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ニッポン・ロングセラー考 Vol.95 ビタワン 日本ペットフード

愛犬が舌なめずり!日本初のドッグフード

INDEX

餌から食事へ──画期的だった”愛犬の栄養食”

創業社長・大津 利氏

「ビタワン」の生みの親、大津 利。日本のペットフード界を牽引した。

二つの「ビタワン」

初期の「ビタワン」2種類。右は粉末、左は好評だったビスケットタイプ。

ペレット状「ビタワン」

ペレット状の「ビタワン」。このパッケージが「ビタワン」の顔になる。

最初のエクストルーダー

最初に導入したエクストルーダー。品質が平均化し、生産効率も上がった。

今や子供の数よりも多いと言われている日本のペット。ペットフード協会による最新の統計調査では、犬は約1200万頭、猫は約960万頭も飼われている。ペット関連のビジネス市場も巨大で、その金額規模は優に1兆円以上。フードはそのうち約4割を占めているという。
今回取り上げる商品は、日本初のドッグフードとして知られる日本ペットフード株式会社の「ビタワン」。「ビタワン」と聞けば、"睫毛のあるキラキラ眼で、舌をぺろりと出している"特徴的な犬のキャラクターを思い出す人も多いだろう。あの絵柄は発売時からパッケージに描かれており、「ビタワン」の顔そのものと言っていい。
ペット市場の拡大と共に歩んできた「ビタワン」。その歴史は1959(昭和34)年にまで遡る。

この年、家畜用飼料メーカー「協同飼料」の社長、大津 利は、友人の牧場主からこんな話を聞かされた。「うちの犬はおたくのヒヨコ用飼料を食べますよ」
当時の犬の食べ物と言えば、人の食事の残り物がほとんど。一部の裕福な家庭で輸入品のドッグフードが使われることはあったが、番犬として犬を飼うケースが多かったこの時代、そもそも一般の家庭には、犬専用の食事を与えるという発想自体がなかった。
一方、ペット先進国のアメリカでは20世紀初めにドッグフードが商品化され、ドライタイプを中心に大きな市場ができていた。「日本人の生活が豊かになれば、ペットを飼う人はもっと増えるはず。ドッグフードの時代は必ず来る。今から手を打っておこう」。牧場主の言葉にヒントを得た大津は、そう考えてさっそく商品開発に乗り出した。

家畜飼料のノウハウはあったものの、犬専用となると全てが新しいチャレンジになる。開発陣は穀物ベースの主原料に肉類や油脂類を加え、犬の栄養や味の好みなどを考えながら試作品を作った。だが飼育試験では犬に見向きもされず、食べてくれても下痢をするなど失敗続き。満足いくものができるまで、苦労の連続だったという。
発売にこぎつけたのは1960(昭和35)年の4月。最初の「ビタワン」は粉末で、1kg包装のポリエチレン袋入りだった。価格は100円で、1日分に換算すると20円になる。同容量の米価よりも高かったが、輸入品のドッグフードはもっと高かった。
ちなみに商品名の「ビタワン」は、ビタミンと犬の鳴き声のワン、そしてナンバーワンからの造語。この絶妙のネーミングは、社長の大津自身が名付けたものだ。

粉末状の「ビタワン」は給餌する度に水に溶かなければならず、手間がかかるのが欠点だった。協同飼料は小指の先のような形の粒型「ビタワン」を発売するが、不評のためすぐに販売を中止。代わりにビスケット状の「ビタワン」を開発し、続いてアメリカから輸入したエクストルーダー(押出し造粒機)を使った、ペレット(小粒の固まり)状の「ビタワン」を売り出した。
新しい「ビタワン」に手応えを感じた大津は組織を独立させ、1964(昭和39)年、日本ペットフードを設立する。


