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江戸むらさき ニッポン・ロングセラー考 〜味にこだわって半世紀海苔佃煮のNo.1ブランド

日本独自の食材に返るという決断

創業者
若かりしころの創業者・小出孝男。満足のいく原料が入手できなかった戦中戦後は、看板の「花らっきょう」の製造さえ休止するほど、味にこだわったという。

炊きたてのご飯の上に、磯の香豊かな海苔の佃煮をのせて食べる――。
それは、日本人に生まれて良かったなぁ、と思う幸せな瞬間。

ご飯のお伴・海苔佃煮でトップシェアを誇る桃屋、その創業は1920(大正9)年に遡る。
桃屋といえば、和風・中華風食材を中心とした食品メーカーと誰もが認めるところだが、
戦前は「花らっきょう」や野菜のみりん漬けの他に、
桃やみかん、びわなどの“フルーツ缶詰”を販売していたという。
このフルーツ缶詰は、32〜33(昭和7〜8)年ころ、輸出で日本一の座を占め
同社の看板商品となっていた。

そんな桃屋が、なぜ海苔の佃煮を?
転機をもたらしたのが日本の敗戦だ。創業者で当時社長だった小出孝男は、
これからどうすれば桃屋が生き残れるのかを考えていた。
「フルーツ缶詰は欧米の食品メーカーの得意とするところ。
これからは、安い製品が大量に輸入されるに違いない。
値段で太刀打ちできない上に、缶詰は果物の収穫時期にしか製造できず、
在庫を持つリスクも大きい。果たして、欧米列強に負けない商品とは……」

悩み抜いた末、孝男が着目したのが、外国には真似できない日本独自の食材だった。
折しも食料品の統制が解除され、砂糖や醤油といった食材を調達する目処も立ち始める。
日本独自であること、さらに桃屋が出すからには品質にもこだわりたい――
そんなコンセプトの下に開発された新商品第1号が海苔の佃煮だった。

敗戦から5年後の1950年、看板のフルーツ缶詰を諦めて挑んだ、瓶詰めの海苔佃煮「江戸むらさき」が誕生する。

  50年4月に発売された「江戸むらさき 大びん」180g入り50円。古来より紫色は高貴な色。
中国では海苔のことを「紫菜(シーサイ)」と呼び、日本でも醤油を「むらさき」という。
また、孝男の趣味である小唄の稽古本の表紙も「江戸紫」――ネーミングは決まった!


時代はよりおいしく、もっと甘くへ

小出孝之社長

当時の小出孝之(現社長)。社員とともに釜場で汗を流しながら、機械化や新製品開発に取り組んだ。

1953年工場
1957年工場
53年当時の本社工場(写真上)とコンベアシステム導入後の工場風景。

食料品の統制は解除されたものの、多くのメーカーは
サッカリンやアミノ酸醤油といった合成調味料を使っていた。
そんななか本醸造醤油と砂糖を十分に使って仕上げた「江戸むらさき」の味は
大評判となり、翌年には前年比2.37倍の売上げを達成。
幸先の良いスタートであったが、いかんせん売れすぎた。
というのも、当時「江戸むらさき」の製造はほとんどが手作業。
材料を入れた大釜を、大きなしゃもじでかき回しながら煮込み、
でき上がった佃煮を1本1本瓶に詰め、ラベルを手貼りする。
「これでは、とうてい間に合わない」と、現社長の小出孝之(当時専務)は、
釜の攪拌と半自動充填ができる「コンベアシステム」の導入を決断した。

ところが、この機械化に反対の声が上がる。
工場長をはじめ、古くからの従業員が「機械なんか信用できない」というのだ。
そこで、孝之は「従来のやり方と機械とで競争しよう」と提案。
女子社員8名で作業する従来組と、充填機と作業者1人の機械化組との瓶詰め競争だ。
結果は、もちろん機械化組の圧勝。
56(昭和31)年の機械化で、1日50〜80ケースが限度だった日産数量が、
300ケースへと飛躍的に増大。「江戸むらさき」を桃屋の基幹商品にするきっかけとなった。

