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COMZINE BACK NUMBER

ニッポン・ロングセラー考 Vol.113 チーズ鱈

1982年 発売

なとり

鱈でチーズを挟む!
新発想の和洋折衷おつまみ

INDEX

王道のイカではなく、鱈という選択

画像 「東京焼いか」

初期のヒット商品「東京焼いか」。のしイカの代表的存在。

画像 「うに松葉」

「チーズいか」開発のヒントになった「うに松葉」。

さきいか、柿ピー、ポテトチップ……ビールに合わせる乾き物のおつまみは人それぞれ。中には地場の特産品しか食べないという人もいて、このジャンルは結構奥が深い。振り返ると意外に多く食べているなあ、という商品もある。チーズを鱈のすり身で挟んだ「チーズ鱈」もそのひとつ。 カギ括弧付きで表記したのは、「チーズ鱈」が固有の商品名だからだ。おつまみの一分類として確立されているので普通名詞のように思われているが、「チーズ鱈」は株式会社なとりが開発したオリジナルのおつまみ。同社を代表するロングセラー商品でもある。

なとりの前身にあたる名取商会が発足したのは、戦後間もない1948(昭和23)年。創業者である初代社長、名取光男は当時の食糧事情と将来性を考慮し、イカを中心とした水産加工珍味の製造に乗り出した。同年9月には東京北区の工場を買収し、最初の製品「いかあられ」などを発売。2年後には工場を拡大して「鱈そぼろ」を生産した。
会社が大きく飛躍したきっかけは、55(昭和30)年に発売した「東京焼いか」。これは甘く味付けしたのしイカで、新鮮味のある珍味として大ヒットした。

イカを使った和のおつまみで成功した光男だったが、それに満足してはいなかった。食の洋風化を背景に、誰も思い付かなかった和洋折衷おつまみの開発に着手。手始めにキャンディータイプの「一口チーズ」を作ったが、流通機構に冷蔵設備が整っていなかったため、あえなく断念した。
冷蔵できないなら、チーズを常温保存できる仕組みを作ればいい。なとりは化学メーカーと共同開発した脱酸素剤を使用してこの問題を解決。さっそく、得意のイカを組み合わせた「チーズいか」の試作品を開発した。当時のなとりにはイカの間にウニを挟んだ「うに松葉」という商品があり、これがヒントになった。

ところが、今度は脱酸素剤を使うと時間の経過によって、イカが赤く変色するという問題が発生。何度も試作、研究を重ねたが解決策は見つからず、「チーズいか」の開発は断念。その後、その志は2代目社長の小一が受け継いだ。小一を中心とした開発陣は、チーズと組み合わせる別の材料を模索。自社で鱈をシート状にした製品を作っていたこともあり、鱈を使うことに決めた。
この決断にあたっては、社内に反対の声が多数あったという。なんといってもおつまみの王道はイカ。イカなら新商品でも受け入れられるが、鱈では難しいと思われたのだ。だが、試作品を口にした人々の評価は一変する。チーズと鱈がマッチした想像以上の美味しさと、チーズが手に直接付かないという利点。「これならいける!」と、否定的だった声は絶賛に変わった。スーパーや小売店の評価も高く、製品化は一挙に進んだ。


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発売するやいなや人気を呼び、大ヒット商品に

画像 初期チーズ鱈プレーン50

発売当時の「チーズ鱈」。キャッチコピーは「北海の鱈が北欧の味を上品に包みます。」

画像 からしチーズ鱈50

「からし入りチーズ鱈」。

画像 わさび入りチーズ鱈50

「わさび入りチーズ鱈」。

画像 サラミ入りチーズ鱈50

「サラミ入りチーズ鱈」。

画像 チーズ鱈ピザ味50

「ピザ味チーズ鱈」。

画像 久喜工場(第1期)

