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ニッポン・ロングセラー考 Vol.90 プラレール タカラトミー 親子3世代が夢中になる鉄道玩具のスタンダード”

手動式で架空の車両だった元祖「プラレール」

二代目社長の富山允就

トミー二代目社長の富山允就。父親の命を受け、「プラレール」開発の陣頭指揮を取った。

「プラスチック汽車・レールセット」

「プラスチック汽車・レールセット」。「プラレール」の歴史はここから始まった。

直線や曲線の青いレールをつなげて、線路を自由にレイアウト。踏切やトンネルをいつもの場所に置いたら、お気に入りの電車をセットして屋根にあるスイッチをオン!
その後の時間は、ちょっと思い出せない。かすかに覚えているのは、レールをたくさん持っていたことと、新幹線が大好きだったこと。親にねだってもなかなか新しい車両を買ってもらえなかったこと──。

タカラトミー(当時は富山商事)が鉄道玩具「プラレール」を発売したのは、今から約50年前の1959(昭和34)年。戦前から乗り物や動物の玩具で成功していた創業者の富山栄市郎は、戦後の新しい時代を迎えて、「これからは流行に左右されない、息の長い玩具を作ろう」と考えた。ヒントになったのは、海外視察で目にした木製の鉄道玩具。これならレールや車両を変えながら子供が長く遊べるし、発展性もある。栄市郎は、当時専務だった息子の允就(まさなり、二代目社長)に製作を指示した。
1950年代後半は、ちょうどプラスチックの国産化がスタートした頃。それまでの鉄道玩具はブリキなどの金属で作られていたが、允就は新素材のプラスチックで作ることを考えた。プラスチックなら金属や木の玩具より安価な製品が作れるし、デザインや成型の自由度も高いからだ。

線路は直線と曲線のレールを組み合わせて作る。課題は曲線レールをつなげたときのサイズ。開発陣は当時ほとんどの家庭にあった「ちゃぶ台」の上で遊べるサイズが適当と判断し、円の直径を432mmに設定した。
円周を8等分した長さが曲線レール1本分。一方、直線レールの長さはほぼ円の半径に等しい216mmに設定した。列車のサイズを考慮し、レールの幅は38mmに決めた。
3歳から学齢前期の子供が対象なので、レールの連結は極力シンプルにする必要がある。検討の末、裏表どちらでも使えるリバーシブルタイプにし、連結部も押し込めば簡単につながるハの字型のジョイントにした。レールの色は、店頭での見栄えを考えて青を選んだ。

1959(昭和34)年に発売した新商品の名は、「プラスチック汽車・レールセット」。架空の蒸気機関車、貨車4両、レールがセットになったこの商品は、モーター駆動ではなく手動式の玩具だった。軽くて安全なプラスチック製だから注目度は高いはず。タカラトミーはそう期待していたが、業者からは「枕木があって初めてレール」「売れないよ」といった声が上がり、反応は良くなかった。また発売後「レールの連結部が折れやすい」という苦情があったため、急きょ商品仕様を見直し、プラスチック素材の再検討を実施。材料をハイインパクト(スチロール系樹脂)から硬質ポリエチレンに変更(現在はポロプロピレン)して出直しを図った。
問題は解決したが、商品はなかなか売れない。ブレイクするには、まだ何かが欠けていた。


青いレール・電動車両・3両編成を基本に進化

「電動プラ汽車セット」

「電動プラ汽車セット」。「プラレール」の基本コンセプトを確立した商品。

1965年の「夢の超特急ひかり号セット」

新幹線シリーズの火付け役となった「夢の超特急ひかり号レールセット」(1965年発売)。

最初の「プラレール」ロゴ

プラレールの代表的なロゴの変遷。上左から70年初頭、73年、下78年頃。

現在の「プラレール」ロゴ

現在の「プラレール」ロゴ。20年以上にわたって使われている。

「複線ステーション」

前期黄金時代の代表商品「複線ステーション」。

「TVで遊ぼう!僕はプラレール運転手」

シリーズ随一の個性派商品「TVで遊ぼう!僕はプラレール運転手」。

「プラスチック汽車・レールセット」発売から2年後の1961(昭和36)年、タカラトミーは動力源にモーターを使った「電動プラ汽車セット」を発売する。同時に車両を3両編成に変更。青いレール・電動車両・3両編成という「プラレール」の基本コンセプトはこの時確立した。
「プラ汽車セット」シリーズは、商品としての完成度も高かったが、予期しないところから大きな援軍が現れた。人気雑誌『暮らしの手帖』で、列車のデザインが洒落ていること、手ころがしで遊べること、直線、カーブ、橋などがあってさまざまな形につなぎ合わせられる点など、鉄道玩具としての面白さを高く評価されたのだ。タカラトミーはこの分野のトップメーカーに躍り出た。

