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コンビニ向けの「コーヒーヌガー」。パッケージデザインは従来品と同じだが、サイズが一回り大きい。下面にバーコードが見える。 |
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プレミアムな味わいの新製品「きなこもち黒みつ仕立て」。キャラクターの「きなこもち君」はファンにはお馴染み。 |
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スーパーやコンビニで売られるアソート品「きなこもち〈袋〉」。他に吊り下げタイプもある。 |
一粒チョコとしての販売が軌道に乗ったチロルチョコだったが、再び新たな問題が持ち上がってきた。バブル期以降、街の駄菓子屋の数が激減し、販路の縮小傾向が続いていたのである。
ここで辣腕を振るったのが、90年代以降、チロルチョコの経営を切り盛りしてきた3代目社長の松尾利彦。彼が目を付けたのは、急激に市場を伸ばしつつあるコンビニだった。某チェーンでのテスト販売は成功したが、その後既存の商品のままでは販売が難しい事が判明した。サイズが小さすぎて、パッケージにバーコードを印刷できないのである。コンビニではPOSで商品管理を行っているから、バーコードの印刷は絶対条件。そこでパッケージにバーコードを印刷するため、今までより一回り大きなチロルチョコを新開発。1993(平成5)年から、コンビニでは20円で販売することにしたのである。
10円のチロルチョコは既存の流通で販売し、10円というチロルチョコのアイデンティティを守り続ける。その一方で、新たな時代、新たな販路に向けた新しいコンセプトのチロルチョコを開発する。
根底にあったのは、「チロルチョコを子供の駄菓子で終わらせたくない」という熱い思い。コンビニには子供から大人まで、男女を問わずあらゆる年代の消費者がやって来る。しかも店頭に並んでいるチョコレート菓子は大手メーカーの人気商品ばかり。そんな中にあって、1辺3cm角の一粒チョコが存在感を主張するためにはどうしたらいいのか? 出した結論は、“消費者が予想し得ない面白さ”を備えた商品づくりだった。
味のバリエーションに工夫を凝らし、一見チョコレートには結び付かないような味にも果敢に挑戦する。パッケージデザインには特に力を入れ。遊び心を盛り込んだデザインを積極的に採り入れる。そんな考え方が浸透し、2000(平成12)年以降、チロルチョコは毎年10〜15種類ほどの新製品をコンスタントに発売し続けている。
また04(平成16)年には、企画・販売部門を分社化させたチロルチョコ株式会社を東京に設立した。
ここ数年のチロルチョコの中で最もインパクトの大きかった商品は、2003(平成15)年の秋冬シーズンに発売し、大ヒットを記録した「きなこもち」だろう。その過熱ぶりはテレビでもよく取り上げられたから、覚えている読者も多いはず。もっとも、当の松尾製菓はそんなに売れるとは夢にも思っていなかったらしい。
もともと「きなこもち」は、ある企画担当者が長年温めていたアイデアだった。もちグミときなこチョコを組み合わせた試作品を企画会議に出したところ、評判は上々。ただ、きなこ(和)とチョコレート(洋)の組み合わせはいかにもキワモノ的で不安が残る。外す可能性もあるということで、当初はアソート品に入れる1商品として開発を進めていた。ところが、コンビニのバイヤーに試食してもらったところ、返ってきたのは「こんなに美味しいなら単品でもいけるよ」という好反応。これに意を得て単品発売したところ、若い女性の口コミ効果で徐々に人気に火が付き、最終的にはわずか5ヶ月間で約1700万個も売れたのだった。
以降、「きなこもち」は秋冬の限定商品として毎年必ず店頭に並ぶ定番商品に昇格。昨年の冬はコンビニで単品を約2900万個、袋入り商品で約1億個(個数換算)を販売している。この数字は、チロルチョコ全体の販売量の約2割に当たる巨大なものだ。ファンの間では、「きなこもち」は箱買いが当たり前になっているという。
ちなみに今年の「きなこもち」は、黒みつを加えてワンランク上の味を実現したコンビニ限定の「きなこもち黒みつ仕立て」が新登場。これは2005(平成17)年から発売されているプレミアムチロルチョコのひとつで、値段は1個30円前後。1個10円からここまで来たかという気もするが、食べてみると味の違いは明らか。チロルチョコは今も進化し続けているのである。 |