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ニッポン・ロングセラー考 Vol.85 ホームランバー 協同乳業 発売50周年を迎える市販アイスの長寿ブランド

キーワードは「長嶋茂雄」「野球」「ホームラン」

アイスクリームバーマシン

初めて国内導入されたアイスクリームバーマシン。工場がガラス張りだったため、子供たちがよく見学に来ていたという。

アイスクリームバー

「ホームランバー」の前身にあたる「アイスクリームバー」。国内初のバータイプのアイスクリームだった。

初代ホームランバー

初代「ホームランバー」。従来にない斬新な企画力から生まれたバータイプのアイスクリームだった。

この季節になると、自宅の冷凍庫にはいつも箱入りのアイスクリームが入っている。銘柄を気にしたことはないけれど、「メイトー」ブランドのアイスクリーム「ホームランバー」を見つけた時は少し驚いた。「あれ、ホームランバーって、箱入りだったっけ?」
1960年代に子供だった今の中年層にとって、「ホームランバー」ほど、なじみ深いアイスクリームは他にない。銀紙で包まれた、直方体のスティックアイス。アイスキャンディーとは違う、甘いミルクの味わい。1本10円で買えるアイスはこれだけだったし、何より当たりくじが付いていたのが嬉しかった。お小遣いで買えるアイスクリームとして、「ホームランバー」は多くの大人たちの記憶に刷り込まれている。
「ホームランバー」は、今年で発売50周年を迎える。菓子業界にはロングセラー商品が多いが、アイスクリームに限ってはそれほど多くない。「ホームランバー」がたどってきた半世紀の歴史を振り返りながら、その長寿の秘訣に迫ってみよう。

「ホームランバー」の製造元、協同乳業株式会社の創業は1953(昭和28)年。進取の気風に溢れていた同社は、当時まだ高級品だったアイスクリームに目を付け、誰もが手軽に食べられる製品を作ろうと考えた。その頃の氷菓子の値段は、主流のアイスキャンディーが5円、カップ入りのアイスクリームが20円といったところ。子供が食べられる手頃な値段のアイスクリームがなかったのだ。
55(昭和30)年にデンマークの会社から自動充てん・成型機アイスクリームバーマシンを導入した協同乳業は、同年6月、国内初の「アイスクリームバー」を発売。1本10円という破格の安さが話題を呼び、またたく間に大ヒット商品となった。
マシンは1日に20万本の「アイスクリームバー」を生産。それでも間に合わず、得意先の配送車が工場の外で列を作って待っていたという。

驚くほど売れた「アイスクリームバー」だったが、しばらくすると人気は低迷した。味が飽きられた、角張っていて子供が食べにくい、類似品がたくさん出てきたなど、理由はいくつか考えられた。協同乳業は「アイスクリームバー」の再生を目指し、消費者の不満点を見直すべく様々な検討を行った。
当時60ccだった容量を70ccにすることがほぼ決まりかけていたが、その案に猛反対したのが、当時のアイスクリーム営業課長、森三郎氏だった。容量を増やしても子供は更に食べにくくなるだけ、営業にはもっと他のアイデアがあると、森氏自らが社長を説得。そこから生まれたのが「ホームランバー」だった。

新商品のキーワードは「長嶋茂雄」「野球」「ホームラン」の3つ。当時の子供たちにとって、プロ野球の選手は憧れのヒーロー。森氏は読売ジャイアンツへ入団した長嶋選手が立教大学で活躍していた頃から、この3つの要素を新商品に活かせないかと考えていた。
熟考の結果生まれたのが、「スティックにホームランの焼印を入れた、当たりくじ付きのアイスクリームバー」というアイデア。自社の名前を宣伝するため、スティックに焼印を入れた前例はあったが、これに当たりくじを結びつけたのは業界でも初めて。また、くじの演出は駄菓子屋では珍しくなかったが、アイスクリームと組み合わせたのは「ホームランバー」が最初だった。

