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コクヨ キャンパスノート
ニッポン・ロングセラー考 ノートといえば、これだった30年の歴史を持つ定番ブランド

コクヨの歴史は、帳簿の表紙作りから始まった

創業者・黒田善太郎。22歳の時に大阪の和帳表紙店に丁稚奉公し、後に独立。コクヨを日本一の紙製品メーカーに育て上げた。

   
 
 

1905年に開業した黒田表紙店が初期に製造していた和式帳簿。これ以前は表紙だけを手掛けていた。

黒田国光堂が昭和初期に製造していた洋式帳簿。基本形はそのままに、現在も生産が続けられている。

若い頃日常的に使っていて、大人になったときに「ああ、懐かしいなあ。今もちゃんとあるんだ」と気付くものがある。コクヨの「キャンパスノート」も、そんなロングセラー商品のひとつ。学生時代を通じ、誰もが一度は使ったことがあるはずだ。
地味な大学ノートが一般的だった時代に登場したキャンパスノートは、それまでのノートとはすべてが違っていた。実用品なのに、オシャレでセンスのいいデザイン。根元からページを破ってもバラバラにならない丈夫なつくり。何よりも「キャンパス」という音の響き。これが新鮮でカッコ良かった。使っている自分が、少し大人になったような気がした。

生みの親のコクヨは、今では日本屈指の総合オフィスサプライヤーとして知られている。そのルーツは、1905(明治38)年に富山県出身の黒田善太郎が大阪に開業した、和式帳簿の表紙店。これは手間のかかる表紙だけを作る商売で、当時でもかなり地味な仕事だった。が、誰もやりたがらないニッチな仕事にこそ可能性を見出した善太郎は、そこから洋式帳簿や伝票、便箋、ファイルなど、次々と新しい分野に進出。急速に事業を拡大してゆく。
「買う身になってつくる」「良品廉価」をモットーにしたコクヨの製品は消費者に支持され、創業50周年を迎えた1955(昭和30)年には、既製紙製品メーカーとして押しも押されもせぬ存在となっていた。

ちなみに、今では社名になっているコクヨという名は、かつては商標として使われていたもの。まだ社名が「黒田国光堂」だった1917(大正6)年、善太郎自身が「国誉」という商標を考案した。これは、「温かく送り出してくれた人々の恩に報いるためにも、国(故郷)の誉れにならなければ」という、固い決意の表れだったという。

50年代以降、紙製品メーカーとして大きく成長したコクヨだったが、意外なことにノートに関しては後発メーカーだった。
昔のノートといえば、グレーの表紙とクリーム色の用紙が特徴の大学ノートが良く知られている。これが日本で初めて発売されたのは、1885(明治18)年前後。いくつかの会社から発売され、学生や社会人を中心に徐々に普及していった。
コクヨが最初に手掛けたノートは、戦時中に設立したジャワコクヨ商店向けに作った輸出用ノートで、「カッチャマタノート」と呼ばれた。
同社が本格的にノートの開発を始めたのは、50年代の後半になってから。ちょうど戦後の教育や文化が大きく変わりつつある時期だった。新しい時代のノートを作るなら、今しかない。
後発だったコクヨのチャレンジが始まった。

コクヨ商標の変遷。左から右へ新しくなっている。創業100周年を機に、2005年10月から右端の柔らかな曲線のコーポレートロゴに一新された。


人気の背景にあったのは、欧米有名大学への素朴な憧れ

スパイラル綴じ、ミシン目・穴付きが特徴だった「フィラーノート」。優れた機能とシンプルなデザインで好評だった。

 

写真やイラストを表紙にあしらった意匠ノート。キャンパスノートの前身はここにある。

 

記念すべき初代のキャンパスノート。現在40代の中年世代にとって、最も思い出深いノートではないだろうか。

新しい時代には、新しい機能を備えたノートが相応しい。そう考えたコクヨは、個性的なノートを次々と世に送り出す。
1959(昭和34)年4月、当時としては珍しい無線綴じのB5ノートを発売。一般には表紙と中紙を重ねて二つに折り、折り目を糸で綴じる糸綴じが主流だったが、糸綴じはページを破ると片方のページも抜け落ちてしまう。中紙を背表紙に糊付けする無線綴じは、この欠点を解消するアイデアだった。
その2年後には、切り取ってファイルできるミシン線付きの「フィラーノート」を発売。この製品には、新たにリングを使ったスパイラル綴じが採用された。