埼玉県久喜市に建設した工場(第1期)。「チーズ鱈」はここで作られている。

初代社長の念願だった和洋折衷おつまみは「チーズ鱈」として商品化され、1982(昭和57)年2月に300円で発売された。流通面では、全国の大手スーパーマーケットを中心に展開。なとり自体は「売れ行きよりも、今までとは違う新しい商品を出すことに意義がある」と考えていたようだが、その売れ行きは予想をはるかに超えるものだった。
作れば作るだけ売れてゆく。製造が追い付かず、発売から2年後には埼玉に大きな工場を建設した。三菱総合研究所から発表された82年の「成長消費財トップ20」では、新製品部門で堂々の1位を獲得。誰もが認める大ヒット商品であることを証明した。

「チーズ鱈」は、なぜそれほどまでの人気を集めたのか。ひとつには、使用するチーズのくせのなさが挙げられる。使われているのは、ナチュラルチーズを加熱溶解したプロセスチーズ。ナチュラルチーズはくせがあって、その独特の風味が日本人には合わなかった。
なとりは、国産はもちろん、海外からもチーズを取り寄せて研究し、その中から数種類をブレンド。くせの少ない自然な味わいのプロセスチーズを自社の技術で作り上げた。見た目には分からないほどのレベルで合体しているチーズと鱈シートの接合面にも、なとりの高度な製造技術が隠されている。

人気商品になったもうひとつの理由は、発売初期からさまざまな味のバリエーション商品を登場させ、消費者を飽きさせなかったことだろう。なとりは「からし入りチーズ鱈」「わさび入りチーズ鱈」「サラミ入りチーズ鱈」「ピザ味チーズ鱈」などを次々に発売し、多様化するおつまみニーズに応えていった。
こうしたバリエーションは「チーズ鱈」そのものの知名度を更に高めることになった。他社からは類似商品が数多く登場したが、なとりは独自の製法で1987(昭和62)年に「チーズ鱈」を商標登録した。


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チーズへのこだわりから生まれた近年の人気商品

画像 GP 熟成チーズ鱈3連金

プレミアム系の人気商品「一度は食べていただきたい 熟成チーズ鱈」。形はやや厚みのある短冊型。

画像 おいしいチーズ鱈

「チーズ好きが食べるおいしいチーズ鱈」。形は細身の松葉型。

現在のなとりは味付けのバリエーションだけでなく、使うチーズにこだわった「チーズ鱈」を販売している。「チーズ鱈」が消費者に充分浸透したこともあるが、チーズに対する日本人の嗜好の変化も理由の一つだ。80年代半ばから徐々にナチュラルチーズの消費が増え、1988(昭和63)年以降はプロセスチーズの消費を上回るようになった。かつて敬遠されたナチュラルチーズの風味が、今は好ましいものとして受け入れられているのだ。チーズに対する要求度が高くなったとも言える。

そうした傾向を背景に、なとりは従来にも増してチーズの開発に力を入れるようになった。日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなど世界中から本格的なナチュラルチーズを輸入。なとりオリジナルのプロセスチーズを作り、他社が簡単に真似できない根本部分から「チーズ鱈」の生産に取り組むようになった。

そうした流れの中から生まれた代表的な製品が、2006(平成18)年に発売された「一度は食べていただきたい 熟成チーズ鱈」。1年以上じっくり熟成させたチェダーチーズを60%以上使用した、風味豊かな味わいが特徴だ。この製品は食品評価の権威である「モンドセレクション」において、07(平成19)年から3年連続で金賞を受賞。現在のパッケージにはゴールドメダルが誇らしく印刷されている。
イタリア産パルミジャーノ・レッジャーノを使った「チーズ好きが食べるおいしいチーズ鱈」もこだわりに満ちた本格派。老舗の高級ブランド「ガルバーニ」の長期熟成チーズを使い、コクのある贅沢な味を実現している。こちらは05(平成17)年に発売され、昨年リニューアルされたばかりだ。

この2つは、現在約20種類ある「チーズ鱈」全品の中で最もよく売れている中心商品。ほかにもまろやかな味わいが楽しめる「カマンベールチーズ鱈」、デンマーク産チーズを100%使った「濃厚チーズ鱈」、チルドの「くちどけチーズたら」シリーズなど、他社とはひと味もふた味も違う製品が揃っている。


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連続成長の陰にワイン好き女性の存在あり?

