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大ヒット作「野球盤AM型」を彷彿とさせる「野球盤スタンダード」。親子で楽しむという、新しい楽しみ方が生まれた。 |
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2005年に発売された「実況パワフル野球盤」(7980円)。コナミとの共同開発で、臨場感にあふれた実況が楽しめる。 |
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歴代で最も売れた「野球盤AM型」(3000円、販売終了)。ほかに機能を制限したB型、廉価版のC型があった。 |
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80年代のヒット作「パーフェクト野球盤A型」(5450円、販売終了)。9大メカは当時の子供たちを驚嘆させた。 |
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予想外の失敗作となった「ビッグエッグ野球盤」(9980円、販売終了)。野球盤に自動化は似合わなかった。 |
続く1974(昭和49)年は、野球盤にとっても、実際の野球にとっても記念すべき年となった。
この年発売した「野球盤AM型」は、消える魔球に加え、バットを突起で固定し、ボタン操作で振ることができる「ワンタッチヒッティング装置」と、ストライクやボールなどのカウントを表示できる「ダイヤルカウンター装置」を搭載。この形が70年代野球盤のスタンダードとなり、累計で300万台を出荷。歴代で最も売れたモデルとなった。
またこの年は、野球盤と深い縁を持つ長嶋茂雄が引退した年でもあった。前年には巨人がV9を達成しており、このあたりが野球人気のピークだったのかもしれない。
以降も毎年のように野球盤は改良が加えられ、新製品が発売されていくが、モデル毎に売れ行きに差が出てくるようになる。
1982(昭和57)年の「パーフェクト野球盤A型」は、それまでに搭載した様々な機能をすべて盛り込んだうえで、新たに「オートランナー装置」と「スピードガン装置」を搭載。全部で9種類の機能を持つ、野球盤の集大成的モデルだった。販売面も好調で、80年代のヒット作となった。
一方、鳴り物入りで発売しながらあまり評判にならなかったのが、88(昭和63)年の「ビッグエッグ野球盤」。東京ドーム完成の年に発売されたこのモデルは、エポック社創立30周年の記念モデルでもあった。当時爆発的に流行していたファミコンの影響を受けて電池式を採用し、12種類もの機能すべてをオートマチック化。ところがこれが仇になり、細部まで自分で操作する野球盤ならではの面白さが半減してしまった。
高価だったことも災いし、このモデルは人気商品になることはないまま販売終了。翌年、エポック社は仕切直しの意味を込めて、電池を使わずに遊べる「パーフェクト野球盤カスタム」を発売した。
90年代前半は野球盤にとって苦難の時期だった。1993(平成5)年にJリーグが開幕。子供たちの関心も野球からサッカーへと移っていった。
エポック社は97(平成9)年に電池不要、アナログの粋を集めた「フルオート野球盤PRO」を発売し、野球盤本来の面白さと現代性をマッチさせた。しかしながらTVゲームがどんどん進化したこともあり、子供たちの興味が急激に参加型ゲームから離れていってしまう。
90年代後半以降は、実際の野球界にもイチローや松井秀喜の大リーグ入りくらいしか大きな話題がなく、野球盤自体もかつてのような新機軸を打ち出した新製品は発売されなくなった。
変化の兆しは2000年(平成12)年にあった。この年、エポック社は最初の野球盤を忠実に再現した「(初代)野球盤復刻版」(1万8000円、2000台限定)を発売。これが評判を呼び、04(平成16)年には「野球盤スタンダード」を発売した。これは野球盤史上最も人気の高かった「野球盤AM型」のイメージを復活させたモデルで、30〜40代の男性に大いに支持され、意外なヒット作となった。
かつて野球盤に夢中になった大人たちが30年の時を経て、今度は自分の子供たちと一緒に野球盤を楽しんでいるのである。一方の子供たちも高度になり過ぎたTVゲームから離れつつあり、野球盤が持つシンプルで奥深いゲーム性に新鮮な面白さを感じたのだろう。
誕生してから約50年。エポック社は毎年のように野球盤の新製品を発売し続けてきた。累計販売数は既に1000万台を超えているという。誰もが認めるロングセラーゲームとなった野球盤だが、その人気が実際の野球人気とシンクロしていることも明らかだ。テレビのプロ野球中継が激減し、子供たちを多種多様な娯楽が取り巻く現代は、野球盤にとっては最も厳しい時代かもしれない。
それでも、野球盤は親子で楽しむコミュニケーションツールとしての、新たな存在価値を見出した。ピッチャーが投げ、バッターが打ち、野手が捕球するという野球が持つシンプルな楽しさに、子供たちが気付き始めたのだろう。
その楽しさの原点は、バネ仕掛けの投球とゼンマイ仕掛けの打撃にある。これだけは約50年に及ぶ野球盤の歴史の中で、一度も変わっていない。 |