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グランドキングで最も売れている人気商品「GK-56」。ナイロンとレザーを組み合わせたミドルカットタイプ。19950円。 |
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フィールド用の新商品「GK-26」。グリップ力と衝撃吸収性に優れたソールを採用している。18375円。 |
キャラバンシューズは登山ブームを支え、日本人を山へと駆り立てる立て役者となった。
文部科学省登山研究所のデータによると、日本の登山人口は1976(昭和51)年で約360万人。それが97(平成9)年には約580万人にまで増えている。2000年以降はやや減少傾向にあるが、それでも400万人以上の水準にある。現在は90年代に始まった第二次登山ブームの最中にあるのだ。ただ、その内訳は大きく変化した。今、登山人口の約7割は40代以上の中高年が占めているといわれる。
登山のスタイルも昔に比べると様変わりした。山までの交通の便が良くなり、麓の宿泊施設も充実してきた。装備は昔とは比較にならないくらい軽くなり、登山靴も多機能化・軽量化・ファッション化が進んでいる。キャラバンシューズを履いて冬山登山に挑戦したかつての若者たちは、年齢を重ねた今、よりカジュアルに山を楽しもうとしているのだ。
こうした登山スタイルの変化は、キャラバンシューズの命運に少なからぬ影響を与えた。稀代のロングセラー登山靴となったキャラバンスタンダードは、2003年にその生産を終了。総生産数は、50年の歴史で約600万足にも及んだ。今は1981年に登場した「グランドキング」ブランドが、キャラバンシューズのコンセプトを受け継いでいる。
生産終了後も、キャラバンのオフィスには「キャラバンシューズを復活して欲しい」という電話がよくかかってくるという。また、ボロボロになったキャラバンシューズを自分で丁寧に修理し、山登りを続けている愛好家も少なくない。キャラバンは自社製品のリペアサービスを実施しているが、アッパーとソールが完全に一体化しているキャラバンシューズは、残念ながらその対象になっていないのだ。だからこそというべきか、登山靴の歴史におけるキャラバンシューズの存在価値は、ますます高まっているような気がする。
進化は続けたが、ゴアテックスのような高い防水・防湿性を持つ最新素材は最後まで使われなかった。新世代のグランドキングより重く、デザインはいかにも武骨だった。90年代以降、キャラバンシューズは古びてしまっていたのかもしれない。
だが、キャラバンシューズは間違いなく日本でいちばん愛用された登山靴である。マナスルに挑戦した日本を代表する登山家も、古くから山を知るベテランの一般登山家も、耐寒登山に参加させられた小学生や中学生も、みんなキャラバンシューズを履いて山に登った。なぜなら、山に登るにはその靴が必要だったから。トレッキングシューズの原点が、その靴にはあったから。
開発者の佐藤久一朗は長く仕事中心の生活を続けていたが、後年山へ回帰し、69歳になってスイスアルプスのアイガー登頂に成功している。記録は残っていないが、その時、佐藤が履いていたのは自身が手直ししたキャラバンシューズだったのではないか。そんな気がする。この靴を履いて世界の巨峰に挑戦したいと誰よりも強く願っていたのは、ほかならぬ佐藤だったはずだから。
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