海外メーカーと競い合いながら市場をリード

最初のテレビCM

最初のテレビCM。キャロライン洋子など、タレントを起用したCMも数多く作った。

ポスター

初期のポスター。コリーは当時の人気犬種だった。

軒先看板

米穀店の軒先看板。60〜70年代によく見かけた。

サービスカー

待機するサービスカー。代理店や本社の車が全国を駆け巡った。

「チョビワン」

離乳食の「チョビワン」。専門家からの評価が高かった。

「ビタワン」発売当時の犬の飼育頭数は約400万。潜在需要は大きかったが、実際の販売は想像以上に難しかった。最大の問題は、ほとんどの人がドッグフードの存在すら知らなかったこと。日本ペットフードはまず商品そのものを告知することに注力し、テレビCM、電車の車内吊り、新聞・雑誌広告、チラシ・ダイレクトメールなど、さまざまなメディアを使って「ビタワン」がどんな商品であるのかを分かりやすく説明した。後年まで続くパンフレット『愛犬を丈夫に育てるために』を配布したのもこの頃だ。
同社は"愛犬の栄養食"というキャッチフレーズと共に、「手間がかからず、夏でも変質しない」ことを積極的にアピールして愛犬家の取り込みを図った。また、大津は「御飯に混ぜるだけでOK。あなたの愛犬はいつも健康です」というコピーを自ら考案し、御飯の残り物と「ビタワン」を混ぜ合わせて給餌することを提案。時間をかけて愛犬家の意識を変えていった。

「ビタワン」普及のもうひとつの課題は、大きな販売ルートがなかったことだった。今でこそドッグフードはホームセンターやスーパーで大量に販売されているが、1960〜70年代にかけての販売先は、少数のペット専門店、ブリーダー、飼料店、獣医師、訓練所など規模の小さな拠点ばかり。営業マンはこうした販売先を一日に何軒も訪問し、「ビタワン」のメリットを説明して販路拡大に努めたという。
興味深いのは、当時の「ビタワン」が米穀店でも販売されていたという事実。協同飼料が米穀ルートとつながりがあったためだが、販売に苦戦していた日本ペットフードにとって、どの町にも必ずあるお米屋さんの存在は有り難かった。中年以上の読者なら、店先にぶら下がっていた「ビタワン」の看板を覚えているかもしれない。

大量の広告や熱心な販路開拓によって「ビタワン」の知名度は徐々に上がっていった。売れ行きも好調で、60年代半ば以降は、販売当時の苦戦が嘘のような勢いで流通量を伸ばしていく。
だが、その道は決して安泰だったわけではない。「ビタワン」発売とほぼ同じタイミングで、海外で大きなシェアを持つ輸入ドッグフードが次々と販売されたからだ。
輸入ドッグフードは関税がかけられていたため「ビタワン」よりも高価だったが、種類が多くパッケージデザインも店頭映えした。加えてスーパーなどの販路を持ち、市場では国産ドッグフード以上の勢いがあった。1968(昭和43)年のある新聞には、「輸入:国産比は6:4。国産7メーカー中、日本ペットフードのシェアは9割以上」と書かれている。
70年代半ば以降は「ビタワン」もスーパーに本格進出し、競争はますます激しくなった。攻勢をかける輸入ドッグフードに対して国産の「ビタワン」が孤軍奮闘するという構図は、90年代初めまで続く。

こうした競争の中から日本のドッグフードは、ウェットやソフトドライなどのタイプ別、犬種別、成長期別、テイスト別などの多様化が進んでいく。「ビタワン」もまた、1967(昭和42)年の「子犬の離乳食チョビワン」、70(昭和45)年の「ビタワンレイション」(缶詰入り)、74(昭和49)年の「ビタワンオールミート」(全肉の缶詰)、84(昭和59)年の「ビタワンパピーソフト」(幼犬用)など、さまざまなバリエーション商品を販売した。
2度のオイルショックの影響もほとんどなく、ますますその販売数を伸ばしていく「ビタワン」。
90年代に入り、犬の飼育頭数は800万を越えるまでに増えていた。


