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ニッポン・ロングセラー考 Vol.130 料亭の味

1982年発売

マルコメ株式会社

日本のソウルフード みそ汁の革命児

積極的な設備投資で、後の成長に布石

画像 金看板

丸い大豆の○と米麹(こうじ)の米という、みその原料が「マルコメ」という名前の由来

画像 段ボール

手前に昔ながらのみそだる、左奥に新しい流通形態となった段ボールが見える

画像 パッケージ

昭和30~40年代の商品。左端が自動充填されたピロータイプ第1号商品

画像 TVCM_TBS

開局間もないTBSで放映したテレビCM。キャラクターマークのマルコメ君が登場

旅先の旅館で出されたみそ汁を飲んで、こんな甘いのは初めてとか、逆にしょっぱくて飲めないといった経験をしたことはないだろうか? みそはしょうゆと同じく嗜好性の強い商品で、まさに「所変われば品変わる」のだ。従って、その土地の味に合わせた地元メーカーが力を持っており、ナショナルブランドになるのが難しいといわれてきた。そんな群雄割拠のみそ業界で、2割超のトップシェアを誇るのがマルコメ株式会社だ。

マルコメの創業は1854(安政元)年。今年で160年になる老舗企業で、長野県に本社を置く。長野県は、現在全国で生産されるみその46%を占める信州みそ(淡色辛口みそ)で有名。信州みそは、1923(大正12)年に起きた関東大震災の際、救援物資として届けられ、その明るい色とあっさりした味が都会人に好評となり出荷量を急激に伸ばす。また、第2次世界大戦後も県でみその品質検査条例を制定し、粗悪品の流出を防止するなど、いち早くブランドの確立に取り組んできた。

そんな信州みその一翼を担っていたとはいえ、地方の1メーカーであったマルコメが、なぜ販売シェアナンバー1になり得たのか? その推進力となったのが、今回ご紹介する「料亭の味」。しかし、本商品の発売前から、マルコメ(当時は青木味噌醤油株式会社)は飛躍への準備を着々と進めていたのだ。

その立役者となったのがマルコメの三代目・青木佐太郎(現会長)。彼は自他共に認める"新しもの好き"で、みそ業界においていくつかの革新を主導した。例えば、みその流通。昭和30年代、みそはたるで出荷されており、空だるを回収・修理して、再度たる詰めしていた。青木会長は、たるに代わって段ボールに詰めて出荷する方法を考案。問屋からは空だる回収の手間が省けると非常に評判が良く、他のメーカーもこれに追従した。

さらに、1963(昭和38)年には、小袋詰め(ピロー包装)の自動充填(じゅうてん)機を2年がかりで包装機械メーカーと共同開発。当時は、みそのようにベタベタしたペースト状のものを自動充填する技術がなく、2社の機械を合体させて完成させたという。この他、今となっては当たり前の四角いカップ容器もマルコメが業界初で、上ぶたまで全自動で充填包装できる設備を整えた。マルコメは、スーパーマーケット時代に対応すべく、大量生産設備の開発にいち早く成功していたのだ。


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業界に先駆けて発売した、だし入りみそ「料亭の味」

画像 料亭の味

発売当初の「料亭の味」は、天面に「だし入り」と大きく表示。ロゴのレインボーカラーは、レーザーディスクからヒントを得たという

画像 クッキングシステム

だしの風味を保持するために開発された加熱冷却装置「マルコメクッキングシステム」

画像 高速充填ライン

「料亭の味」を1分間に120個のスピードで充填・包装する高速充填ライン

画像 チラシ表面

「こんなお味噌が欲しかった!」と、だし入りをアピールした発売当初のチラシ

画像 料亭の味CM

1977(昭和52)年にスタートしたマルコメ君のテレビCM。写真は5代目

「おたくのみそでみそ汁を作ったけど、全然おいしくない」
きっかけは、マルコメのみそを買った人からのクレームだった。よくよく話を聞いてみると、その人はだしを取らず、みそをお湯で溶いただけだったという。当時、お客さまアンケートにも「だしを取るのが面倒」という声が数多く寄せられていたこともあり、「それならば、だしの入ったみそを開発しよう」と、1981(昭和56)年にスタートしたのが「だし入りみそプロジェクト」だ。

