COMZINE BACK NUMBER

ニッポン・ロングセラー考 Vol.127 ウォシュレット

1980年発売

TOTO株式会社

日本のトイレを進化させた
温水洗浄便座の代名詞

100年前に誕生した、国産初の陶製腰掛け水洗便器

画像 大倉和親

東洋陶器株式会社(現 TOTO株式会社)の初代社長、大倉和親

画像 製陶研究所

衛生陶器を開発するために設立された製陶研究所

画像 水洗便器

1914年に完成した国産初の陶製腰掛け水洗便器

トイレが「ご不浄」「憚り(はばかり)」と呼ばれていたことを知る若い人は、数少ないのではないだろうか。今や「日本のトイレは世界一」といわれるほど清潔かつ快適な空間へと進化を遂げている。そんな日本のトイレの歴史をさかのぼると、一人の男にたどり着く。TOTOの創立者・大倉和親(おおくら・かずちか)、その人である。

明治末期、森村組(現 森村商事株式会社)※の創業者らと日本陶器合名会社(現 株式会社ノリタケカンパニーリミテド)を設立した和親は、自身の海外視察における見聞から、いずれ日本にも水洗トイレの時代が来ると確信する。そして1912(明治45)年、私財を投じて製陶研究所を設立すると、ここで水洗便器を研究・試作し、2年後に国産初の陶製腰掛け水洗便器を完成させる。今からちょうど100年前のことだ。その後、北九州市小倉に水洗便器を製造する工場を建設し、1917(大正6)年に東洋陶器株式会社(現 TOTO株式会社)を設立した。

下水道の概念さえ浸透していなかった日本において、和親が情熱を傾けた水洗便器は時代を先取りし過ぎていたとも言える。当時、「水洗トイレは汚物を周囲にまき散らす」といううわさがまことしやかにささやかれていたことからも、いかに理解されていなかったかが分かるだろう。
下水道が未整備ということもあり、水洗便器の本格的な普及は戦後を待たなければならなかった。TOTOは衛生陶器を製造するために設立された会社だったが、当面は食器や花瓶などを作ることで事業を支えた。

※森村市左衛門・豊兄弟らによって創立された日本の商社の草分け。日本陶器合名会社からは、TOTOやノリタケをはじめ、現在の日本ガイシ株式会社、日本特殊陶業株式会社などが分離独立し、日本の陶磁器産業を代表する森村グループを形成している。


Top of the page

日本人のための温水洗浄便座、ウォシュレット

画像 ウォシュエアシート

輸入販売していたアメリカンビデ社の「ウォッシュエアシート」

画像 ウォシュレット

初代「ウォシュレットG」の販売価格は14万9000円

画像 マップ

ウォシュレットの設置場所を記した「ウォシュレットマップ」

画像 広告

ウォシュレット発売当時の広告。電気製品であることがよく分かる

昭和30、40年代になると、ようやく下水道が普及し始める。1960(昭和35)年には日本住宅公団(現 都市再生機構)が腰掛け水洗便器の採用を決定。このような時代背景の中、1964(昭和39)年、TOTOは日本人の清潔好きを見越して、アメリカンビデ社の温水洗浄便座「ウォッシュエアシート」の輸入販売を開始。5年後には冬寒い日本のトイレ事情を鑑みて、暖房便座機能を追加したものを国産化した。

国産化したものの、ウォッシュエアシートは医療用具的な性格が強く、思ったほど売れなかった。しかし、改良の余地はある。もっと良い製品を作れば一般にも売れるのではないか。そんな思いを後押しするかのように、1977(昭和52)年には和式と腰掛け式便器の出荷率が逆転する。

TOTOはオリジナルの温水洗浄便座の開発を決意したが、設計に必要な基本データがない。開発担当者は社員に頼み込んでモニターになってもらい、300人分のお尻の位置のデータを集め、お湯を出す角度や温水・温風・便座の温度などを決めていった。
さて、これをいかに製品化するか。最大の難関は温度制御だった。温度をコントロールするには電子制御しなければならないが、精密部品は湿気に弱く漏電の危険と隣り合わせ。この時、ヒントになったのが雨の日でも点灯している信号機だったという。信号機メーカーの協力も得ながら、水に強い構造を開発していった。
1980(昭和55)年、温水洗浄便座「ウォシュレット」が誕生。一見何でもない便座に見えるが、ウォシュレットはその内部に電気部品をぎっしり詰め込んだ製品なのだ。

満を持して発売したウォシュレットだが、最初から売れたわけではなかった。そもそも日本にはお尻を洗う習慣がない。お尻を洗うことがいかに気持ちいいか分かってもらうには体験が一番と、TOTOはウォシュレットが設置されているトイレを紹介した「ウォシュレットマップ」の配布や一般家庭でのモニター制度など、さまざまな販促活動を展開。中でも1982(昭和57)年に放映したテレビCM「おしりだって、洗ってほしい。」は大きな反響を呼び、ウォシュレットの認知度を一気に高めた。


Top of the page

もっと快適に! 多機能化するウォシュレット

画像 クイーン

ウォシュレット一体形便器「ウォシュレットQUEEN」。多機能化に先鞭(せんべん)をつけた

画像 ネオレストEX

タンクレスのウォシュレット一体形便器「ネオレストEX」は1993年発売。大洗浄8L、小洗浄6Lの節水便器でもある

画像 アプリコット

「ウォシュレットアプリコット」は操作部の“袖”がなく、すっきりコンパクト

画像 ワンダーウェーブ

節水と洗い心地を両立する水玉連射の「ワンダーウェーブ洗浄」

1987(昭和62)年、ウォシュレットは累計出荷台数100万台を突破。これまでの道のりは必ずしも平坦ではなかったが、その後は順調に販売台数を伸ばすとともに、多機能化に拍車をかける。

