしろ人の心をとらえて放さない魅力を持つこともあるのだから面白い。
ユニバーサルデザインは、基本的には人道的で、平等・公平を重んじる博愛精神にのっとってきちんと問題解決を図ろうという、真剣な取り組みなのだが、真面目なだけにともすると独善的になったり、押し付けがましくなったりしかねない。そうなると善意がかえって仇となって、気取れば気取るほど嫌味なだけだ。一方、何とか喜んでもらおうと、あれこれ一生懸命やるうちに、歯止めが利かなくなってついやりすぎてしまい、見るほうはばかばかしいような、微笑ましいような気持ちになる。そんなキッチュなデザインができるのも大真面目だからなのだ。
この消火器、実は良くできたデザインである。本体の重さや太さのバランスが良く、ホールドしやすい。持ったと同時に消火薬の放射方向が決まり、火元を狙いやすい。直感的に押しやすく、それでいて不用意に押してしまわない構造のロック解除ボタン。闇の中で光るグリップと、滑らずにしっかり引ける噴射レバーなど、デザインの基本構造がしっかりしている。スタンドとして使えるように考えられたパッケージなど、なかなかのアイデアだ。ところが、その優れて機能的なデザインに対して色やグラフィックの扱いはまるで別人格で、目玉のシールが用意されているに至っては、空いた口がふさがらない。そのギャップがたまらなくキッチュだ。
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