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マグネットシューズと白バラのヘアピンが特徴の2代目リカちゃん。 |
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3代目リカちゃんは表情が変わった。ストレートヘアのせいか、ちょっと大人っぽく見える。 |
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現行バージョンでもある4代目リカちゃん。登場した80年代後半はアイドル全盛期。表情はその影響を受けている。価格は「かわいいリカちゃんギフトセット」で4,200円。 |
着せ替え人形のビジネスは、消費者に最初の一体を買ってもらったところからスタートする。ハウスやドレスはもちろん、靴、帽子、鞄などの小物を消費者が継続して購入することによって、メーカーは初めて大きな収益が見込めるのだ。そのためには魅力的な周辺アイテムを次々と提供していかなければならないし、新鮮さを失わないよう、人形本体にも手を加えていかなければならない。
興味深いのは、こうして作られたリカちゃんワールドが、常にその時代を反映しているという点だろう。リカちゃん40年の歴史は、現実の社会をリアルに反映した40年でもあるのだ。
リカちゃん自身の変化を軸に、その歴史を辿ってみよう。
リカちゃんワールドの基礎は、70年代初めまでの初代リカちゃんの時代に作られている。
少女漫画から抜け出してきたようなリカちゃんは、ボーイフレンドの「わたるくん」と一緒にドリームハウスで遊んでいた。その後ガールフレンドの「いづみちゃん」を交えて「リカちゃんトリオ」を結成。ママの登場もこの時代だ。
ドレスは「レザーのミニスカート」と「ヒッピーパンタロン」。当時流行のファッションをちゃんと採り入れていた。買い物に行くのは「リカちゃんデパート」。時には「夢のボーリング場」で汗を流すことも。どれもみな、現在50歳前後の女性たちには懐かしい風俗ではないだろうか。
2代目リカちゃんが登場したのは1972(昭和47)年。時代は高度経済成長の真っ只中である。
リカちゃんの表情はそれほど変わらなかったが、マグネットシューズの採用により、スタンドに立たせることができるようになった。家族も増え、初代の双子の妹「ミキ」「マキ」が登場。
「おしゃれランジェリー」「ピンクレディドレス」など、リカちゃんのファッションも多様化していった。住宅事情の変化を反映し、ハウスも「ニューリカちゃんマンション」へと変更。そこに置かれる家具は「白い白い家具シリーズ」だ。食料品の買い出しは「なかよしスーパーマーケット」へ。「ファインカラーキッチンセット」で、リカちゃんは料理にもチャレンジする。
ニューファミリーと呼ばれた新しい家族と、モノに囲まれた豊かな生活。70年代の生活感を、リカちゃんワールドは忠実に再現していた。
3代目リカちゃんは1982(昭和57)年に登場した。顔がややふっくらし、体型は初代・2代目よりスリムになった。髪型はそれまでのカールからストレートヘアに変更。後に「ポニーテールのリカ」「まきまきカールリカ」など、髪のバリエーションを変えたリカちゃんも登場している。
「コトコトキッチン」「カードクッキング」など、この時代、リカちゃんは料理に凝っていたようだ。「マクドナルドショップ」「すかいらーく」「セブンイレブン」など、実際にあるショップもこの時代に次々と登場。しかし3代目はいまひとつ人気がなかったらしく、比較的短命に終わっている。
続く4代目の登場は1987(昭和62)年。顔はやや細面になり、全体にアイドルっぽく華やかになった。また、女の子の成長が早くなったことを考慮し、身長は1cm伸びて22cmになった。
4代目リカちゃんは、バブル経済が終焉を迎えつつある80年代後半から日本経済が停滞期に入った90年代を経て、復活の兆しを見せ始めた現在も継続して販売される、歴代で最も長寿なリカちゃんである。
4代目登場と同時に三つ子の赤ちゃんが生まれ、リカちゃんファミリーは更に賑やかになった。
興味深いのは、お父さんが89(平成元)年になって初めてその姿を現したことである。設定上、リカちゃんには素敵なお父さんがいながら、なぜかずっと行方不明ということになっていた。少女漫画のヒロインがそうであるように、いつも明るいリカちゃんもこんな不幸を背負っていたのである。遊ぶ側の女の子からすれば、「ごっこ遊び」にお父さんはそれほど重要ではなかったのかもしれない。あるいは、実際のお父さんが忙しすぎて子供と接する時間がなかったことを反映しているのだろうか。
90年代以降はリカちゃんバリエーションの多様化が進み、「小野小町リカちゃん」「ベルサイユのリカちゃん」「リカちゃん七福神」「名古屋嬢リカちゃん」など、変わり種リカちゃんが次々と登場した。
しばらく大きな変更がなかったハウスも、2004(平成16)年にリカちゃんがハートヒルズに移転してからは、「おへやいっぱいゆったりさん」という家具付きの豪華なバージョンが登場。「ワンにゃんペットサロン」に見られるように、ペットも重要なアイテムになっている。
図らずも格差社会の様相まで再現しているかのような、現在のリカちゃんワールド。案外、難しいところにさしかかっているのかもしれない。
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