1964(昭和39)年には、東海道新幹線の開業に合わせた「夢の超特急ひかり号セット」を発売。目の前を走るあこがれの新幹線の姿に、子供たちは胸をときめかせた。セット商品と単品商品の2本立て販売という形はこの頃に定着。以降、実車の車種や情景部品の種類が増え続け、構成玩具としての完成度はますます高くなっていく。こうなると、ブランドネームを決めて一つの世界観を訴求した方が認知されやすい。タカラトミーはシリーズ名を「プラレール」という名称に改め、同時にロゴマークを作成した。

ここから現在に至るまでの「プラレール」史を概観してみよう。
電動化から10年が経過した1971(昭和46)年には架空のデザインの車両が全廃され、「D51汽車」「D51急行列車」「EF15」など実車系の電車が続々と登場。レールも手動で切り替えられる「ポイントレール」が登場して参加性が高くなり「鉄橋」や「トンネル」など、今も人気の高い情景部品がラインアップに加わった。
70年代前半から80年代前半にかけて、「プラレール」は最初の黄金期を迎える。時代は高度経済成長期の真っ只中。鉄道は日本人の足として急速に発展し、それに合わせて「プラレール」も私鉄系の電車を加えるなど、次々とその種類を増やしていった。多彩なレールや凝った情景部品が追加されたのもこの頃。セット商品では「複線ステーション」や「踏切ステーション」が人気を集めた。

80年代半ばになると、好調を続けてきた「プラレール」の人気にやや陰りが見えてくる。1983(昭和58)年には音が出る「メロディ車両」を発売したが、人気はいま一つだった。
当時はJRになる前の国鉄が経営難に苦しんでいた時代で、新車両の投入が少なかった。実車をモデルにした「プラレール」も魅力的な車両を発売するのが難しくなる。「プラレール」は鉄道社会の縮図でもあるのだ。

国鉄が民営化してJRになったのは1987(昭和62)年。90年代に入るとJR各社は次々と新車両を投入し、それに合わせて「プラレール」も第二の黄金期を迎える。中でも大ヒットしたのが「300系新幹線」と「400系新幹線」。スマートな流線型スタイルが子供たちのハートをつかんだ。
93(平成5)年には、新たに「きかんしゃトーマス」シリーズを発売。他社からもライセンス商品が発売されていたが、消費者の「プラレール」ブランドに対する信頼は非常に厚く、シリーズは新幹線に並ぶ人気商品となった。「きかんしゃトーマス」シリーズは、今も継続して新商品が投入されている。

2000年代に入ると、「プラレール」は新たな展開を見せ始める。2000(平成12)年に発売したのは「TVで遊ぼう!僕はプラレール運転手」。これは先頭車両に搭載した小型CCDカメラの映像を赤外線で飛ばし、テレビにつないだ専用コントローラで画面を見ながら運転操作を行うという、非常に凝った商品だった。1万2800円(当時)と高価だったので数は出なかったが、「プラレール」シリーズの中でもその斬新さは群を抜いている。
02(平成14)年には「プラレール」の常識を覆す7両編成の「いっぱいつなごうブルートレインセット」を、その翌年には車両の動きに合わせて音が鳴る「サウンドプラレール」シリーズを発売。05(平成17)年には、左右に自由に曲げられる「まがレール」が新登場。レイアウトの自由度が大幅に高まった。


50年前のレールと最新のレールを接続できる!

新旧のレールを比較 新旧のレールを比較

新旧のレールを比較。サイズや形は同じだが、表面の処理が違っている。

連結器の変化

連結器の変化。切れ目を入れることで外しやすくなっている。

「プラレール」がロングセラーになった理由はどこにあるのだろう? 初期に完成度の高い商品を発売し、早くから消費者へ浸透した結果であることは間違いない。ただ、商品の細部を見ていくと、その背景には緻密な計算があることが分かってくる。
レールの規格については最初に記したが、実はこの規格、現在に至るまで全く変わっていないのだ。もちろん、車両の規格も変わっていない。つまり、50年前のレールと現在のレールを接続し、古い「プラレール」と最新型の「プラレール」を同じ線路で遊ぶことができるのだ。稼働玩具でここまで徹底的に規格化された商品は、世界的に見ても珍しい。
車輪は実際の車両と違って4輪しかないが、これはカーブのしやすさとゴミの付きにくさを考慮したもの。車体がやや低めに作られているのは、レールの上以外でも安定して遊ぶための工夫だという。電源は初期モデルから単二乾電池1本だったが、最近はデザイン上の理由から、一部モデルで単三乾電池が使われている。

「プラレール」の特徴は厳密な規格だけではない。規格を遵守しながらも絶えず改良が加えられ、商品が進化している。例えば動力ユニットとレール。80年代後半まで「プラレール」はモーターの動力を小径の摩擦ゴムを介してゴム製の車輪に伝達し、車両を動かしていた。だが、摩擦ゴムが経年劣化すると車輪がスリップしてしまう。それを防ぐため、初期にはツルツルだったレール表面は、滑りにくいよう途中でザラザラに加工された。現在は車両の駆動輪とレールにギザギザが付けられ、それらが噛み合うことでスリップを防いでいる。ちなみにレールの材質も度々見直され、今は安全性が高く衝撃に強いものが使われている。
1987(昭和62)年には、摩擦ゴムを介した動力伝達から経年変化の心配がないギア駆動にチェンジ。走行性能を大幅に向上させた。