1965(昭和40)年、スパイラル綴じを採用したユニークなノートが登場する。表紙に人気イラストレーターの作品や美しい写真があしらわれたこの製品は、意匠ノートと呼ばれた。当時は無地の表紙のシンプルなノートがほとんどだったから、この製品のインパクトは極めて大きかった。
もちろん、そのターゲットは学生を中心とする若者たち。彼らの興味を引くようなイラストが多く使われたが、最も人気を集めたのは、ほかでもない海外の有名大学のキャンパス風景を描いたものだった。

当時の日本の学生たちにとって、欧米の大学のキャンパスは憧れの場所。アイビールックに身を包んだカッコイイ男女が、お喋りしながら楽しそうに歩いている──ケンブリッジやハーバードの美しく広大なキャンパスは、彼らに楽しく充実した学生生活を想像させた。
そこにあったのは、「自分の学生生活もあんな風だったらいいのになあ」という素朴な憧れ。意匠ノートは大学生はもちろん、受験期の高校生にも厚く支持され、予想外の売上げを記録する。

コクヨはこのキャンパスのイメージを前面に押し出した新しいノートの開発に着手する。目標は、今までにない斬新なデザインと高い実用性を両立させること。無線綴じの技術を高めるため開発には時間がかかったが、1975(昭和50)年8月、ついに初代キャンパスノートが誕生した。
シンプルで飽きのこない、落ち着いたデザイン。控えめに描かれた“Campus”のロゴが、今までのノートとの違いを鮮明に印象づけた。表紙のカラーは黄色と青の2色、価格は6号(セミB5)・30枚で90円。当時のハガキの値段が10円だったから高いように思えるが、ノートとしては手頃な価格だった。


ユーザーニーズに合わせ、常に進化し続ける

 
 

歴代で最も売れた2代目キャンパスノート。表紙に中紙の罫内容を表示するという秀逸なアイデアを採用。

 
 

大胆なデザインが高く評価された3代目。いま売られていてもまったく古いという感じがしないだろう。

 
 

お馴染みの4代目キャンパスノート。天地いっぱいに描かれた“Campus”のロゴが目印。背クロスの幅が広くなっている。

コクヨの狙い通り、初代キャンパスノートは小学校高学年から大学生まで幅広い層に支持され、大いに売れた。無線綴じがしっかりしているのでバラバラになりにくいという実用的なメリットと、淡いイエローまたはブルーというセンスの良さを感じさせるカラフルな表紙が、人気を集めた理由だった。
しかし人気商品の宿命か、やがて市場にはキャンパスノートの類似品が現れるようになる。キャンパスノートはデザインを一新し、より独自性を高める必要に迫られた。

そうした背景から誕生したのが、1983(昭和58)年5月に登場した2代目キャンパスノート。
リニューアルのポイントは表紙で、まず表面に中紙の罫内容を表示した。これは表紙を開けなくても罫の幅が分かるようにするための工夫。好評のため、この意匠は現在のキャンパスノートにも受け継がれている。また、“Campus”のロゴが現在のデザインになったのも2代目からだった。
2代目キャンパスノートは歴代のなかで最もヒットした世代で、1988年(昭和63)年にはなんと年間約1億冊が売れたという。80年代は学生の数が多かったということもあるが、それにしても凄い数だ。この時期、ユーザーは学生だけでなく社会人にも拡大していった。ほかの世代の記憶は薄くても、2代目キャンパスノートだけはよく覚えている人も多いのではないだろうか。

3代目キャンパスノートの登場は、1991(平成3)年8月。リニューアルのポイントは、より斬新なデザインの表紙にすることだった。何よりも目を引くのは、縦に置かれた“Campus”のロゴ。加えて淡いベース色と1/4の面積を占める濃色の縦ラインが、明確なコントラストをつくり出している。実用ノートにしてはかなり大胆なデザインだ。
ノートの常識を打ち破る3代目のデザインは、 この年のGマーク選定商品となり、教育用品部門でグッドデザイン部門賞を受賞している。

3代目までのリニューアルがデザイン中心だったのに対し、2000(平成12)年の4代目キャンパスノート(現行商品)は、材料と機能の面で大きな進化をとげた。
コクヨの調査によると、35%のユーザーが「使っているうちにノートの背クロスがほころんでしまう」という不満を持っていたという。そこで、4代目の背クロスにはラミネート加工を施して耐久性をアップ。また環境意識の高まりを考慮し、中紙をバージンパルプから再生紙へと変更した。
機能面では、表紙に名前欄とタイトル欄をプラス。また中紙にも新しい工夫を盛り込み、罫中に目印のポイントを加えて縦線を引きやすいようにした。
この4代目も、同年のグッドデザイン賞を受賞している。


 
ユニバーサルデザイン、人間工学という新たな視点

「キャンパスノート〈パラクルノ〉」。誰にとっても使いやすいユニバーサルデザインが特徴。525円〜630円。

 