「江戸むらさき」が発売されて10年。
時代は高度成長経済にさしかかり、庶民の生活にもゆとりが見えてきた。
よりおいしいものをとのニーズに応え、63(昭和38)年、「江戸むらさき特級」を発売。
鰹節のだしをふんだんに使い、みりんも加えて、贅沢な“大人の味”に仕上げた。
続いて、シリーズ第3のヒット商品となったのが甘口の「幼なじみ」。
当初、甘味のある海苔の佃煮を作ることに対して、
社内で「今でも十分に甘口。これ以上甘くする必要があるのか」と反対の声が上がったが、
発売してみると、お年寄りから子供まで多くのファンを獲得。時代は甘さを待っていたのだ。

63年に発売された「江戸むらさき特級」125g入り75円(写真左)。
69年には甘口の「幼なじみ」を発売。時代にマッチした味とユニークなネーミングでヒット商品に。
※「幼なじみ」は現在発売されていません。

江戸むらさき特級&幼なじみ

桃屋の顔「のり平アニメ」は46年目

宣伝カー
新聞に広告出稿するとともに、「江戸むらさき」の良さを直接お客様に伝えようと宣伝カーで全国キャラバンを行う(55年)。

ある時は国定忠治、またある時はクレオパトラ……。
歴史上の人物から、お母さんや子供、ヤギやクマといった動物にまで千変万化、
それでいて一目で分かるキャラクター。
桃屋がテレビCMを始めた時から続いているのが「のり平アニメ」だ。

現在、広告の効力を疑う人はいないが、かつては「良いものはひとりでに売れる。
宣伝するのはモノが良くないから」と思われていた時代もあったという。
桃屋は、創業翌年(大正10年)から新聞広告を打っている。
というもの、創業者の小出孝男には
「良品だからこそ広く宣伝してお客様に知ってもらうべき」という信念があったからだ。

桃屋と三木のり平の付き合いは、新聞の突き出し広告に始まる。
戦後、桃屋は新聞の突き出し広告に、作家や俳優らが同社の商品を推奨する「有名人シリーズ」を展開していた。
ある時、三木に依頼すると、彼は自分の写真代わりに自筆の似顔絵を描いてきた。
その軽妙なタッチの絵が大反響を呼び、三木のイラストによる突き出し広告の連載も始まった。

53(昭和28)年、テレビ放送開始。
テレビの力をいち早く見抜いた孝之(当時専務)は、「桃屋には、まだ番組提供するだけの力はない。
でも、テレビで宣伝する限りは、ドラマに負けない面白いものが作りたい」と、新聞で人気の「のり平」をキャラクターにしたアニメCMを企画。
三木も、実写はイメージが固定されるので困るが、声の出演ならOKと快諾。
こうして生まれた「のり平アニメ」は、58(昭和33)年製作の「江戸むらさき 助六篇」から今まで、実に46年の長きにわたり続いている。

そういえば、三木は99(平成11)年に亡くなったはずだが、今もって彼の声がオンエアされているのはナゼ?
実は、子息で俳優の小林のり一(のりかず)が後を継いでいるのだ。
ご本人は、三木とは顔も声もまったく似ていないそうだが、いったんマイクの前に立つと、おなじみのあの声に。
親子二代でCMをリレーする、これも極めてまれなことではないだろうか。

のり平漫筆
「のり平アニメ」誕生のきっかけとなった直筆イラスト。これが評判となり、56年には「のり平漫筆」、57年には「マスコミますわよ」と題する新聞突き出し広告を連載。
 
国定&宇宙
「昭和の名作CM100選」に選ばれた、60年製作の「江戸むらさき 国定忠治篇」(写真左)。
「江戸むらさき特級 宇宙旅行篇」では“地球は青かった、江戸むらさきはうまかった”と名台詞。
※動画は桃屋のホームページ「のり平アニメ博物館」の「年代別CMアニメ展示館」で見ることができる。