50年間変わらなかった「ビタワン」キャラクター

犬の顔3つ

採用された「ビタワン」キャラクター(上)と、不採用になった2点。今見ても採用案は非常にユニークだ。

新キャラクター

50年ぶりにリニューアルされた「ビタワン」キャラクター。

ここで「ビタワン」のアイコンともなっている犬のキャラクターについて触れておこう。商品の発売にあたってパッケージデザインを重要視した大津は、外部の有名デザイナー数人にキャラクター製作を依頼した。だが、完成したデザイン案に大津はなかなかウンと言わない。やっとOK を出したのは、それほど注目せずにいた小さな広告会社のデザインだった。
モチーフは、どこにでもいそうなミックス犬。柔らかなタッチで描かれた表情は、犬というよりどこか人間っぽくもある。眉毛と睫毛が描かれているせいだろう。反面、ヨダレを垂らしているところはいかにも犬らしい。この個性的なデザインを、日本ペットフードの宣伝係がパッケージデザインとして完成させた。

他社のドッグフードはほとんどが写真やリアルなイラストだったため、店頭における「ビタワン」のインパクトは非常に大きかった。だが、発売当時の日本ペットフードは、商品タイプと同じようにパッケージデザインでもやや迷いがあったようだ。1961(昭和36)年には350g入りの箱入り商品を発売したが、これにはリアルに描いたイラストを使用している。
大津自らの指示によるデザイン変更だったが、意外にも消費者の反応は期待したほどではなく、社内の販売担当からも「元に戻してほしい」という声が聞こえてきた。わずか1年の登場だったにもかかわらず、多くの人たちが最初の「ビタワン」キャラクターに愛着を抱いていたのだ。

その後「ビタワン」のパッケージは、犬のキャラクターを真ん中に挟み、上には「愛犬の栄養食」と書いた赤い帯、下には「VITA-ONE」のロゴを入れた紺色の帯を配したデザインに変更される。バリエーション商品以外のスタンダードラインは、箱物も袋物もこのデザインを踏襲することになった。

日本ペットフードは「ビタワン」が発売50周年を迎えた昨年、コーポレートロゴを一新すると共に、「ビタワン」ブランドとキャットフードの「ミオ」ブランドを大幅にリニューアルした。同時に、50年間継承したお馴染みの「ビタワン」キャラクターも新しいイメージに生まれ変わっている。
新旧の「ビタワン」キャラクターを比べて見ると面白い。新バージョンは誰にも受け入れられる愛くるしさはそのままに、どこかスマートな印象だ。よく見ると、旧バージョンの特徴だった睫毛がなくなり、黒目の方向も反対向きになっている。昔からのユーザーにも違和感なく受け入れられ、新しいユーザーにも訴求できる巧みなデザインではないだろうか。


あらゆる種類を取り揃えて多様なニーズに応える

「ビタワン」

売れ筋の「ビタワン」8kg。ドライドッグフードを代表する定番商品だ。

「ビューティープロ 成犬用 3kg」

犬の健康と美をサポートする「ビューティープロ 成犬用」。 これは3kgタイプ。

「ビタワンふっくらーな 低脂肪 チキンと8種類の野菜入り」

「ビタワンふっくらーな 低脂肪 チキンと8種類の野菜入り」。独自の製法でかつてない柔らかさを実現。2.5kg。

初の国産ドッグフードとして一時代を築いた「ビタワン」だったが、90年代以降は徐々に市場シェアを落としていく。主な理由は、1989(平成元)年に実施されたペットフードの輸入関税完全撤廃。輸入ドッグフードが今まで以上に競争力を増し、新規メーカーの商品が次々と日本に進出してきたのだ。バブル経済崩壊後もペットの飼育頭数が右肩上がりに伸びている日本市場は、自国の市場が飽和しつつある海外メーカーにとって広大なフロンティアだったのだろう。
日本ペットフードも新商品を投入して対抗したが、国内の異業種からもペットフード市場への参入が相次ぎ、競争はますます激化した。

