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ニッポン・ロングセラー考 Vol.107 フィッシュソーセージ

1953年 発売 マルハニチロ食品

低脂肪、低カロリー、高タンパク 日本オリジナルの万能食品

INDEX

畜肉ハムソーセージの代替需要と戦後のタンパク源確保を背景に誕生

画像 発売当初の商品

発売当初の商品。パッケージにはマルハのブランドマークとソーセージという商品名が記されている。関連商品も多数あった。

画像 発売当時の工場内

発売当時の工場内。まだ人手による作業が多かった。

画像 宣伝カー

「フィッシュソーセージ」の普及にひと役買った宣伝カー。

ちょっと小腹が空いた時、ついつい手が伸びる食べ物は何だろう。お菓子、菓子パン、コンビニのおにぎり? 選択肢は多々あるが、40代以上の男性なら魚肉ソーセージを選ぶ人も多いのではないだろうか。
常温で保存でき、手軽に持ち運べて、パッケージを開ければそのまま食べられる。間食やおやつとしてだけでなく、メインの食材やお弁当の具材など利用範囲も広い。幅広い年代層に愛されているが、1950~70年代にかけて子供時代を過ごした中年層にとっては、特に思い出深い食べ物のひとつと言えるだろう。

魚肉ソーセージは日本生まれのオリジナル食品だ。誕生の背景には、昭和初期から急速に普及した洋食と、太平洋戦争の影響がある。洋食化の中心は肉食だったが、畜肉の供給量は簡単には増やせない。そこで国が主導となり、魚肉を使ったハムやソーセージの研究が進められた。戦前には魚肉のプレスハムが登場。戦後は食糧難からタンパク源としての魚肉にますます注目が集まるようになり、1951(昭和26)年には愛媛県の会社が魚肉ソーセージの量産化に成功。以降、50年代初期に水産食品メーカーが次々とこの分野に参入した。

今回取り上げるマルハニチロ食品の「フィッシュソーセージ」は、1953(昭和28)年に誕生している。当時の社名は大洋漁業。○の中にひらがなの「は」を書いた、マルハのブランドマークが目印だった。
価格は他社の魚肉ソーセージとほぼ同じで、1本(130g)30円。卵1個が10円、コロッケ1個が5円の時代だったから、当時はかなりの高級品だった。現在のように家族で1束ではなく、家族で1本という買い方が普通。それでも、国民のタンパク不足解消という目的から、魚肉ソーセージは学校給食の食材として大量に提供された。

マルハニチロは当時から水産食品メーカーの大手だったが、発売後数年間はなかなか「フィッシュソーセージ」の販売量を伸ばすことができなかった。魚肉ソーセージ自体が、消費者に「かまぼことも畜肉ソーセージとも違う中途半端な商品」と受け止められたのがその理由。そこで同社は、各地で「フィッシュソーセージ」の料理講習会を開催するなど、積極的な宣伝展開を実施。地道な普及活動を通じて、徐々に「フィッシュソーセージ」の知名度を高めていった。


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マグロや鯨から冷凍すり身へ──原材料と生産量の変遷

画像 冷凍すり身の洋上加工船

魚肉ソーセージの市場拡大に寄与した冷凍すり身は、洋上加工船の登場で生産量が急増した。

画像 レトルト殺菌釜

レトルト殺菌釜の導入以降、「フィッシュソーセージ」に殺菌剤や保存料は使われていない。

「フィッシュソーセージ」はじめ、当時の魚肉ソーセージの主原料はマグロと鯨。これらの生産量が、市場の伸びに大きな影響を与えることになる。
1950年代半ば以降、魚肉ソーセージの市場は徐々に拡大していった。アメリカが53(昭和28)年に実施したビキニ環礁水爆実験の影響で、マグロの価格が暴落。大量に余ったマグロの加工先として、メーカーが魚肉ソーセージの生産量を増やしたのだ。
「フィッシュソーセージ」も毎年のように販売量を伸ばしてゆく。だが市場が拡大するにつれ、新たな問題が持ち上がった。需要が増したことから、マグロ不足が深刻化。一方の鯨は国際捕鯨委員会の規制によって、必要な量の確保が難しくなっていた。

