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ニッポン・ロングセラー考 Vol.127 テプラ

1988年発売

株式会社キングジム

電子文具の草分け
25年で800万台の実績

社運を賭け、電子機器に初挑戦

画像 メンバー

初の電子機器の開発に挑むメンバー。

画像 テプラTR55

1号機の「テプラ」TR55はダイヤル入力式で単漢字変換。価格は16,800円。

画像 TR55の印字サンプル

「テプラ」TR55で印字したラベル

画像 店頭デモ

文具の聖地・銀座伊東屋での店頭デモ販売の様子。

2014(平成26)年1月、株式会社キングジムは「BCN AWARD 2014※」において新設された電子文具部門で最優秀賞を受賞した。受賞商品はデジタルメモ「ポメラ」、デジタル名刺ホルダー「ピットレック」などだが、これら電子文具開発の原点となったのがラベルライター「テプラ」だ。

キングジムと言えば、「キングファイル」。1964(昭和39)年の発売以来、同社の看板商品だったが、1980年代半ば、その存在を根底から揺るがしかねない大容量記録メディア・光ディスクファイルが登場。ちまたでは、このままOA化が進めば、いずれ紙はなくなるだろうとささやかれていた。
ファイルは売れているが、この先どうなるのか? 危機感を募らせた専務の宮本 彰(現社長)は、新しい時代に対応した商品の開発を決意。彼の命を受けた開発チーム4名が新たな鉱脈を探る中で浮上したのが、ファイルの背見出しのタイトル書きだった。書類をきれいにファイリングしてもタイトルは手書きのまま。パーソナルワープロは発売されていたが、価格が20~30万円と高額。印刷したようにきれいな文字を打ち出し、それを背見出しに貼ることができたら…。こうして、新商品開発の方向は決まった。

とはいうものの、商品化への道のりは険しかった。樹脂ベースの粘着テープにワックス系インクリボンで印刷しただけでは、こするとはがれてしまう。漢字を打ち出すにはFEP(かな漢字変換ソフト)が必要。山積する難題を一つ一つクリアし、1988(昭和63)年秋、ようやく「テプラ」の発表にこぎ着けた。
その頃のキングジムにとって電子機器への投資リスクは高く、1台も売れなければ当時10億円の経常利益が半減する。まさに社運を賭けた挑戦。流通向けの発表会や見本市では好感触を得ていたものの、実際にどれぐらい売れるかはフタを開けてみなければ分からない…。

※BCN AWARD:実売データに基づいてパソコンやデジタル家電などの販売台数年間No.1メーカーを表彰する制度。株式会社BCNが2000年より主催。


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テープカートリッジを改良し、パソコン接続にも対応

画像 TRカートリッジ、SRカートリッジ

3つのロールテープが入っているTRシリーズ(左)と、2ロールのSRシリーズのテープカートリッジ。写真はいずれも現行品。

画像 SR606

PROシリーズの1号機「テプラ」PRO SR606、価格は26,800円。

画像 SR900

初めてパソコンとの接続が可能になった「テプラ」PRO SR900。開閉式の大型液晶画面を採用。

画像 SR3500P

パソコン接続専用機「テプラ」PRO SR3500Pは、エクセルデータを取り込んで流し込み印刷が可能。

約3年をかけて開発した1号機「テプラ」TR55は、爆発的にヒットした。注文殺到でうれしいはずの悲鳴は、生産が追い付かず、やがて本物の悲鳴に変わる。中でも深刻だったのがテープカートリッジの生産。1台当たり売れるテープは5本ぐらいだろうとの予想が外れ、13種類全部とか10本まとめ買いするユーザーが多く、品切れ状態に。営業から矢のような催促を受け、開発チームは製品の調達に奔走…。しばらくすると、「それにしても、このテープは高いよね」という声も聞こえてきた。

TRシリーズのテープカートリッジには、表面をラミネートする透明フィルム、文字を印刷するインクリボン、ベースとなるラベルという3種類のロールテープが入っている。発売当時はインクリボンの品質の関係上この構造を採用せざるを得なかったのだが、コスト高の原因であることは確か。消耗品をもっと安くというニーズに応えるため、ようやく普及してきたヘビーデューティーインクリボンを採用し、ノンラミネート化を実現。それまで1本1,400円だった価格は1,000円となり、約3割のコストダウンに成功した。このテープカートリッジを初めて搭載したのが1992(平成4)年発売の「テプラ」PRO SR606で、以降PROシリーズとして「テプラ」の主流となっていく。

テープカートリッジの単価が下がったこともあり、「テプラ」は発売開始からわずか5年で累計販売台数100万台を突破。以降、ハイスペックのビジネス機から1万円を切る家庭用まで新製品を次々と投入した。
この間、オフィス環境は大きく変化。1990年代も後半になると、パソコンやインターネットの導入が進み、多くの人がパソコンで仕事をするようになった。これを受けて、2001(平成13)年に発売したのがパソコンに接続できる「テプラ」PRO SR900。翌年にはパソコン接続専用のラベルプリンターとして、「テプラ」PRO SR3500Pを発売。この機種は専用というだけあって、本体にキーボードがない。見た目も使い方も、ダイヤル入力式の1号機と比べると隔世の感がある。