早くから固定客を掴むことに成功し、ブランドの地歩を固めたことも「ビタワン」にとってはマイナスだったのかもしれない。「ビタワン」の特徴は、「余分なものをカットし、必要栄養素をバランス良く配合させた健康フード」という、日本食の発想に基づいたコンセプト。理に叶った考え方だが、欧米化の進む近年の日本人のライフスタイルには合わなくなっていた。
個性あふれる「ビタワン」キャラクターも、若い愛犬家にはやや古びて見えたのだろう。商品ラインアップでは決して負けていなかったが、「ビタワン」はそのブランドイメージを時代にマッチさせることができずにいた。

だがそんな厳しい状況も、全面リニューアルを実施した昨年以降は変わりつつある。追い風になっているのは、ペットフード業界で高まる健康志向。人間の食事と同じように、ドッグフードの世界でも日本食的な発想が再評価されるようになってきたのだ。
現在「ビタワン」にはタイプ別、容量別を合わせて約90種類の商品がある。そのバリエーションの豊かさはあらゆるユーザーニーズに対応できるほどだが、それでも毎年数種類を入れ替えているという。中でも最もよく売れているのが、スタンダードな「ビタワン」の8kgタイプ。国内で販売されている全ペットフードの中でも、金額ベースでは最も多いのだとか。週末になると車で郊外のホームセンターへでかけ、「ビタワン」の大袋をどさっと買って帰る愛犬家の姿が思い浮かぶ。

ドッグフードにも流行があり、ここ数年はプレミアム商品が注目されているという。免疫力アップや美しい毛並みの維持、歯の健康などに留意したワンランク上の商品だ。日本ペットフードが5年前に販売した「ビューティープロ」シリーズもこのカテゴリー。あえて「ビタワン」ブランドを付けず、従来の「ビタワン」に馴染みのない新規ユーザー層の掘り起こしを狙っている。
「ビタワン」ブランドでは、シニア犬の需要が大きいソフトドライタイプの「ビタワンふっくらーな」に新商品の「13歳以上」を追加。健康バランスを考えた人気商品「ビタワン 5つの健康バランス」もリニューアルした。

世帯の高齢化と単身化が急速に進む現在の日本社会。ペットはコンパニオンアニマルと呼ばれ、人々に癒しを与える存在となっている。飼い主が愛犬に注ぐ愛情の深さは昔と変わらないが、投入する金額は「ビタワン」登場時の何倍も大きくなっている。
創業者は、それまで日本にはなかったドッグフードという新市場を開拓した。彼が作った「ビタワン」ブランドは、50年の間にできることを全てやり尽くしたようにも思える。これから先、市場規模は更に拡大し、ドッグフードは今まで以上に多様化、高機能化の方向へと進むだろう。生まれ変わった「ビタワン」ブランドは創業者のフロンティアスピリットを受け継ぎながら、待ち受ける荒波を乗り越えて行くに違いない。

取材協力:日本ペットフード株式会社(http://www.npf.co.jp/
主食だけでは物足りない?──拡大するおやつ市場

沢山の種類があるペットフードだが、業界では目的別に3つに大別している。ひとつは主食にあたる総合栄養食。必要とされる栄養素を過不足なく摂取できるように設計されており、「ビタワン」もこの分類に入る。もうひとつはおやつとして与える間食で、昔からあるジャーキーがこれに該当する。3つめは栄養補助食のような目的食だ。最近売れているのは2番目の間食。日本ペットフードも今年3月、「ビタワン君のおやつシリーズ」と名付けた犬用スナックを新発売した。「ビタワン」の名が付いてはいるが、よく見るとデザインが違っており、こちらは身体が描かれている。ちなみにこちらのキャラクターネームは「ビタワン君」。お間違えないように。

「ビタワン君のちぎれる細切りささみ」

おやつシリーズ「ビタワン君のちぎれる細切りささみ」。ほかに3種類ある。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト
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