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ニッポン・ロングセラー考 Vol.81 コイケヤポテトチップス 湖池屋 国内初の量産化に成功した“ポテチ”普及の立役者

こんなに美味しいものが世の中にあったのか!

創業者・小池和夫

湖池屋の創業者・小池和夫。ポテトチップスの普及に力を尽くした。

発売当時の釜揚げ風景

発売当時の釜揚げ風景。量産を目指したものの、初期の製品はほとんど手作業で作っていた。

最初の「コイケヤポテトチップス」

最初の「コイケヤポテトチップス」。パッケージデザインは今とは全く違っている。

今から50年以上も前の話。東京のとあるスナックにて、一人の男が仕事仲間と酒を飲んでいた。つまみに出てきたのは、その頃まだ珍しかったポテトチップス。おつまみメーカーを経営するその男も、目にするのは初めてだった。手に取ってしげしげと眺める。ジャガイモを薄くスライスして油で揚げ、塩などで味付けたシンプルなスナック菓子だ。だが食べてみると…世界が一変した。男は思わず心の中でこう叫んだ。「こんなに美味しいものが世の中にあったのか!」
そして、こう決意した。「これをぜひ世の中に広めたい。そうだ、うちの会社で作ってみよう」。

男の名は、小池和夫。1958(昭和33)年、東京の駒込におつまみ製造会社を設立し、ミックス菓子「お好み揚げ」などで人気を博していた。郷里の長野県にある諏訪湖にちなみ、「会社も諏訪湖のように大きくしたい」という思いから、小池の「小」を「湖」に変え、社名を「湖池屋」とした。
アメリカでポテトチップスが開発されたのは、およそ150年前。日本で販売されたのは終戦後で、昭和20年代初めに登場した「フラ印」のポテトチップスが、日本初のブランドだと言われている。だがこの頃のポテトチップスはそのほとんどが手作りで、スナックやバーなどでしかお目にかかれない、高級で珍しいものだった。

ポテトチップスも「お好み揚げ」も、原料を油で揚げる点は共通している。小池は「お好み揚げ」を作るときの大釜を活用し、ポテトチップスの製造に乗り出した。だが、意欲はあっても実際の製造は苦難の連続だったという。
まず、ポテトチップスに適したジャガイモの品種が分からない。品種によって味が大きく違ってくるのだ。次に、釜で揚げるときの温度設定と時間管理が難しい。温度が低すぎるとパリッとした食感は生まれないし、高すぎると焦げてしまう。工場の片隅には失敗したポテトチップスが次々と積み上がっていった。

製造そのものが難題だった他に、小池にはもう一つ大きな課題があった。味をどうするか。スナックで食べたポテトチップスは塩味で、美味しいことは美味しいのだが、それがベストな味とは思えなかった。「もっと日本人好みの味があるはずだ。それを追求しよう」。小池は手に入るさまざまな調味料や食材を、ポテトチップスに組み合わせてみた。
その結果、最も美味しい仕上がりになったのが、塩味と青のりの組み合わせ。ふわっと香る青のりが、ジャガイモの味わいにぴったりマッチしていた。従来のポテトチップスにはない、日本人にも親しみやすい味覚。小池はこの「のり塩」一本で勝負することにした。

記念すべき最初の商品「コイケヤポテトチップス のり塩」を世に送り出したのは、1962(昭和37)年。関東を中心に、袋入りパッケージだけでなく、量り売り用に一斗缶に収めた商品も販売した。
この時のパッケージデザインが面白い。描いたのは、西武開拓時代の幌馬車のデザイン。西洋風スナック自体がまだ珍しかったこの時代、小池の心中には「ポテトチップスで新たな菓子市場を開拓したい」という、熱いフロンティアスピリットがあったのだろう。


オートフライヤーを導入し、本格的な量産化を実現

シレラ富良野

JAふらのの新工場「シレラ富良野」。現地産の原料でポテトチップスを生産する。

「コイケヤポテトチップス 北海道チーズ味」

「シレラ富良野」落成記念製品「コイケヤポテトチップス 北海道チーズ味」。

「コイケヤポテトチップス」の人気は最初から高く、販売数は右肩上がりに上昇していった。だが、当初の釜揚げ製法ではどうしても生産量が限られてしまう。本格的な量産化体制の必要性を痛感した小池は、ポテトチップスの本場であるアメリカの製造現場を視察。そこで、現地の工場では大がかりなオートフライヤー(自動揚げ物機)が使われていることを知る。1967(昭和42)年には、国産メーカーと協力して独自の専用オートフライヤーを導入。ポテトチップスの生産効率を大幅に向上させた。急伸する需要に応える体制が整ったことで、これ以降、「コイケヤポテトチップス」の生産量は毎年大きく伸びていく。