懐かしい味を守りながらオリジナリティーを追求

ごはんですよ!
「ごはんですよ!」は板海苔ではなく、生海苔を使用。また、従来のように煮込まず、あさ炊きで仕上げてある。この商品も昨年30周年を迎えたロングセラー(写真は現行品)。  
「青じそのり」「梅ぼしのり」「唐がらしのり」  
今年2月に発売された「江戸むらさき」の新シリーズ。写真左より「青じそのり」「梅ぼしのり」「唐がらしのり」。

幼なじみのヒットから4年。「江戸むらさき」に、味、食感、製法すべての面で
革新的な商品が登場する。「ごはんですよ!」だ。
「江戸むらさき」といえば“キレの良い江戸前の味わい”がウリの商品。
これに対して、社長の孝之は、これからは「フレッシュで、トロリとした食感。
しかも、甘いだけではなく旨味が必要」と、新製品の開発を提案。
ところが、従来とはあまりにも違う味わいに、古株の社員からは
「江戸前の味でないと売れない」との声。
しかも、商品名は「ごはんですよ!」。これが海苔佃煮の名前か? というほど斬新だ。
このネーミングについても、会長をはじめ、多くの社員が異議を唱える。
しかし孝之は「新しい海苔佃煮にこそ、新しいネーミングを」と社員を説得し、発売にこぎつけた。
時代の感覚を敏感にとらえた「ごはんですよ!」は大ヒットし、
現在でも同社製品の売上トップを誇る商品となっている。

食品メーカーの中には、時代の変化に合わせて商品の味を調整しているところもあるが、
桃屋は基本的に一度発売した商品の味は変えない。
それは、味を変えることは、お客様を裏切ることにもなりかねないと考えるからだ。
味の好みは千差万別。メーカーが良かれと思って味を変えても
「昔の方が良かった」と感じる人もいる。
発売当時の味を守る一方、嗜好の変化に対しては姉妹品を出すことで対応している。

50(昭和25)年の発売から半世紀を超えた「江戸むらさき」、そのシリーズは現在19品。
「江戸むらさき」が売れ続ける理由を広告宣伝担当は「桃屋は創業以来、原料にこだわり、味を大切にしてきました。この『良品質主義』と、良いものは広くお客様に知っていただくという『宣伝重視主義』の2つがロングセラーの秘密ということでしょうか」と話す。

原料の海苔は伊勢ものを中心とした国内産100%、容器は食品に最も適した瓶、
そしてギネス級に長寿な「のり平アニメ」――。
良いと信じるものを使い続ける頑固さ、そしてオリジナリティーを大切にした新しい食の提案。
「江戸むらさき」なら“懐かしい”も“新しい”も味わえる。

取材協力:株式会社桃屋(http://www.momoya.co.jp




「江戸むらさき」で、こんなメニューはいかが?

「江戸むらさき」シリーズをお料理に使えば、いつものメニューがひと味違った新鮮なものに! ポイントは「江戸むらさき」を醤油ベースの調味料感覚で利用すること。下記のメニューを参考に、いろいろ試してみよう。

青じそのり納豆 青じそのりパスタ さっぱり焼き鳥
青じそのり納豆 納豆のつゆの代わりに「青じそのり」を混ぜるだけ。お手軽で爽やかな風味の一品。 青じそのりパスタ青じそのりとオリーブオイルを混ぜ合わせてソースを作り、茹でたてのパスタとあえる。 さっぱり焼き鳥焼き鳥の上に「梅ぼしのり」をのせていただく。ほのかな酸味が夏にぴったり。
ピリッと温野菜サラダ ごはんですよ!マヨネーズトースト 炊き込み磯ご飯
ピリッと温野菜サラダ温野菜のディップに「唐がらしのり」。あらかじめマヨネーズと混ぜてもOK! ごはんですよ!マヨネーズトースト「ごはんですよ!」とマヨネーズをトーストにぬり、オーブントースターで2、3分。 炊き込み磯ご飯米、鱈、生姜の千切りに「ごはんですよ!」を加えて、普通の水加減で炊くだけ!


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