画像 レシピ「チーズ鱈」のベトナム風生春巻き

なとりのおつまみレシピ。「チーズ鱈」のベトナム風生春巻き。

画像 レシピ「チーズ鱈とトマトのふわふわ卵炒め」

トマトを入れた半熟でふわふわの卵炒め。「チーズ鱈」のコクとよく合う。

地場産業が多くを占めるおつまみ業界にあって、なとりは開業当時から全国展開する珍しい存在だ。「チーズ鱈」製品の生産量はもちろん日本一。ほかにもイカ系など水産加工製品やサラミなどの畜肉加工製品、ナッツ類などの農産加工製品を数多く販売しているが、売上げの約2割弱は「チーズ鱈」などの酪農加工製品が占めている。おつまみ市場全体を見ても、「チーズ鱈」はかなり大きな存在なのだ。

近年のおつまみ市場は、家飲み需要の増加もあり微増傾向にある。中でも「チーズ鱈」は特筆すべき存在で、6年連続で大きく売上げを伸ばしている。チーズにこだわったプレミアム路線へのシフトが功を奏した形だ。
注目すべきは、「チーズ鱈」の消費者の内訳を見ると、女性が男性を上回っている点だろう。男性需要の高いおつまみ業界にあって、女性に支持されている商品は珍しい。考えてみれば「チーズ鱈」は、ビールはもちろんワインにもよく合う。休日に自宅でお気に入りのワインを開け、プレミアム系の「チーズ鱈」を食べているキャリアウーマンの姿が目に浮かぶ。

最近はおつまみとしてだけでなく、消費者自らが「チーズ鱈」を料理の食材として使うこともあるという。チーズも鱈も応用範囲の広い食材だから、工夫次第でさまざまな料理にアレンジできる。なとりも自社のホームページでユニークなレシピを公開中。「チーズ鱈」を細かく切り、カレーやパスタと組み合わせても面白そうだ。

2012(平成24)年、「チーズ鱈」は30周年を迎えた。もっと歴史の長いおつまみは他にもあるが、「チーズ鱈」はその斬新さで、他のおつまみ以上に独自性の強い存在となっている。
イカのおつまみが主流の時代にあって、和洋折衷型の商品を作ろうとした発想自体が飛び抜けている。時代を先読みしたチーズへのこだわりも、先駆者であるなとりでなければできなかったことだろう。
じっくり時間をかけて開発される「チーズ鱈」。次の新製品は、また新たな顧客層を開拓するに違いない。

取材協力:株式会社なとり(http://www.natori.co.jp
常温保存ができる「おつまみチーズ」シリーズ

なとりには、「チーズ鱈」以外にもチーズ系のおつまみがある。常温保存ができる「おつまみチーズ」シリーズだ。新製品は2010(平成22年)に発売した「おつまみチーズ 熟成チェダーチーズ入り」のリニューアル品と「おやつCHEESE」の2アイテム。共にキャンディー包装の一口サイズチーズで、「おつまみチーズ 熟成チェダーチーズ入り」はイギリス産の熟成チェダーチーズが演出する濃厚なコクと滑らかな食感がセールスポイント。一方の「おやつCHEESE」は、クリームチーズならではのまろやかな味わいが大きな特徴。チーズ製品は栄養価が高いので、携帯食としても注目したい。

画像 「おつまみチーズ 熟成チェダーチーズ入り」と「おやつCHEESE」

(左)「おつまみチーズ 熟成チェダーチーズ入り」。(右)「おやつCHEESE」。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト
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