この頃、原料のジャガイモに関しても大きな進展があった。発売当時からジャガイモの品種選びには力を入れていたが、新たに北海道での契約栽培に乗り出したのだ。
ジャガイモの収穫時期は地域によって微妙にズレており、5月下旬の九州から10月中旬の北海道まで、半年近い幅がある。最後に収穫した北海道のジャガイモは、春の生産分まで保管しておかなくてはならない。ここで難しい問題が発生する。ジャガイモは生きているので、寒い環境で長期保管すると、どうしても糖分が増えてしまうのだ。市販されている家庭用品種はもともと糖分が多めなので、フライヤーで揚げたときに焦げやすくなり、ポテトチップスには向いていない。最適な品種を厳重に管理する必要があった。

同社と北海道の縁は深く、2009(平成21)年には「JAふらの」と業務提携。湖池屋の委託と技術指導を受けたJAふらのの新工場で生産したポテトチップスが、同年12月から販売されている。


“「メガブランドを育てる」独自の戦略で販売を拡大

味付けトリオ3種類

70年代に発売された味付けトリオ。味のバリエーション化はここから始まった。

現行主力商品4種類

現行の主力商品4種類。1997(平成9)年からは赤穂の天塩を使用し、まろやかな味わいを引き出している。

リッチカット3種類

厚切りVカットが特徴の「リッチカット」シリーズ3種類。「リッチコンソメ」のみコンビニ限定販売。

テレビCM「コイケ先生」シリーズ

人気を博しているテレビCM「コイケ先生」シリーズ。ちょっと濃いめのキャラクター設定が印象的。スペシャルサイトも公開中だ。

1970年代に入ると、コイケヤポテトチップスは商品のバリエーション展開に力を入れ始める。味付けトリオとして「バーベキューポテトチップス」「カレーポテトチップス」「ガーリックポテトチップス」を新たに追加。また、ホームサイズやパーティーサイズなど、消費者ニーズの変化に応じた容量のバリエーションも多数展開している。
現在のバリエーションは、「のり塩」「うすしお味」「リッチコンソメ」「ガーリック」からなる基本商品4種類と、厚切りVカットの高付加価値商品「リッチカット」シリーズ3種類。これにコンビニ限定や地域限定の商品、スティックタイプやスタンディング包装タイプなどが加わり、トータルの商品数は約20種類にも及ぶ。

興味深いのは、湖池屋がここ6、7年でポテトチップスの販売量を大きく伸ばしている点だろう。2009年6月期には、過去最高の売上高を記録。同業他社には見られないほど高い伸び率を示している。
この目覚ましい成長は、湖池屋が導入しているブランド戦略に深く関わっている。
同社にはポテトチップスの他にも「カラムーチョ」「ポリンキー」「ドンタコス」などいくつかのヒット商品があるが、これらは全て「ブランドを開発し、メガブランドになるまでじっくりと育てていく」という、同社ならではのポリシーに基づいたもの。特に宣伝には力を入れ、テレビCMを積極的に投入して商品を全国に浸透させていった。

ブランド戦略の具体例が、人気俳優・阿部サダヲを起用したテレビCM「コイケ先生」シリーズ。純情な学校の先生が生徒や同僚の先生とコミカルな掛け合いを展開するという内容で、2007(平成19)年11月、関東と近畿地方に投入した「マヨポテト」発売時から該当地域でオンエア開始。翌年3月からは、商品の発売地域とCMオンエア地域を静岡・中京・北陸・長野・新潟エリアにまで拡大した。コイケ先生シリーズは「コイケヤポテトチップス」シリーズのテレビCMとして大人気を博し、2008年には第45回ギャラクシー賞を受賞した。
同社のウェブサイトでは、その豊富なCMバリエーションを公開中。ウェブでしか見られないスペシャルロングバージョンもあり、閲覧者による人気投票が行われたこともある。この印象的なCMシリーズが「コイケヤポテトチップス」の市場拡大に寄与したことは間違いない。