同じ年、スイッチ周りにも大きな変更が施された。電源のオンオフを簡単に切り替えられるよう、それまで動力車両の前方にあったスイッチを屋根の上へ移動。同時に、スイッチをオフにすれば手で転がして遊べるように改良した。それまでの「プラレール」はモーターと駆動輪が連結していたため、駆動輪が空転せず、手で押して遊ぶことができなかったのだ。
動力ユニット以外にも、子供が簡単に外せるよう連結器に小さな切れ目を入れるなど、細かな改良は度々行われている。基本となる規格を変えず、より楽しく、より安全に遊べる方法を絶えず考案し続ける──現在の「プラレール」も決して完成形ではないのだ。


“販売したレールの総延長、なんと地球2周分以上

「C12蒸気機関車アーチ橋とレールセット」

50周年記念商品「C12蒸気機関車アーチ橋とレールセット」。5250円。今も発売されている。

「グランドガイナー変形合体セット」

合体メカ満載の「グランドガイナー変形合体セット」。6090円。

現行の「プラレール」は、大まかに分類すると、レール・車両・情景部品などを同梱したセット商品、単体の車両、レール部品、情景部品、それに「きかんしゃトーマス」シリーズと、架空の鉄道シリーズ「ハイパーガーディアン」で構成されている。アイテム数は全部でどのくらいになるのか、担当者も正確に数えたことはないらしい。それくらい種類が多いわけだが、人気の傾向はあるようだ。最近3年間における車両の販売ベスト3は、3位が「ライト付きD51蒸気機関車」2位が「ライト付き700系新幹線」、そして1位が「N700系新幹線」。昔も今も、子供たちは速くてかっこいい電車が大好きなのだ。

では、鉄道玩具のスタンダードとなった「プラレール」は、今までにどれくらい売れているのか。タカラトミーの公式発表によると、国内だけで累計900種類、1億3200万個以上を販売している。レールの総延長は、なんと地球2周分以上。文具や雑貨など、ライセンス商品も300種類以上ある。「プラレール」ワールドはどんどん拡大しているのだ。
今年7月からは同じタカラトミーの「トミカ」と合わせてヨーロッパで本格的な販売がスタート。今後はワールドワイドな展開を目指していくという。

アニバーサリーを大切にするのも「プラレール」の伝統。40周年を迎えた1999(平成11)年には、実際の列車「プラレール40周年号」を2日間にわたって走らせたほか、各地でイベント「プラレール王国」を開催した。記念すべき50周年を迎えた昨年は、「C12蒸気機関車アーチ橋とレールセット」を発売。これは元祖「プラレール」 となった「プラスチック汽車・レールセット」を、現在の技術とデザインコンセプトで再現した商品。絶版となっていたアーチ橋を復活させ、子供から大人まで多くのファンを喜ばせた。

「トミカ」や「リカちゃん」に比べると、趣味性がそれほど高くない「プラレール」にはコレクターが少ない。希少性の高い商品もあるのでオークションでは驚くほどの値段が付くこともあるが、一般的な言い方をすれば、「プラレール」はあくまでも「子供たちが遊んで楽しめる」玩具といえる。玩具としての基本をしっかり守っていることに加えて、「プラレール」には不変の規格と驚くほど多彩なバリエーションがある。こうした要素がぴったりとはまり、世界有数の鉄道玩具を生み出したのだろう。

「電動プラ汽車セット」に目をみはった昭和の男の子は大人になり、その子供は黄金時代の「プラレール」で鉄道の夢を追いかけた。そして今、孫の世代が「きかんしゃトーマス」や変形合体する「ハイパーシリーズ」に夢中になっている。
50年の時を経て、「プラレール」は世代を超えて愛される玩具になった。

取材協力:株式会社タカラトミー(http://www.takaratomy.co.jp
「プラレール」と「トミカ」が一緒になった!

タカラトミーを代表するもう一つの人気玩具が、今年40周年を迎えるミニカーシリーズの「トミカ」。「プラレール」は早くから道路モジュールを組み合わせたセット商品を販売しており、かつては乾電池で自走するモータートミカや道路部品、信号機などを組み合わせた商品を販売していたこともあった。「トミカ」そのものを組み入れた「プラレール」はありそうでなかったのだが、2008(平成20)年11月「いっしょにひろげようトミカとプラレールの街セット」、昨年7月両者をミックスした斬新なセット商品「トミカと遊ぼう!オート踏切ステーション」を発売。「トミカ」が自動でコースを回り、「プラレール」が駅に停車すると「トミカ」も踏切で停車する。「プラレール」通過後は「トミカ」が再び自動走行。これはもう、子供にとって夢のような世界に違いない。

「トミカと遊ぼう!オート踏切ステーション」

「「トミカと遊ぼう!オート踏切ステーション」。7329円。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト
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