素人考えでは、通常のみそにかつお節や昆布のだしを加えればいいのではと思うが、事はそう簡単には運ばなかった。というのも、みその中に含まれる酵素が、せっかく入れただしのうまみを分解してしまうからだ。
開発チームは、ある温度になると、みその酵素の働きが不活性化することに着目。みそをいったん加熱し、酵素の働きを抑えた上でだしを入れ、その後、急速冷却すればいい! そんな原理は分かったものの機械化は難しく、特にみそを冷やすパイプが問題だった。みそが詰まったり、逆に勢いよく流れ過ぎて十分に冷えないという事態が発生したのだ。新製品の発売日が迫る中、現場は寝る間を惜しんでパイプの改良に取り組んだ。その結果、みそが詰まることなくゆっくり流れ、十分に冷却できる装置「マルコメクッキングシステム」の開発に成功。1年後の1982(昭和57)年、だし入り「料亭の味」の発売にこぎ着けた。

だし入りみその開発に当たっては、「みそ汁はだしを取って作るもの。みそにだしを入れるなんて邪道ではないか」という意見もあったという。しかし、一般家庭でだしを取るのは手間がかかる上に難しく、いつも同じようにできるとは限らない。誰でも、いつでも、料亭で供されるようなおいしいみそ汁が簡単にできる「料亭の味」は消費者に歓迎され、発売後、ぐんぐん売り上げを伸ばした。

「料亭の味」の売れ行きに手応えを感じた青木会長は、1985(昭和60)年、「全商品をだし入りにする」と宣言。翌年、地球に接近するハレー彗星(すいせい)にちなんで「ハレー作戦」と名付け、工場全体を作り替えた。今思えば、極めて大胆な戦略であったが、現在販売されているみその約3割がだし入りということを考えれば、そんな決断があったからこそ、だし入りみそという新しいジャンルが定着したともいえるだろう。


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溶けにくい、扱いにくい、使い切りにくい。みその3大不満を解決した「液みそ」

画像 初代液みそ

2009年発売の「液みそ」は、信州みそと合わせみその2タイプ

画像 液みそ料亭の味2011、液みそ料亭の味2013

2011年発売の「液みそ 料亭の味」(左)を、2013年にユニバーサルデザインに刷新

画像 液みそ生産ライン

「液みそ」の開発に際しては、生産ラインを自社工場に新設

画像 料理レシピ

「液みそ 料亭の味」は料理にも便利。最後に回しかければ味が決まるので、ホイコーローのキャベツもしゃきしゃき!

「料亭の味」の発売以降、売り上げは右肩上がりに伸びたものの、新製品開発においては、1990年代後半から市場の注目を集めるような商品が出ず、いわゆる踊り場の状態にあった。
お客さまが望んでいる商品を提供できているのか? マルコメは、従来のプロダクトアウト(作り手本位の開発姿勢)からマーケットイン(買い手本位の開発姿勢)へと転換するため、マーケティング部を新設し、商品企画と開発の役割を明確に分ける方針を打ち出す。また、2004(平成16)年にスタートした通販事業によって、一般消費者との距離も縮まった。

通販限定のみそに、天然醸造蔵で熟成させた「二年味噌」という商品があった。2008(平成20)年、このみそをだしで溶いて発売したところ、従来の10倍の売れ行きとなった。液状化したみそに需要があるのではないかと、マルコメは早速、市販化を検討。市販化に当たり、みそについて消費者調査を行ったところ、「みそを溶くのは手間がかかるし、溶けずにだまになることもある」「ベタベタ付着して扱いづらい」「最後まできれいに使い切れない」といった不満があることも分かった。

みそを液状化する技術は業務用で既にあったが、市販化するには3つの課題を解決しなければならなかった。それが、傾けるだけでタラタラと出る流動性、通常のみそと同じ保存性、そして生みそとだしのおいしさが十分に生きていることだ。中でも難しかったのが、流動性と保存性の両立。通常、保存性を高めるためには水分を少なくするが、それではみそが固くなり流動性が損なわれる。開発担当は、みそとだしの配合を変えては、毎日何杯ものみそ汁を飲み続けた。一方、マーケティング部はニーズの把握、プロトタイプのモニターテスト、価格設定と、消費者の望む商品に仕上げるべく作業に追われた。そして、本社工場では液状のみそを充填する生産ラインを新設...。担当者いわく「しっちゃかめっちゃか」になりながら、間際まで微調整を繰り返して、翌年3月に発売したのが「液みそ」だ。

