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ニッポン・ロングセラー考 Vol.123 ビゲン

1957年 発売

ホーユー株式会社

しっかりキレイに白髪を染める
信頼のヘアカラーブランド

明治・大正時代に誕生した白髪染め「二羽からす」「元禄」

画像 水野増次郎氏

染毛剤の将来性に賭けた、創業者の水野増次郎。

画像 二羽からす

1剤式液体の酸化染毛剤「二羽からす」。箱の側面には写真入りで使用説明が記載されているなど、当時としては凝った作り。

画像 元禄

1993(平成5)年まで販売され、72年にわたる大ロングセラー商品となった「元禄」。正面の侍は「忠臣蔵」の大石内蔵助をイメージ。

「からすの濡れ羽色」「緑の黒髪」という例えがあるように、美しい黒髪は日本女性の理想であり、美人の条件とされてきた。髪は女の命......、もちろん白髪や赤毛はNGで、髪はあくまで黒くなければならない。
それ故に、先人たちは実に涙ぐましい努力をしてきた。江戸時代には「美玄香(びげんこう)」という黒い油で白髪を隠し、明治時代にはいわゆる「お歯黒」で髪を染めた。お歯黒式染毛剤で染めるには5~10時間もかかり、文字通り半日仕事!
そんな白髪に悩む人に1907(明治40)年ごろ、朗報がもたらされる。新しい染料・パラフェニレンジアミンの溶液を髪に塗り、空気酸化によって髪を染める酸化染毛剤「千代ぬれ羽」が発売されたのだ。

ホーユー株式会社は1905(明治38)年、家庭薬製造販売業「水野甘苦堂」として名古屋市京町にて創業。初代・水野増次郎は親戚から「東京で流行している『千代ぬれ羽』のような製品を作ってみては」と勧められる。ところが製品化は困難を極め、2年後の1909(明治42)年、ようやく「二羽からす」の発売にこぎ着ける。「二羽からす」は染め上がるまでに6~7時間を要し、従来のお歯黒式染毛剤と大差ないが、髪に塗るとすぐ乾くので、じっと待っている必要がない。つまり、朝塗って仕事に出かけ、夕方帰って来て髪を洗えばOK。その使い勝手の良さが受け、大ヒットした。

その後、第1次大戦(1914~18年)の困難を乗り越えた増次郎は、1921(大正10)年、3剤式染毛剤「志らが赤毛染 元禄」を発売。3剤とはパラフェニレンジアミン(粉末)、糊(こ)剤(粉末)、過酸化水素水(液剤)を指す。2種類の粉末を水で溶いて湯煎し、冷めたら、過酸化水素水を加えて染液を作る。過酸化水素水という酸化剤の登場で、放置時間は一挙に20分に短縮された。

実はこの「元禄」の前に、液体タイプの2剤式染毛剤「三羽からす」という製品が発売されているのだが、染毛中の液垂れがネックとなっていた。「元禄」では糊剤を追加することで、この問題を解決している。
1剤に酸化染料、2剤に酸化剤を用いるのは染毛剤の基本構造であり、これは今でも変っていない。大正時代にすでにヘアカラーの原型ができていたというから驚きだ。


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もう黒色だけではない! 髪色を選べるのは「ビゲン」

画像 「ビゲンA,B,C」

「ビゲンA/B/C」は現在も販売中。

画像 ビゲンパール

1965(昭和40)年発売、日本初の水溶性一時着色料「ビゲンパール」。使いやすく、当初は記録的な売り上げとなった。

画像 ビゲンヘアカラー

液体でシャンプータイプの「ビゲン ヘアカラー」は1971(昭和46)年発売。ふんわりと結い上げた髪が印象的なパッケージデザイン。

もはや戦後ではない。1956(昭和31)年7月に発表された経済白書は、そう結ばれている。戦後復興が終了し、高度経済成長時代の幕開けを告げる言葉として流行語にもなったが、白髪用ヘアカラーにも新しい時代が訪れようとしていた。

1957(昭和32)年、ホーユーは新製品「ビゲンホーユー」を発売。「ビゲン」というネーミングの由来については諸説ある。1つは、美しさの源という意味での「美源」。もう1つは、パッケージの意匠である元禄美人から取った「美元」である。「ビゲンホーユー」は染料、酸化剤、合成増粘剤を配合した粉末1剤式の染毛剤。粉末を瓶4杯分の水で溶くだけで染液が作れ、「元禄」と比べると随分手軽になっていることが分かる。当初は黒1色だったが、翌年、自然な黒褐色の「ビゲンビー・B」を発売。それに伴い、「ビゲンホーユー」を「ビゲンA」に改称。その後、濃いくり色の「ビゲンC」を発売し、黒~濃いくり色までの3色をラインアップした。かつて白髪染めといえば黒1色だったが、ビゲンの登場によって自分に合った髪色を選べるようになったのだ。

「ビゲン」は水で溶いて使うだけの手軽さ、そして小分けして使える自由度もあり、ヒット商品となる。1960~70年代、ホーユーはビゲンブランドに新製品を次々と投入。以降、同タイプの染毛剤として先行発売されていた「パオン」と共に、白髪用ヘアカラーブランドの双璧を成していく。ビゲンブランド確立の過程は、自宅で手軽に白髪を染めるという習慣が日本の生活に定着していくプロセスでもあった。


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新しい剤型とカラーリング技術をアピールし、市場を生み出す

