その後も、ボンド木工用はその仕様を細かく変えてゆく。私たちになじみ深い「なで肩の黄色い容器」が登場するのは1972(昭和47)年。赤色キャップが採用されたこの形は、現在発売されている容器の原型といえるフォルムだ。
74(昭和49)年にも大きな変更が行われている。ボンドのロゴタイプが滴をイメージさせる従来のものから、現在も使われているプレーンなものに変わったのだ。その5年後の79(昭和54)年には、容器のデザインを初めて外部のデザイナーに委託。この時、なで肩のフォルムは安定感を感じさせるものになり、現在に至るまでその形は変わっていない。
面白いのは、ラベル表記に変更があったことだろう。99(平成11)年、その2年前に一新したコニシのブランドマークを添付すると共に、「木工用ボンド」から「ボンド木工用」という表記へと変更。これには、「コニシのボンド」であることを強調するという意味があった。もともと本社がある関西では「コニシのボンド」が広く認知されているが、関東では「ボンド」だけが一人歩きし、コニシブランドの印象が薄かったのである。
以降もボンド木工用の容器には、01(平成13)年には前面と背面に点字を刻印、02(平成14)年には容器に再生プラスチックを採用してエコマークを取得といった具合に、毎年のように小さな改良が施されている。
2007(平成19)年6月、ボンド木工用はその容器の外観を立体商標登録した。容器・ラベル・ボンドのロゴタイプすべてを包含した形で、商標が認められたのである。バブル以降、会社の方針として進めていた産業財産権取得強化の一環としての出願だった。コニシの広報担当者はこう語る。「ボンド木工用は会社の財産。立体商標登録すれば、社史に残ります。開発した人にとっても、新しい人にとっても、それは大きな誇りになるはずですから」
一方、接着剤そのものにも毎年のように細かな変更が加えられている。環境意識の高まりや人体へのアレルギー問題を受け、接着剤に対する法的規制が毎年厳しくなりつつあるのだ。主成分が酢酸ビニルエマルジョンであることに変わりはないが、処方の変更によってボンド木工用も細かな成分が微妙に変わっているという。ちなみに、人体に悪影響を及ぼすとされるホルムアルデヒトは最初から入っていない。
現在、ボンド木工用シリーズにはスタンダードタイプの他に、乾きが速い「ボンド木工用速乾」と、さらに乾きが速く細口ノズルを採用した「ボンド木工用プレミアム」がある。シリーズ全体での年間販売本数は約700〜800万本。そのうち約400万本を占めているのが、最も小さな50g容量の製品、つまり私たちにお馴染みの“黄色いなで肩の”ボンド木工用だ。ここ数年は100円ショップで売られている海外製の接着剤に押され気味だが、もちろん木工用接着剤ジャンルでは他の追随を許さない。50年以上にわたるトップブランドなのである。
工作の時間に、子供たちが木の模型を作るようなことはもうないかもしれない。子供なら誰もが提出した夏休みの工作も、今は必須ではなくなったと聞く。昔のような学校需要を期待することはもうできないだろう。
その代わり、今のボンド木工用はペーパークラフトやフラワーアレンジメントなど、趣味を楽しむ大人たちに幅広く愛用されているという。ここに新たな需要のヒントがありそうだ。
考えてみれば、ボンド木工用を発売したときから、コニシは自ら需要を開拓してここまで伸びてきた。つないで、くっつけて──これから数年後、私たちは思いも寄らない用途にボンド木工用を使っているかもしれない。
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