消費者のみそに対する不満を解消した「液みそ」は、あっという間に人気に火が付き、発売3カ月で100万本を売り上げた。2011(平成23)年には、定番ブランドを冠した「液みそ 料亭の味」も発売され、翌年5月末には出荷累計数1,000万本を突破。その後も消費者調査を実施し、2013(平成25)年には、より持ちやすく、注ぎやすい角型ボトルへとリニューアルした。


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みそ汁をもっと多くの人に。飲む環境から提案

画像 椀ショット極

小型みそ汁サーバー「椀ショット極」はマルコメ通販で購入でき、本体価格は12,800円(税込)

画像 ロサンゼルス工場

マルコメのロサンゼルス工場。アメリカ向けの商品はここで生産・出荷される

画像 有機みそ

有機JASマークを認証取得した「料亭の味 無添加有機味噌」は有機大豆、有機米100%使用

画像 生みそ汁

さっと手軽にでき、食事の栄養バランスを整える「料亭の味 即席生みそ汁」はお弁当のお供にお薦め

日本におけるみその生産量は、1970年代から毎年約1%ずつ減り続けており、今や1人当たりの年間平均みそ購入量は2kgにすぎないという。これは、1人が家でみそ汁を1週間に3杯しか飲まない計算になるそうだ。

長期低落傾向にあるみそ業界にあって、マルコメは、みそ汁をおいしくかつ手軽に飲んでもらえるよう、だし入りみそや液みそといった画期的な商品を世に出してきた。さらにもう一歩踏み込んで、みそ汁を飲む環境まで提案しようと開発されたのが、2011(平成23)年発売のみそ汁サーバー「椀(わん)ショット」だ。これはワンプッシュでみそ汁約1杯分のみそが出せるマシーン。今年発売された「椀ショット極(きわみ)」はさらに進化し、みそと同時にみそ汁に適温のお湯(75℃)も出る。「液みそ 料亭の味」をセットすれば、オフィスでもランチや残業時の小腹が空いたとき、出来たてのみそ汁が手軽に楽しめるというわけだ。

みそ汁サーバーはもともと、大工場の社員食堂向けに開発された業務用マシンだった。2000年代初頭、このマシンのレンタル事業を開始すると急速に普及し、現在、国内では外食チェーン店を中心に1万台、海外でも千台が稼働しているという。
海外といえば、マルコメは世界5カ国6拠点、45の国と地域で事業を展開。海外の日本食レストランは、この3年で倍近くの5万5千店に拡大しており、大きな需要が見込まれる。昨年末、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも、みそや糀(こうじ)関連商品の輸出の追い風となっている。

さて、発売から30年を経た「料亭の味」だが、現在では安心・安全なブランドとして広く認知され、即席生みそ汁やカップみそ汁、フリーズドライと多様な形態で販売されている。またラインアップも、2009(平成21)年に発売された「料亭の味 減塩」をはじめ、無添加や無添加減塩、無添加有機へと広がり、健康に気を使う人も「料亭の味」ブランドの中から選べるようになった。

「料亭の味」はだしを入れることで、みそが本来持っていた地域の嗜好性という壁を乗り越え、ナショナルブランドに成長した。その陰には、みそという領域を守り、深く掘り下げながらも、時代に応じた食のあり方を常に追求する進取の気質があった。みそや糀といった日本の発酵食品の価値が見直されている今、マルコメは次にどんな未来を見せてくれるのだろう。古くて新しいみそ―、その可能性に期待したい。


取材協力:マルコメ株式会社(http://www.marukome.co.jp/
マルコメ×味噌汁’s

本文でも触れたが、日本人のみそ購入量は減り続けており、特に若い世代は年間平均(2kg)の半分以下だという。液みそも当初は若い女性をターゲットに想定していたが、実際のメインユーザーは60歳以上の高齢者だった。みそ汁を何とか若者に届けられないか? そう考えたマルコメは、「嫁さんはおいしい味噌汁 作れる人と決めてるんだ」と歌う、謎のロックバンド「味噌汁's」とコラボレーションし 「"新しい味噌汁"共同開発プロジェクト」を開始。味噌汁'sは今年5月に「ME SO SHE LOOSE」でメジャーデビュー。マルコメは「マルコメ×味噌汁'sコラボキッチンカー」を仕立て、味噌汁'sが出演するライブ会場をはじめ、全国各地のイベントに駆け付けている。コラボ商品は、2015(平成27)年1月に発表予定。ロックとの出合いで、どんなみそ汁が誕生するのか、乞うご期待!

画像 味噌汁's

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タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治
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