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点字も外国語も。新たな使用シーンを開拓

画像 SR6700D

点字機能を搭載した「テプラ」PRO SR6700D。

画像 飲み薬

薬の内容や飲み方を点訳して薬袋に貼付。

画像 出前授業

CSR活動の一環として小中高等学校で行っている点字「テプラ」を使った出前授業。

画像 外国語

4カ国語対応「テプラ」PRO SR930と、その印字サンプル。

2003(平成15)年、「テプラ」は累計販売台数500万台を達成。キングジムの屋台骨を支えるブランドにまで成長した「テプラ」は、ここでまた新たな挑戦を始める。その第1弾が、点字「テプラ」の開発。「テプラで点字が打てたら」という話は、実はかなり早い段階からあったのだが、CPUの性能やメモリの容量、点訳の辞書作りといったハードルがあり、なかなか踏み出せなかった。

点字「テプラ」の開発に当たっては、担当チーム全員に点字の習得が命じられた。さらに、カメラを持って1週間、どのような使用シーンがあるか街中を撮影して回った。
実際の開発で最も難航したのが点訳のための辞書作り。試作品を抱え監修先である社会福祉法人日本点字図書館に通うが、ダメ出しの連続。点字には、文章の区切りに空白を入れる「分かち書き」など独自のルールがあるため、開発に思いのほか時間がかかったという。

着手から約2年後の2005(平成17)年、念願の点字「テプラ」が完成。文字を打てば自動的に点訳してくれ、文字と点字を併記できるので、目の不自由な人にも晴眼者にも同時にメッセージを伝えられる。今では、郵便ポストをはじめ、タクシーが車両識別表示として後部座席のドアに貼ったり、ホテルが客室の受話器に客室番号プレートとして貼るなど、ユニバーサルデザインを実現するツールとして、さまざまな場所で用いられている。

点字と同様、「テプラ」に新しい活躍の場を開いたのが、翌年発売された「テプラ」PRO SR930だ。821の定型文を、日本語・英語・中国語(簡体字)・韓国語の4カ国語で併記できる。この機能は現在「外国語ラベル工房」としてWeb上で展開されており、パソコン接続できる機種であれば利用可能。約2,000文例から選べ、消費税率改定といった旬の文例も随時追加されている。

外国人観光客が1,000万人を突破し、2020年には東京オリンピック・パラリンピックも開催される。今後「テプラ」の出番がますます増えるのではないだろうか。


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誰でも使える、そんな文房具としての原点を忘れない

画像 SR950

バックライト付き大型液晶画面を搭載した最上位機種「テプラ」PRO SR950。

画像 オートトリマー

ラベルの角を丸くカットするオートトリマー機能。

画像 マグネット

マグネットテープも売れ筋商品の一つ。

画像 テプラGrand

50mmと100mmの広幅ラベルが作成できる「テプラ」Grand WR1000。

画像 Pマーク

「テプラ」Grandの100mmテープを使った、4倍貼り合わせ印刷。

ファイルの見出しをきれいに作りたいとスタートした「テプラ」の開発。1号機のテープ幅は9mmと12mm、色は白以外に赤、青、黄、緑があった。この12mmという幅とテープの色には意味がある。幅はキングファイルの背見出しに薄く印刷されたガイドラインの幅であり、色は当時販売していたPP製クリアファイルの表紙と同じ色なのだ。

「テプラ」の開発はアナログからデジタルへ一気にジャンプしたような印象を与えるが、軸足は文房具の世界に置かれている。このスタンスはそれ以降も変わらず、担当者いわく「作りたいのは美しく便利なラベルで、電子技術はそのためにたまたま利用しているだけ」。
ラベルの角を丸くカットし、はがれにくくする「オートトリマー」、裏紙を残しラベルだけをカットする「ハーフカット」、多段組み印刷といった機能は、ラベル作りへのこだわりを裏付けるものと言えるだろう。

「テプラ」は、オフィスや学校、各種施設はもちろんのこと、病院や店舗、建設や製造の現場など、幅広い分野で用いられている。ケーブル工事の作業者に「工具と同じだから1人1台持ってますよ」と、工具箱の中の「テプラ」を見せられたこともあるそうだ。
用途の拡大に伴い、強粘着ラベルやマグネットテープ、蓄光ラベルなどテープの種類も増え、現在16種類の機能性テープが用意されている。また最近では、マスキングテープやりぼんなど、従来にはないおしゃれなカートリッジも開発された。

パソコン接続が可能となっているが、ほとんどのユーザーは「テプラ」を単体で使用しているという。使いたい時、使いたい所でパッと印刷して、ピタッと貼る。ペンやハサミと同じように簡単に使え、使う人を選ばない文房具としての「テプラ」。その思想は25年経った今も脈々と引き継がれている。


取材協力:株式会社キングジム(http://www.kingjim.co.jp/
女性のためのガーリー「テプラ」

「テプラ」発売25周年の2013年、従来の「テプラ」とは一線を画す商品が発売された。シェルピンクの本体にレースやりぼんなど女性らしいモチーフをあしらったガーリー「テプラ」だ(「テプラ」PRO SR-GL1)。これは企画から仕様に至るまで女性担当者が"カワイイ"にこだわって作り込んだ商品。専用のりぼんやマスキングテープにも印字でき、ラッピングや手芸、クラフトなどハンドメイドに大活躍。この商品が初めての「テプラ」という人が大半を占め、文字通り「テプラ」に新しいユーザーを連れてきた。

画像 ガーリー「テプラ」

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タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治
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