「キャンパスノート(スリムB5サイズ)」。斬新な発想から生まれた新感覚のノートだ。126円〜399円。

 
 

30年の間に3度のリニューアルを経て、現在の形になったキャンパスノート。近年は学童数の減少、PCの普及などで、需要は徐々に減少傾向にあるという。
それでも、キャンパスノートは今でも年間6,000〜7,000万冊を販売するノート界のトップブランドだ。スタンダードな無線綴じタイプだけでも、サイズや罫の太さなどによって約100種類がラインアップされている。スパイラルノートやバインダーノート、学用ノートなどを加えれば、そのファミリーは膨大な数になる。

「昔はノートは記録するためのものでした。だから良いもの、使いやすいものが選ばれたんです。今の方はメモ代わりに使うという感覚なので、それほどこだわりがないんですね」と、同社で企画開発を担当する斎藤未生子さんは語る。
確かにその通りかもしれない。今や私たちはメモや下書きを取るためにノートを使い、文章をまとめる際にはパソコンを使っている。キャンパスノートを使っていても、昔のように記録を残すために使っている人がどれだけいるだろう。
コクヨは、そんなノートの使われ方に危機感を抱いている。
「仕事や学習といったシーンだけでなく、これからは趣味のシーンで使われるノートが増えてくると思います。こだわりを持った人に選ばれるノートを提供していきたいですね」

そんな思いが形になったのが、昨年発売された「キャンパスノート〈パラクルノ〉」と「キャンパスノート(スリムB5サイズ)」。
キャンパスノート〈パラクルノ〉は、切り口の上半分と下半分に逆方向のナナメカットを施し、裏表どちらからでも簡単にページをめくれるようにしたユニークなノート。キャンパスノート発売30年を記念した『コクヨ デザイン アワード 2002』の受賞作品を製品化したもので、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れている。
もうひとつのキャンパスノート(スリムB5サイズ)は、人間工学に基づき、ノートのサイズを「使われ方」視点で再考した製品。無駄なく使える書きやすいサイズ、視野に収まる読みやすいサイズ、片手で持ちやすいサイズを同時に実現するために、横幅を146mmに抑えているのが特徴だ。

キャンパスノートは、実用ノートの新しいスタンダードを打ち立てた。今はそのスタンダードが再び見直される時期なのかも知れない。もちろんコクヨのことだから、きっと素晴らしく魅力的なノートを作ってくれるだろう。
次世代のキャンパスノートはどんな形になっているのだろうか。

 
取材協力:コクヨ株式会社(http://www.kokuyo.co.jp/

これからのステーショナリーはアートになる?
 
「コクヨ100周年記念装丁ノート(松田行正限定デザイン)」(手前左、2,625円)、「コクヨ100周年記念ボールペン&カードケース(黒崎えり子限定デザイン)」(手前右、ボールペン・カードケース共に16,800円)、「コクヨ100周年記念PC用バラエティセット(グルーヴィジョンズ限定デザイン)」(奥、9,345円)。   マウス、マウスパッド、CD/DVDファイル、シールなどが入ったグルーヴィジョンズ・デザインの「PC用バラエティセット」スペシャルBOX。
  昨年は、コクヨにとって創業100周年という記念すべき年だった。それに合わせ、同社はいくつかの記念商品を発売している。この春にかけて発売されるのが、「アーティストとの限定コラボレーション商品」。「文具をアーティストの視点で創造したらどうなるか?」という点からも興味深いものばかりだ。
第1弾は、アートディレクション、装丁、執筆など多方面で活躍しているブックデザイナー・松田行正氏とのコラボレーション作品「コクヨ100周年記念装丁ノート(松田行正限定デザイン)」。本のように大切に使いたくなるノートがコンセプトで、虹をテーマにしたものと宇宙をテーマにしたものの2種類がある。
第2弾は、女性に人気のネイルアーティスト・黒崎えり子氏とのコラボレーションによる「コクヨ100周年記念ボールペン&カードケース(黒崎えり子限定デザイン)」。クリスタルを散りばめた逸品で、まるでジュエリーのような仕上がりが特徴だ。
第3弾(5月2日発売予定)は、デザイングループ“グルーヴィジョンズ”とのコラボレーション作品「コクヨ100周年記念PC用バラエティセット(グルーヴィジョンズ限定デザイン)」。マウス、マウスパッド、CD/DVDファイルなどが入ったボックスセットで、カラフルでポップな色遣いがデスクワークを楽しく演出してくれる。
 
撮影/海野惶世(タイトル部) タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 Top of the page

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