 
創業当時の味を再現した「プレミアムのり塩」が大ヒット

「コイケヤポテトチップス プレミアムのり塩」

「コイケヤポテトチップス プレミアムのり塩」。「のり塩」の販売量に上乗せする形で好調なセールスを続けている。

ここ数年、ポテトチップスを始めとするスナック菓子の市場は好調に推移している。不況による巣ごもり需要の拡大、1,000円高速の実施に伴う車内需要への後押し、安価な割にボリュームがあるという、低価格志向にマッチした商品特性などが主な理由だ。その一方で、原材料費の高騰による製造コストの上昇や大手流通が手掛けるプライベートブランドの台頭など、メーカーにとっては逆風も小さくない。
市場が伸びているということは、メーカー間の競争がより激しくなるということでもある。実際、昨年はポテトチップス市場に大手資本によるメーカーが新規参入した。スーパーの店頭を見るといつも同じ商品が目に付くため、ポテトチップス市場は安定しているように見えるが、メーカー間では激しい開発競争が繰り広げられているのだ。

そんな中にあって、湖池屋は地道にロングセラーブランドの拡大を続ける。2008(平成20)年に発売した厚切りVカットの「リッチカット」シリーズも売れ行き絶好調。今では同社の重要なラインナップとなっている。
注目すべきは、昨年8月に発売した新商品「コイケヤポテトチップス プレミアムのり塩」。創業当時の釜揚げ製法を現代技術に進化させて仕上げており、厚く切ったジャガイモをじっくり時間をかけて揚げているのが特徴だ。そのため色々な形を楽しめるとともに、パリッとした食感があり、ジャガイモ特有の美味しさが充分に味わえる。古くからの「のり塩」ファンなら一度は必ず食べてみたくなるこの商品。消費者の反響は湖池屋も驚くほどだという。
こうした湖池屋の高付加価値戦略は、「コイケヤポテトチップス」というブランドの視点に立てば、十分納得がいく。味のバリエーションが従来型のブランド展開だとすれば、プレミアム性はまったく違う方向での新展開であり、ブランドの価値はより確かなものとなる。

晴れて全国区の人気商品となった「コイケヤポテトチップス」。今では「のり塩」を中心に多彩な商品バリエーションを取り揃え、消費者が求める商品は満遍なく用意しているように思われる。だが、国内のポテトチップス市場はまだまだ大きな可能性を秘めているという。
同社の広報担当者はこう話す。「欧米ではポテトチップスがランチに添えられて出てくるのが普通です。日本ではスナック菓子としてしか認知されていませんが、食事の一メニューとしての打ち出し方もあるのではないでしょうか」
「コイケヤポテトチップス」なら、お菓子のカテゴリーに留まっているポテトチップスの概念を変えることができるかもしれない。かつてはスナックやバーでしか提供されていなかった高級菓子を、ここまで世間に広めることができたのだから。

 
取材協力:株式会社湖池屋(http://koikeya.co.jp
     
激辛ブームを巻き起こした「カラムーチョ」
「スティックカラムーチョ ホットチリ味」 「カラムーチョチップス ホットチリ味」
「スティックカラムーチョ ホットチリ味」と「カラムーチョチップス ホットチリ味」。

湖池屋が商品にブランド戦略を導入したのは、1984(昭和59)年に発売したスティックタイプの「カラムーチョ」が最初。「ポテトが辛くてなぜおいしい!」をキャッチフレーズに登場したこの商品は、当時の市場に全く存在しなかった“辛い”スナック菓子だった。そのため流通サイドの反応は冷ややかで、主要な販売ルートはほとんど閉ざされていたという。そこで注目したのが、当時急速に数を増やしつつあったコンビニ。同社はコンビニが若者の情報発信基地であることをいち早く見抜き、テレビCMなどの大がかりな宣伝を行うこともなく、口コミで「カラムーチョ」の知名度を上げることに成功した。3年後にはチップスタイプの「カラムーチョ」を発売し、第一次激辛ブームの火付け役となった。今では「コイケヤポテトチップス」に並ぶ主要ブランドに成長している。

 
タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト Top of the page

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