発売当時の正式な商品名は「名糖アイスクリームバー ホームランシリーズ」というもの。「ホームランバー」の名称は他社に商標登録されていたため、使えなかったのだ。ちなみに「名糖」の名は、協同乳業が名古屋製糖株式会社の子会社としてスタートしたことに由来する(現在も「メイトー」はブランド名として残っている)。
「ホームランバー」が発売されたのは1960(昭和35)年の1月。「アイスクリームバー」の味や容量に手を加えず、今までにない斬新なコンセプトで勝負する注目の新商品だった。


野球のルールを適用した当たりくじが話題に

初代ホームランバーの銀紙パッケージ開いたところ

初代「ホームランバー」の銀紙パッケージ。デザインは和田誠氏。

ホームラン坊やの変遷

「ホームラン坊や」デザインの変遷。時代によって印象は大きく異なる。

当たりくじ4種類

当たりくじ4種類。これを目当てに「ホームランバー」を買った子供も少なくなかった。

名糖アイスの看板

名糖アイスの看板。昭和30〜40年頃によく見かけた。

名糖フードストアー 名糖フードストアー

各地に出店した「名糖フードストアー」。海の家は行列ができるほどの人気だった。

発売当時の値段は「アイスクリームバー」と同じく1本10円。「ホームランバー」というとバニラかチョコの印象が強いが、発売当時の広告にあるのは、ミルク、アズキ、バナナ、イチゴ、ココアの5種類。味のバリエーションは、その後、何度も変わっている。
時代に応じて変わっている要素はもう一つある。それが「ホームランバー」のアイコンでもある「ホームラン坊や」のキャラクターデザイン。初代「ホームランバー」のパッケージデザインを担当したのは、今や日本を代表するイラストレーターの和田誠氏だった。「ホームラン坊や」は一時期を除いてパッケージには必ず描かれており、2005(平成17)年からは、11代目の坊やが登場している。

「ホームランバー」最大の特徴である当たり付きキャンペーンが実施されたのは、発売年の3月から。スティックに「満塁ホームラン」「ホームラン」「ヒット1塁打」「ヒット2塁打」「ヒット3塁打」からなる5種類の焼印を押し、「満塁ホームラン」が出たら野球盤などの豪華景品をプレゼント。「ホームラン」なら店頭で「ホームランバー」をもう1本無料プレゼントした。
面白いのは、ヒットの焼印でも、合わせて4塁打=1点が入ったら「ホームランバー」をもう1本もらえたことだろう。「ヒット1塁打」と「ヒット3塁打」でも、「ヒット2塁打」が2本でもOK。これは実際の野球のルールに則ったものだった。

プレゼントキャンペーンのスタートと同時に、協同乳業は大々的な宣伝キャンペーンにも乗り出した。起用したのは、森氏がかねてから注目していた読売ジャイアンツの長嶋選手。当時、既に大スターとなっていた長嶋選手の起用は簡単ではなかったが、同社は何度も球団と交渉を行ってキャペーンへの出演を取り付けた。
当時のポスターやチラシを見ると、長嶋選手のインパクトの強さがよく分かる。ポスターは長嶋選手の全身写真や顔写真に商品名や景品の写真をアレンジしたものだったが、これがカッコイイと大評判になり、店頭から盗まれる騒ぎにまで発展した。森氏はこの時、「ホームランバー」の大成功を確信したという。

協同乳業は、実際の店舗でも積極的な販売攻勢をかけた。アイスクリームを始め、さまざまな乳製品を扱う自社の店舗「名糖フードストアー」を全国的に出店。夏には逗子などの有名海岸に「名糖海の家」を出店し、多くの来客を集めたという。
街中には「名糖アイスクリーム」の看板が掛けられ、店頭のストッカーにはドライアイスと共に「ホームランバー」がぎっしりと入れられている。子供たちは「ホームランバー」の美味しさと、もう1本もらえるかもしれないというドキドキ感に胸を躍らせ、10円玉を握りしめて駄菓子屋に足を運んだ。

「ホームランバー」の人気は「アイスクリームバー」の発売時をも凌ぐほどだった。前年まで大量のアイスクリームの在庫を抱えていた協同乳業は「ホームランバー」を発売したその年、全ての在庫を売り切ったという。同時にこの年、協同乳業はアイスクリーム業界で初めて売上ナンバーワンのポジションを獲得した。