そんな折に登場したのが、後に水産練り製品の一大発展を促した冷凍すり身。これは北海道の水産試験場で開発された技術で、大量に漁獲されるスケトウダラの落とし身を、変性させずに冷凍加工できる画期的な製造手法だった。
1960年代に入ると、魚肉ソーセージにはマグロや鯨に代わって、スケトウダラやホッケ、エソなどの白身魚が使われるようになる。これで原材料が不足する心配はなくなり、魚肉ソーセージの生産量は今まで以上のスピードで拡大し始めた。60(昭和35)年には10万トンを突破。ピーク時の72(昭和47)年には、18万トンを越えるほどの巨大市場に成長した。マルハニチロの「フィッシュソーセージ」はそのトップを走る存在で、60年代半ばには、既に市場シェアの半分を獲得していたという。

だが1970年代に入ると、魚肉ソーセージの市場に陰りが見えてくる。家庭用冷蔵庫の普及、コールドチェーンの整備によって、畜肉ソーセージやハムの販売量が増えてきたのだ。追い打ちをかけるように、74(昭和49)年には一部保存料への規制が高まり、魚肉ソーセージの生産量は13万トンにまで減少。業界は高温高圧の「レトルト殺菌」を導入してこの難局を切り抜けたが、77(昭和52)年に国際条約で排他的経済水域(200海里)が設定され、今度は冷凍すり身の価格が上昇。80年代半ばから業界全体の生産量は10万トンを割り、現在に至るまで、ほぼ6万トン前後で推移している。

それまで主原料だったスケトウダラが高騰した後、「フィッシュソーセージ」は主原料を、やや赤身の肉を特徴とするホッケやヒメジにシフトした。だが、ソーセージの味そのものはスケトウダラが中心だった頃とほとんど変わっていない。「フィッシュソーセージ」を食べる度に感じる不思議な懐かしさは、昔から続く素朴な味わいから生まれるのだろう。


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ユーザーの不満を解消した新包装「くるんパック」

画像 くるんパック フィッシュソーセージ 75g 4本束

シリーズの中心商品「くるんパック フィッシュソーセージ 75g 4本束」。キャラクターは子供に人気の「さかなクン」。

画像 フィルムの違い

上は特殊ナイロンフィルム、下が塩化ビニデリン系の「サランフィルム」。

画像 「くるんパック」開封

「くるんパック」の開け方は超カンタン。ハサミなどの刃物は不要だ。

次は、「フィッシュソーセージ」の容器であるケーシングに目を向けてみよう。ソーセージのケーシングは時代と共に進化している。発売当時の「フィッシュソーセージ」に使われていたのは、生ゴムに塩酸ガスを吹きかけて作る「ライファン」。防湿性や収縮性に優れていたが、加熱すると不透明になるという弱点もあった。ケーシングの末端を糸で縛っていたのも初期製品の特徴だ。

1950年代半ばから使われるようになったのが、塩化ビニデリン系の「サランフィルム」。酸素を通さないので中身の鮮度を保持でき、熱を加えても変色しないというメリットがあった。ソーセージにはオレンジ色に着色されたケーシングが使われていたが、これは中身の色(ピンク色)に近かったため。日光に当たって変質するのを防ぐ役割もあったという。ソーセージ全般に広く使われていたので、ソーセージといえば、まずこのオレンジ色を思い浮かべる人も多いはずだ。この頃からケーシングの末端はアルミのクリップで結ばれるようになり、生産性の向上が進んだ。

最近の製品に使われているのは、特殊ナイロンフィルムを使ったケーシング。強靱で耐熱性・耐寒性があり、密封性も極めて高い。品質を保持する上で理想的な素材と言われている。同社の「フィッシュソーセージ」には透明のナイロンケーシングフィルムが使われており、中身の色がはっきり分かるようになっているのが特徴。4年前には同社の主力品がこの透明フィルム化を実現した。

現行「フィッシュソーセージ」のもうひとつの特徴は、独自の包装技術が採用されていることだろう。ソーセージに対する消費者の最大の不満は、フィルムが開けにくく、開けた後もフィルムの裏に肉がくっついてしまうこと。この2つの課題を同時に解決するため、2010(平成22)年、マルハニチロは旭化成と共同で、全く新しい包装フィルム技術を開発した。
その名は「くるんパック」。ケーシングフィルムの端をつまんで切るだけで、簡単かつ安全にフィルムを開封することができる。従来の魚肉ソーセージは、クリップ部分を歯やナイフでカットし、テープを引っ張ってフィルム全体を剥がす方法が一般的だった。各メーカーが開けやすさに工夫を凝らした商品を発売しているが、「くるんパック」はそのどれよりも格段に開けやすい。しかも、先に述べた特殊ナイロンフィルムを使ったケーシングのおかげで、全くと言っていいほどフィルムの裏に魚肉がくっつかない。
現在、「フィッシュソーセージ」はその主力品に「くるんパック」が採用されており、今後もこの技術の認知向上につとめる予定だ。