画像 ビゲンクリームトーン

「ビゲン クリームトーン」は、1996(平成8)年に累計1億本を突破。

画像 サロンカー内部

カラーリングに必要な設備を全て備えた「サロンカー」は、まさに走る美容室。

画像 レディースビゲンスピーディー

特許成分L-アルギニンをアルカリ剤として初めて配合した「レディースビゲン スピーディー」。くしの機能を持たせた専用ブラシ付き。

ヘアカラー製品には、粉末タイプや液状・乳液タイプ、クリームタイプなど、さまざまな剤型がある。剤型別に言えば、「ビゲンA/B/C」は粉末タイプで、「ビゲン ヘアカラー」は液状タイプ。タイプによって特長や用途が異なるため、ビゲンブランドにもさまざまな剤型が提供されていく。

1984(昭和59)年に発売した「ビゲン クリームトーン」は、その名の通り、新しい剤型としてクリームタイプを採用。1剤・2剤共にチューブ入りのクリームで、これを添付のハケで混合し、髪に塗って染める。クリームタイプなので垂れにくく、生え際や分け目などの部分染めにも便利。翌年には、1剤にクリーム、2剤に乳液を用いた「ビゲン エレガンスクリームトーン」を発売している。

ヘアカラーは、口紅やファンデーションなどと異なり、使い方をユーザーや販売者に理解してもらう必要のある製品。特に新しい剤型となると、その必要性はさらに高まる。
ホーユーは「ビゲン クリームトーン」の発売後、販売促進のために「サロンカー」を導入。サロンカーは、車内で毛染めやシャンプーができるように改造した特注のバスで、これを薬局や量販店に横付けし、カラーリングの講習会や店頭販売を行う。忙しくて店を離れられない店主や店員の元に自ら出向き、カラーリング技術の普及と正しい使い方の啓発に努めた。サロンカーは大阪・名古屋・東京の順に3台設置されたが、改造費だけで1台2,000万円もかかったという。

この時代のもう1つの特徴は、1989(平成元)年発売の「レディースビゲン スピーディー」に見ることができる。製品名が示すように、他の製品が20~30分かかるところ、本製品は放置時間10分で済む。使い勝手や仕上がりはもちろん、「時間」もヘアカラーを選ぶ重要な基準となった。


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より満足度の高い製品を目指し、進化するビゲンブランド

画像 ビゲン香りのヘアカラークリーム・乳液、4番

ツンとしない、ほのかな香り。髪色きれいに染まる「ビゲン 香りのヘアカラー」。

画像 ビゲンヘアカラーDXクリーミーフォーム、4番

「ビゲン ヘアカラーDX クリーミーフォーム」は、白髪用ヘアカラーで初めて"おトクでエコな"つめかえ用を同時発売。

画像 榊原郁恵さんを使った広告

「ビゲン」のイメージキャラクターを務める榊原郁恵さん。

1990年代に入ると、ヘアカラー市場は右肩上がりで成長していく。1990(平成2)年当時、ヘアカラーリング製品の年間出荷額は400億円強※で、これはシャンプーのほぼ半分。それが2001(平成13)年になると、総出荷額は1,100億円※に達し、シャンプーを抜いて頭髪化粧品の首位に立った。
急成長の背景には、サッカーJリーグの発足や安室奈美恵のファッションをまねた「アムラー」の存在がある。スポーツ選手やタレントが髪色を明るくし、「茶髪」が市民権を得たことで、若者を中心にカラーリングブームが起こったのだ。

黒髪用ヘアカラーのような突発的なブームはなかったものの、白髪用の市場も順調に成長し、ユーザーの不満を解消する製品が次々に登場した。例えば、2001(平成13)年に発売された「ビゲン 香りのヘアカラー」は、染める時のニオイの不満に着目した製品。ヘアカラーのツンとしたニオイがせず、きれいな髪色に染まる。現在、ぜいたくなアロマの香りが楽しめる新色を加え、14色のカラーバリエーションで展開されている。

近年人気の剤型といえば、フォーム/泡タイプ。2011(平成23)年発売の「ビゲン ヘアカラーDX クリーミーフォーム」は、髪にもみ込むと泡がクリーム状に変化して髪に密着し、根元や後ろの白髪もきれいに染めやすい。容器も新たに、据え置き型のポンプタイプを採用。両手が使え、使い勝手がさらに良くなっている。

白髪を隠すことから始まった白髪用ヘアカラーは、使い勝手や髪色、放置時間、経済性、ニオイ、仕上がりなど、多様なユーザーニーズにきめ細やかに対応することで進化してきた。毎年のように新製品が発売されるが、ビゲンブランドの中には「ビゲンA/B/C」を筆頭に、30年以上続く製品が複数存在する。1つの製品を長く使い続ける固定ファンが多いのも、白髪用ヘアカラーの代名詞・ビゲンならではと言えるだろう。

お母さんの鏡台に置いてあった「ビゲンB」。今、読者のドレッサーの前には、どんなビゲンがあるのだろうか。
※経済産業省生産動態統計 化学工業 化粧品より

取材協力:ホーユー株式会社(http://www.hoyu.co.jp/
男性用もやっぱりビゲン

「ビゲン クリームトーン」のパッケージに男女の写真が掲載されているように、白髪用ヘアカラーは男女共用が一般的だった。1987(昭和62)年、ホーユーは男性に特化した製品「メンズビゲン スピーディーカラー」を発売し、男性市場を開拓。現在、メンズビゲンブランドの下、4製品をラインアップしている。中でも「メンズビゲン カラーリンス」は注目の製品。シャンプーの後に塗るだけで手軽に白髪を染められ、使うたびに少しずつ白髪が目立たなくなるので、仕上がり具合を確認しながら染めることができる。イメージキャラクターに東幹久さんを起用したテレビCMでもおなじみ。

画像 メンズビゲン

ちらほら白髪は気になるが、イメージが一気に変わるのは困るという人にお勧めの「メンズビゲン カラーリンス」

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タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治
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