子供たちに大人気だったプレゼントキャンペーン

アポロキャンペーンのポスター

「アポロキャンペーン」の告知ポスター。当時は日本中が宇宙の話題で盛り上がっていた。

UFOプレゼントキャンペーンのポスター

「UFOプレゼントキャンペーン」ではフリスビー状の円盤が景品に。子供たちが夢中になって遊んだ。

スピードガンキャンペーンのポスター

大人も驚いた「スピードガンキャンペーン」。大がかりなキャンペーンはこれが最後になった。

高い人気を誇った「ホームランバー」には、多くの競合商品が現れた。獲得した市場を守るためには、子供たちに飽きられないよう、絶えず商品に話題性を持たせなければならない。そのために協同乳業が取った施策が、当たり付きキャンペーンを発展させた大がかりなプレゼントキャンペーンだった。
1966(昭和41)年には、当時の子供たちにとって憧れの玩具だった「宙返りレーシングカーセット」と「歩くお話人形ローリちゃん」が当たるキャンペーンを実施。その2年後には当時の人気アニメ「マッハGo!Go!Go!」とコラボレーションしたユニークなキャンペーンを行っている。

大きな話題を呼んだのは、発売当時の世相を反映した大規模なプレゼントキャンペーンだろう。アメリカの宇宙船アポロ11号が人類初の月面着陸を果たしたのは、1969(昭和44)年。協同乳業はその翌年、点数に応じたアイスと交換できる「アポロシリーズ」キャンペーンを実施している。
また、スピルバーグ監督の映画「未知との遭遇」が日本で公開された1978(昭和53)年には、UFOの玩具が当たる「UFOプレゼントキャンペーン」を実施。子供たちは、プラスチック製の円盤を飛ばす遊びに夢中になった。プロ野球が盛り上がっていた80(昭和55)年には、投げたボールの球速を測るスピードガンが景品に登場。このキャンペーンは子供だけでなく、大人の間でも話題になった。
ちなみに「UFOプレゼントキャンペーン」と「スピードガンキャンペーン」の時は、テレビCMも放映。話題づくりに成功した「ホームランバー」は、毎年右肩上がりに販売本数を伸ばしていった。

今年50周年を迎える「ホームランバー」は、ファンへの感謝の意味を込めた特別キャンペーンを行っている。対象商品を買って「満塁ホームラン賞」が出たら、もれなく秘密の賞品をプレゼント。「ヒット賞」が出たら、昔の「ホームランバー」のように合計4ポイントになるまで集めて、「おふろセット」か「卓上ミニプレート」が当たる抽選に応募できる。
以前のように子供たちに直接アピールする大がかりなキャンペーンではないが、これは時代の変化を反映してのことだろう。むしろ発売から50年も経っているのに、今もスティックの焼印を活かした独自のプレゼントを継続していることに驚く。

時代は変わっても「当たるかもしれない」というドキドキ感は、いつの時代も子供心を刺激する。協同乳業はしばしば屋外でのサンプリング調査を実施しているが、子供たちの当たりくじに対する反応は想像以上に大きいという。くじの結果は当たりか外れかのどちらか一つ。子供はこの単純さに心をときめかし、そのときめきはいつの時代も変わらない。
森氏を始めとする「ホームランバー」の開発陣は、最初から子供の心理を理解していたのだ。


“ブランド戦略を立て直し、年間販売1億本を目指す

ホームランバー バニラ&チョコ

主力商品の「ホームランバー バニラ&チョコ」。2種類の味が楽しめるアソートタイプ。

ホームランバー 袋詰め

「ホームランバー 袋詰め」。バニラとチョコが昔ながらの銀紙で包装されている。

プレミアムホームランバー フロート仕立て

夏季限定商品の「プレミアムホームランバー フロート仕立て」。夏にぴったりの清涼アイスだ。

1980年代に向けて、文字通りアイスクリーム界のホームラン王となった「ホームランバー」。しかし時代の経過と共に、「ホームランバー」は徐々にその存在感を失っていく。
長く維持してきた1本10円という販売価格も、1977(昭和52)年には30円に、89(平成元)年には50円に値上げした。この頃から、アイスクリーム市場のトレンドは高級アイスや箱入りタイプにシフトしていく。
協同乳業は82(昭和57)年に10本入りの箱入りタイプを発売。以降はこのタイプが主流になり、現在は4種類の箱入りタイプと1種類の袋詰め商品をラインアップ。昔ながらの銀紙包装のイメージに近いのは袋詰めの商品だが、残念ながら同社からは1本単位では販売されていない(60円の単品売り「ホームランバー」はグループ会社から販売されている)。