現在、ウォシュレットには既存便器に装着するシートタイプとウォシュレット一体形便器の2タイプあるが、初の一体形が1987(昭和62)年発売の「ウォシュレットQUEEN」。本製品はトランプのクイーンにちなみ、ビデ洗浄やノズルのセルフクリーニング、ノズルの位置調整など12の機能を搭載。その後も、便座・便ふたがゆっくり閉まる「ソフト閉止」、座るまでスイッチ操作を受け付けない「着座センサー」、臭いをファンで吸い込み触媒で脱臭する「オゾン脱臭」といった機能を次々に追加していった。
また1988(昭和63)年には、次世代の便器のあり方を模索する「ザ・便器プロジェクト」が始動。約5年をかけ、洗浄方式を刷新することで節水とタンクレスを実現し、さらにデザインにもこだわった「ネオレストEX」を開発。タンクがなくなったことでスペースが広がり、トイレはレストルームと呼べる空間に変身した。

一方、シートタイプのウォシュレットは、お湯の作り方が異なる2つのシリーズで展開してきたが、発売から20年を間近に抜本的な設計変更が検討された。
「Gシリーズ」は貯湯加熱式。沸かしたお湯を貯めておいて使うが、貯湯タンクを抱えているのでスペースをとり、トイレの掃除がしにくい。「Sシリーズ」は瞬間湯沸かしタイプでコンパクトだが、多量のお湯を出しにくい。そこで、次世代のウォシュレット開発に際しては、「湯切れなし」「快適温度」「すっきりコンパクトでお掃除ラクラク」「かわいいデザイン」という4つのキーワードが設定された。

こうして1999(平成11)年に発売されたのが「ウォシュレットアプリコット」だ。湯切れがなく、しかもコンパクトなアプリコット誕生の鍵を握る技術が「ワンダーウェーブ洗浄」で、お湯を水玉状に連射することによって従来より少ない水量でパワフルな洗浄を実現する。また本体も、女性ユーザーを意識し、すっきりと洗練されたデザインに一新した。


Top of the page

トイレが自分でする「きれい」と「エコ」

画像 縁なし

フチ裏がなく、掃除がラクなフチなしウォシュレット

画像 除菌水

除菌効果のある「きれい除菌水」が便器を清潔に保つ

画像 瞬間暖房便座

約6秒で便座を約26℃まで温める「瞬間暖房便座」(イメージ図)

画像 認定証

2012年、初代「ウォシュレットG」が一般社団法人日本機械学会の「機械遺産」に認定された

毎日使うトイレだからこそ、いつもきれいにしたい。フチなしウォシュレットやウォシュレットのワンタッチ着脱でトイレ掃除は随分ラクになったが、最新機種には掃除の手間まで減らせる機能が搭載されている。それが「便器きれい」機能で、人が便器に近付くとまず水道水のミストを便器ボウルに吹きかけ、汚れを付きにくくする。さらに、トイレ使用後と8時間使用しない時には「きれい除菌水※」をボウル面に自動的に吹きかけて汚れや菌の発生を抑制。黄ばみや輪じみができにくく、きれいな状態が長続きする。

読者の中には「ウォシュレットは確かに快適だけど、電気を使うのが気になる」という方もいるのではないだろうか。TOTOは、かなり早い時期から節電に取り組んでいる。1988(昭和63)年に搭載した「節電タイマー」を皮切りに、使用頻度を記憶し使用しない時間帯は便座のヒーターを自動的に切る「スーパーおまかせ節電」や、便ふたと便座に断熱材を用いてダブルで保温する「ダブル保温便座」、さらに最新機種には使う時だけ便座を温める「瞬間暖房便座」機能を搭載。これらを組み合わせると、従来品に比べ年間約4200円の節約が可能になるという。

一般世帯における温水洗浄便座の普及率は76%(内閣府/2014年3月)。その代名詞ともいえるウォシュレットは2011(平成23)年、累計出荷台数3000万台を突破した。近年では住宅はもちろん、オフィスやホテルなどの施設、東北・九州新幹線やボーイング787にも搭載されている。

もし、今も本体が床に埋め込まれている和式便器が主流だったら、日本のトイレはここまで進化しなかっただろう。腰掛け式だったからこそウォシュレットが装着でき、多機能化が可能になった。日本のトイレは、快適さを追求する数多くの技術者の手を経て、腰掛け水洗便器に未来を見た創立者・大倉和親の想いを遥かに超える地点まで到達した。

※水道水に含まれる塩化物イオンを電気分解してつくられる、除菌成分(次亜塩素酸)を含む水。


取材協力:TOTO株式会社(http://www.toto.co.jp/
TOTOの超節水トイレ

家庭の中でトイレは最も水を使う場所の一つ。1960年代、水洗トイレは1回に20Lもの水を流していた。水不足が深刻化した1970年代、節水が叫ばれて洗浄水量は13Lに、1990年代後半には8Lが主流となった。タンクレス便器「ネオレスト」の場合、1993(平成5)年に8L、2006(平成18)年に6L、そして2009(平成21)年の「ネオレストハイブリッドシリーズ」で4.8Lを実現※。1回の洗浄水量は旧タイプ(13L)の約3分の1となり、水道代は年間約1万4200円もおトク。またTOTOのトイレには、陶器表面をナノレベルまで磨き上げて汚れを付きにくくする「セフィオンテクト」や渦を巻くように力強く洗い流す「トルネード洗浄」など、水を効率的に使う同社ならではの技術も生かされている。
※最新の床排水タイプは3.8L。

画像 ネオレストハイブリッドシリーズ

このページに掲載されている情報は、公開日時点のものです。現時点では、公開日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治
Top of the page