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ニッポン・ロングセラー考 Vol.79 森永ホットケーキミックス 森永製菓 簡単に作れてアレンジも多彩!再び注目を集める手作りおやつ

ホットケーキではなく、ハットケーキだった?

1957年、最初の「森永ホットケーキの素」

今から52年前に発売された「森永ホットケーキの素」。商品名はもとより、パッケージデザインも現行製品とは大きく違っている。写真のホットケーキは驚きの5段重ねだ。

インスタントマーク

発売の翌年、パッケージに付けられたインスタントマーク。

クッキー、プリン、ドーナツ…家庭で作るおやつにはさまざまな種類があるが、多くの人にとって最も馴染み深いのは、ホットケーキではないだろうか。子供の頃、母親がフライパンで作ってくれたホットケーキの、ふんわりとした食感と滑らかな口溶け。とろりとしたシロップの甘さと、ほのかに広がるバターの香り。あの美味しさが、子供の頃の幸福な記憶に織り込まれている人は少なくないはずだ。
家庭で簡単にホットケーキを作れるようになったのは、ホットケーキミックスが登場したから。そもそもホットケーキは、小麦粉とベーキングパウダーをふるいにかけ、それに卵・牛乳をダマにならないよう丁寧に混ぜて焼き上げるという手間のかかる料理。ホットケーキミックスには最初から小麦粉やベーキングパウダーが配合されているので、卵と牛乳を加えるだけで、誰でも簡単にホットケーキを作れるようになったのだ。

日本で最初にホットケーキが提供されたのは、1923(大正12)年のこと。東京のデパートの食堂に「ハットケーキ」というメニューが登場し、人々の注目を集めたという。西洋文化への憧れが強かったこの時代、街の食堂は座敷からテーブル・椅子席に変わりつつあり、メニューには洋食が目立つようになっていた。ハヤシライスやスパゲティがそうだったように、ハイカラなホットケーキも庶民の間で大きな話題になったに違いない。
その後、1930年代にいくつかのメーカーから無糖のホットケーキミックスが発売されたが、どれもほとんど普及しなかった。状況が一変したのは1957(昭和32)年前後。この頃、製粉メーカーを中心に複数の会社が加糖タイプのホットケーキミックスを発売し、需要は一気に拡大。市場には製粉メーカーだけでなく、製菓メーカーも参入した。62(昭和37)年には、主だったところだけでも17社がホットケーキミックスを発売していたという。

中でも人気を博していたのが、森永製菓が1957(昭和32)年に発売した「森永ホットケーキの素」。中年世代にホットケーキの思い出を尋ねると、森永の名を挙げる人が非常に多い。彼らの脳裏には、「森永ホットケーキミックス」の味だけでなく、パッケージのアイコンにもなっている“大きな赤いアイキャッチ”が強く印象に残っている。
発売当時の値段は、450gで180円。パッケージにはチューブ入りのメープルシロップが添付されていた。キャラメル一箱が20円、かけそば一杯25円の時代だったから、にわかにブームとなったホットケーキミックスは、かなり贅沢なおやつだったと言える。

ホットケーキミックスがブームになった背景には、食の洋風化と共に、作る上での手軽さがあった。1950年代後期から60年代にかけてフリーズドライ食品や冷凍食品が次々と登場し、食のインスタント化が急速に進んだ。ホットケーキミックスもまた、インスタント食品のはしりだったのだ。
ちなみに森永製菓は、「インスタント」という言葉を世に知らしめたパイオニアでもある。発売の翌年には、「森永ホットケーキの素」のパッケージにインスタントマークを表記。その1年後には、日本初の国産インスタントコーヒーを発売している。
だが簡単に作れるという特徴は、他社のホットケーキミックスもみな同じ。森永の製品だけが、なぜここまで大きな存在になったのだろう?


きめ細かな商品づくりでトップブランドに成長

1959年の「森永ホットケーキの素」
1961年の「森永ホットケーキミックス」
1959年には商品名が「森永ホットケーキミックス」に変わり、シロップなしに変更。価格の安さもあって大いに売れた。

1961年のパッケージ。表面にはかの有名な森永の登録商標「エンゼルマーク」が付けられた。

1963年の「森永ホットケーキミックス」
粉末メープルシロップを添付した1963年の「森永ホットケーキミックス」。ホットケーキミックスのスタンダードでもある
粉末メープルシロップを添付した1963年の「森永ホットケーキミックス」。ホットケーキミックスのスタンダードでもある。