それまでは安定して伸びていた販売本数も、1990年代から2000年代前半にかけて、やや波が出てきた。実はこの間、協同乳業は「ホームランバー」の象徴的存在だった「ホームラン坊や」をパッケージから消すなどして、新たな販売戦略を打ち出そうとしていた。若い消費者を取り込むため、新しいイメージの「ホームランバー」を作ろうとしていたのだ。
だが、販売本数はなかなか伸びない。「ホームラン坊や」が描かれていない商品では、昔ながらのファンの「ホームランバー」離れも危惧された。そんな危機感を抱いた協同乳業は、2005(平成17)年からブランディングの再構築に乗り出した。
新たなテーマは「ラッキー&サプライズ」。50年間にわたって変わらない美味しさと、素敵な賞品が当たるかもしれないというドキドキ感を、原点に立ち返ってもう一度訴求することにしたのだ。
併せて「ホームラン坊や」も復活させた。11代目となった坊やは、現代風の可愛らしさを備えている。

今年は「ホームランバー」が誕生して50年目のメモリアルイヤー。30年ぶりのテレビCMを放送するなど、協同乳業も例年以上にブランド告知と販売促進に力を入れている。販売目標本数は1億本。商品力があるので、それも夢ではなさそうだ。
その最初の記念商品が、今年1月に発売した「プレミアムホームランバー」。「ホームランバー」としては久しぶりの1本売り商品で、乳脂肪分12.5%という濃厚な味わいがセールスポイント。味は伝統のバニラとチョコ。どちらも好評で、コンビニでは昔の「ホームランバー」ファンだけでなく、若い層にも支持されているという。
更に6月1日からは、夏季限定商品の「プレミアムホームランバー フロート仕立て」が新登場。濃厚な味わいのバニラアイスはそのままに、表面をサクッとしたシャーベットでコーティング。濃厚感と清涼を同時に楽しめる、夏に相応しいプレミアムアイスに仕上がっている。
プレミアムでありながらも、価格を105円に抑えているところが「ホームランバー」らしいところだ。

「ホームランバー」は子供が手軽に食べられる価格でなければならないし、市場拡大のためには大人の舌も満足させなければならない。商品価値と値頃感がマッチした商品を作るのは難しいが、協同乳業には50年の歴史で培った製造ノウハウがある。何よりもこの会社は、消費者をワクワク、ドキドキさせる術に長けている。
「プレミアムホームランバー フロート仕立て」の景品は、50周年記念の「金の3点ストラップセット」。もちろん今回しか手に入らない限定品だ。
パッケージこそ大きく変わったが、食べている最中は美味しく、食べた後にはドキドキするという、「ホームランバー」ならではの魅力はいささかも変わっていない。「ホームランバー」は、今もなおアイスクリーム界のホームラン王であり続けている。

取材協力:協同乳業株式会社(http://www.meito.co.jp/
「ホームラン」シリーズにヨーグルトとプリンが新登場

「ホームランバー」はバータイプアイスの専用ブランド。そう思っている人は多いことだろう。でもこれほど知名度の高いブランドをアイスクリームに限定しておくのは、少々もったいない気がする。という理由からではないようだが、現在、「ホームランヨーグルト」と「ホームランプリン」が発売されている。ヨーグルトは酸味を押さえたクリーミーな味わい。プリンはミルクとチョコの2種類が楽しめるアソートタイプだ。もちろん「ホームラン」ブランドだから、両製品共に当たりくじ付き。トレーについているスクラッチを削って「ホームラン」が出ればもれなく、「ヒット」が出れば4枚集めて抽選で、「ホームランオリジナルデジタルフォトフレーム」が当たる。

ホームランヨーグルト

(左)まろやかな酸味の「ホームランヨーグルト」。(右)「ホームランプリン」はミルクとチョコの2種類の味わい。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト
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