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ヘルシー志向の商品で新規需要を開拓

画像 DHA入り リサーラソーセージ 50g 3本入

ヒット商品となった「DHA入り リサーラソーセージ 50g 3本入」。機能性ソーセージの代表格だ。

画像 くるんパック 東京スカイツリーソーセージ

話題の「くるんパック 東京スカイツリーソーセージ」。期間限定商品。

画像 宣伝している空木長美常務の写真

宣伝しているのはマルハニチロ食品の空木長美常務。空木は英語で“SKY TREE”になる。

魚肉ソーセージの生産量は、2000(平成12)年に6万トンを切ったのを境に、10(平成22)年まで上昇傾向にあった。背景にあるのは世界的な健康志向の高まりだ。直接的なきっかけは、BSEに代表される食肉の危険性が表面化したこと。もともと低脂肪で低カロリーな魚肉ソーセージが、安全でヘルシーな食品として再評価されたのだ。
マルハニチロは、05(平成17)年に「DHA入り リサーラソーセージ」を発売。血液中の中性脂肪値を下げる効果が期待できるDHAを、1本あたり850mg配合した。この商品は特定保健用食品に指定され、販売面でも大ヒットを記録。今ではスタンダードな「フィッシュソーセージ」と並ぶ看板商品となっている。

昨年の大震災以降、備蓄できる食品としての評価が高まり、魚肉ソーセージ全体の生産量はやや増加した。それでも、近年は価格競争が激化し、全体の生産量は漸減傾向にある。スーパーの店頭で「フィッシュソーセージ」が安売りの目玉商品になっていることも珍しくない。
このような状況を打開すべく、マルハニチロは魚肉ソーセージの個性化、他社製品との差別化を積極的に推し進めている。今までの消費者の中心は、40~50代の女性層。販売の裾野を広げるには、20~30代の若い層にアピールする必要がある。

今年春の新商品として特に話題になっているのが、2月に発売された「くるんパック 東京スカイツリーソーセージ」。5月22日の東京スカイツリー開業を祝した個性的な商品で、長さは本物の約1/3019スケールにあたる21cm。凝っているのはそのパッケージデザインで、夕日に輝くスカイツリー、青空に向かってそびえ立つスカイツリー、夜空に映えるライティングされたスカイツリーの3パターンを用意。もちろん包装は「くるんパック」だから、子供でも簡単に食べることができる。
この商品、マルハニチロ食品の常務取締役が自ら広告に顔を出すほど、宣伝に力が入っている。こうした話題づくりも「フィッシュソーセージ」活性化の有効な手段。まだ「フィッシュソーセージ」を食べたことがない若い層や、開封のしづらさから今は食べなくなった消費者層に、こうした話題商品を通して「くるんパック」を認知できれば、魚肉ソーセージ全体の市場が再び拡大するかもしれない。

魚肉ソーセージの中身が劇的に変わることは、おそらく今後もないだろう。だが「開けづらい」「フィルムに魚肉がくっつく」など、消費者の不満点を解消したフィルムの採用で商品の変革を行い、新たな価値を付け加えることはできる。市場が縮小した今こそ絶好のチャンス。ロングセラー商品「フィッシュソーセージ」の第2幕は、これから始まるのだ。

取材協力:株式会社マルハニチロ食品(http://www.food.maruha-nichiro.co.jp
中国・九州地方のソウルフード「ベビーハム」

あまり知られていないが、魚肉ソーセージにはちょっとした地方色がある。まずは味の違い。東はそのまま食べることが多いので、ややあっさりした味付け。対する西は料理の食材として使うことが多いので、魚らしさを感じさせる味付けになっている。珍しいのは、中国・九州地方だけで圧倒的な人気を誇っているマルハニチロの「ベビーハム」。マグロのぶつ切りに豚肉とマトンをプラスした極太サイズの商品で、10mmほどにスライスしてサッと炒めるのが定番の食べ方。もちろん、そのまま食べても充分においしい。同地方の居酒屋では、メニューとして用意されているほど人気が高いのだとか。

画像 ベビーハム

発売から57年になる「ベビーハム」。「フィッシュソーセージ」に負けないロングセラー商品だ。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト
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