パッケージに大きな手を入れたのは1968年。開けやすさを考え、ジッパースタイルを採用した。

発売から2年後の1959(昭和34)年、森永は商品名を「森永ホットケーキミックス」に変更。パッケージの表面に森永の登録商標である“エンゼルマーク”を大きく表記した。同時に、容量を変えず、「森永ホットケーキの素」の価格を一気に100円まで引き下げた。従来製品では同梱していたシロップを別売りにして、消費者がより購入しやすい価格を実現したのだ。他社製品の値段は不明だが、森永のこの戦略が大きな販売増をもたらしたことは容易に想像できる。この時はシロップ付きの製品もラインナップに残したが、シロップなしの商品の方が圧倒的に売れたという。
手頃な価格になった新商品の売れ行きが好調だったため、60(昭和35)年には950g入り・200円の特大サイズを発売。拡大する需要に応じると共に、人数の多い大家族のニーズにも応えた。

1963(昭和38)年には、容量と価格はそのままで、粉末タイプのメープルシロップを添付。市場拡大のために一度はシロップを外した森永だったが、変化した消費者のニーズに合わせ、再び商品の内容を変えている。この頃、「森永ホットケーキミックス」は発売当初の葯10倍もの販売量を達成しており、市場では一番の人気商品となっていた。ホットケーキにとって、シロップは必須アイテム。従来と同じ価格でシロップ付きを提供できたら、商品の魅力はさらにアップする。シロップの再添付は、おそらくそういう判断からだろう。

以降も森永は、多様化・細分化する消費者ニーズを巧みに掬い上げ、毎年のように商品に手を加えた。1965(昭和40)年には「メープルシロップ」タイプのほかに「チョコレートシロップ」タイプを発売。75(昭和50)年にはホットケーキの味自体を見直し、新たに無漂白の小麦粉を使用。87(昭和62)年にはシロップをリキッドタイプに変え、同時にはちみつを加えている。89(平成元)年には、ハイグレード志向の「ニューホットケーキミックス」(400gで400円)を発売。この頃から90年代にかけては今まで以上に子供マーケットを意識し、「リカちゃん」や「コニーちゃん」など、女の子に人気のキャラクターを起用したコラボ商品を発売している。

商品スタイルだけでなく、パッケージも度々変更されている。1968(昭和43)年には、開けやすさを考えてジッパーオープンスタイルに変更。71(昭和46)年には「森永ホットケーキミックス」の印でもある、お馴染みの“大きな赤いアイキャッチ”を採用した。
現在のパッケージは、2008(平成21)年8月にリニューアルしたもの。現行商品は150g入りの使い切りタイプ・380g(ミックス150g×2袋、ケーキシロップ40g×2袋)タイプ・600g(150g×4袋)タイプの3種類。シロップはリキッドタイプが同梱されている。

1971年の「森永ホットケーキミックス」

1971年には、「森永ホットケーキミックス」のアイコンとなっている“大きな赤いアイキャッチ”を採用。

消費者ニーズに合わせたこうした細かなリニューアルは、「森永ホットケーキミックス」最大の特徴かもしれない。また、時代に応じて消費者へのアピールポイントを変えたことも見逃せない。社会がそれほど豊かでなかった発売当初は水でも美味しく作れることを訴求し、余裕がでてきた時代には牛乳の使用を提案。「慣れ親しんだ味わい」はもとより、こうした消費者目線での商品づくりや丹念な販売戦略が、「森永ホットケーキミックス」をロングセラー商品へと成長させたのだろう。


“たこ焼きや肉まんにも!──増え続けるアレンジレシピ

現行の「森永ホットケーキミックス」3点

現行の「森永ホットケーキミックス」は容量違いで3バリエーションある。左から使い切りタイプの150g、シロップ付きの380g、ファミリーサイズの600g。

景気の悪化によって消費全体が冷え込んでいるが、ホットケーキミックスの市場はその限りではないようだ。市場全体の売り上げ規模は年々伸長。シェア40%を誇る「森永ホットケーキミックス」の販売量も、毎年順調に増えている。
景気悪化による内食ブームがその背景にあるのは明らかだが、ホットケーキミックスそのものが持つ商品性が、再び消費者に見直されていることも大きな要因だ。特に注目されているのは、基本食材としての応用範囲の広さ。試しに、日本最大のレシピ検索サイト「クックパッド」でホットケーキミックスを検索してみよう。掲載されているレシピは、なんと葯12,000品目(11月中旬時点)。ドーナツやワッフル、カップケーキといった定番的なメニューはもちろん、たこ焼きや肉まん、アメリカンドッグ、蒸しパンなどの変わり種レシピがずらりと上がってくる。アレンジレシピの多さではチョコレートにも並ぶ勢いで、その数は日に日に増え続けている。もはやホットケーキミックスは、手作りおやつに欠かせない万能食材になっているのだ。

実は森永は、「森永ホットケーキミックスの素」を発売した時から、ホットケーキミックスのアレンジレシピを消費者に提供していた。広告などの紹介文では、「ワッフル、ソフトドーナツ、マフィンなど」も作れることを積極的にアピール。シロップが別売になった1959(昭和34)年のパッケージでは、前面のホットケーキに加え、背後にドーナツの写真をあしらっている。当時ワッフルやマフィンを作ったことがある消費者がどれほどいたかは分からないが、最初の商品から“ホットケーキに限定しない多種多様な使い方”を紹介していた点は、自社の製品の可能性を充分に理解していた証拠だろう。

「ミックス以外の材料が少なくて済む」「とにかくバリエーションが豊富」「何を作るにしても、まず失敗しない」──ホットケーキミックスのアレンジレシピを楽しんでいる人に話を聞くと、こうした答えが返ってくる。そして、彼らが最も良く使っているのが「森永ホットケーキミックス」。理由は、「どこにでも売っているから」「子供の頃から食べ慣れている」「安心感がある」など様々だ。容量や価格の点だけを見れば、「森永ホットケーキミックス」も他社製品も、それほど大きな違いはない。だが多くの消費者が、店頭で迷わず「森永ホットケーキミックス」を手に取っている。
最も大きな違いは、森永が50年以上にわたって培ってきたブランドへの信頼感と、基本的には昔から全く変わっていない美味しさだ。生地自体の甘さは控えめで、焼き上がりはふっくら、しっとり。子供の頃から「森永ホットケーキミックス」に親しんできた世代にとって、この「どこか懐かしい味わいと優しい口あたり」は、簡単には譲れない大切な要素になっている。


 
ホットケーキ作りが子供の“生きる力”を育てる

川島隆太教授

森永と共同研究を行った東北大学の川島隆太教授。「ブレインイメージング研究」の第一人者。

親子でホットケーキ作り

幼い頃に体験した親子一緒のホットケーキ作りが、心の発達に好影響を与えるという。

最後に、「森永ホットケーキミックス」を巡る興味深い話題を紹介しよう。森永製菓は現在、おやつの視点から食育に取り組む“菓子育”に力を入れている。2007(平成19)年からは、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授と共同研究を進めてきた。
研究テーマは、「親子のコミュニケーションがもたらすホットケーキ調理の可能性」。まず最初に、ホットケーキ調理などの“おやつ作り”の体験が子供の脳活性にどのような影響を及ぼすかを、様々な年齢の児童を対象に計測した。その結果分かったのは、「幼児や児童が親と一緒におやつを作る時、様々な場面で脳の前頭前野が活性化している」「程よい難しさの作業をしている時ほど、より前頭前野が活発化する」という2点。親子でのおやつ作り体験は、幼児や児童の脳の発達にとって有効に働いていると推察される。

また、この研究では幼少期における親子の調理体験が、その後の成長にどのような影響を与えるかという点についても検証した。具体的には大学生を対象に、幼少期に親と一緒にホットケーキやおやつを作る体験をしたかどうか、またその体験が主観的幸福感にどのような影響を及ぼしているかをアンケートで調査。そこから分かったのは、体験者の方が、その後の人生では主観的幸福感を感じているケースが多いというものだった。つまり、親子間における楽しい食の共有体験が、心の成長に良い影響を及ぼすと考えられるのだ。

「なるほど」と思わせられる結果ではないだろうか。現在の自分が幸福であるかどうかは別にしても、子供の頃に母親がホットケーキを焼いてくれた光景は、誰の心にも幸福なイメージとして残っているはずだ。川島教授は、親子のおやつ作り体験が、子供の“生きる力”を育てるひとつのきっかけになると指摘している。

小さな子供のいる家庭なら、「森永ホットケーキミックス」を使って子供と一緒にホットケーキ作りに挑戦してみてはいかがだろう。親子の絆を深める絶好のチャンスだ。子供がいない若い人なら、友人や恋人と一緒にアレンジレシピに挑戦してみよう。今まで以上に2人の距離が近くなるかもしれない。
内食に目が向いている今だからこそ、手作りおやつの代表格「森永ホットケーキミックス」の存在感が際立ってくる。クリスマスに向け、出番はますます増えるに違いない。

 
取材協力:森永製菓株式会社(http://www.morinaga.co.jp
     
おやつ作りが楽しくなるさまざまなケーキミックス
その他のケーキミックス4点
左から「クッキーミックス」「チョコチップミックス」「レアチーズケーキミックス」「パンケーキミックス」。

応用範囲の広いホットケーキミックスだが、森永製菓は個別のおやつに適した専用のケーキミックスも販売している。卵1個でバラエティ豊かなクッキーを簡単に作れるのが「クッキーミックス」。クッキー、マフィン、ホットケーキなど、幅広いチョコ菓子を作ることができるのは、便利なショートニングが付いた「チョコチップミックス」。「レアチーズケーキミックス」は、ビスケットベースに「森永マリー」を使用し、3種類のチーズから生まれるコクのある味わいが特徴だ。「甘いものはちょっと苦手」という人には、水だけで美味しいパンケーキを作れる砂糖不使用の「パンケーキミックス」がオススメ。同商品のホームページには「パンケーキバーガー」など、ユニークなパンケーキレシピが沢山掲載されている。ミックスを使い分ければ、自分だけの面白レシピを開発できるかもしれない。

 
タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト Top of the page

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