1980年 発売
日清オイリオグループ
卵不使用&コレステロールゼロ!
マヨネーズタイプの調味料
横浜磯子工場(1988年)。「日清マヨドレ」の製造はここからスタートした。
発売当時の「日清マヨドレ」。容量は250g。翌年、450gも加わった。
サラダ、サンドイッチ、ツナ、フライやカツなどの揚げ物、お好み焼きやたこ焼きなどの粉物全般…。数ある中でも、マヨネーズは最も応用範囲が広い調味料かもしれない。あっと驚くようなメニューにマヨネーズを使う“マヨラー”も、今ではさほど珍しくなくなった。
家庭用マヨネーズの市場規模は年間約550億円。上位2社のシェアが圧倒的に大きい典型的なガリバー市場だ。今回は、そのガリバー市場に挑戦し続けるロングセラー商品、「日清マヨドレ」をピックアップしてみよう。
ただし「日清マヨドレ」は卵を使用していないので、正確にはマヨネーズではなく、マヨネーズタイプの調味料になる。日本農林規格(JAS)により、マヨネーズは「卵黄または全卵を使用している」ものと定められているからだ。
「日清マヨドレ」を販売している日清オイリオグループの前身は、1907(明治40)年に創業した日清豆粕製造株式会社。家庭用の食用油だけでなく、長年にわたって粉末状の「大豆たんぱく」を製造・販売してきた。大豆たんぱくは、ソーセージやカマボコなどの食感改良や保水性向上に使われる加工食品。同社は改良を進め、乳化性の高い大豆たんぱくの開発に成功した。
乳化とは、本来は混ざり合わないものを混ざり合った状態にすること。ちなみにマヨネーズの場合は、水(酢)と油が卵の作用によって乳化している。
この乳化性の高い大豆たんぱくを使って、何か新しい商品はできないか。この時、日清オイリオグループが目を付けたのがマヨネーズだった。乳化性の高い大豆たんぱくなら、卵の代わりとして水(酢)と油を混ぜ合わせることができる。卵を使わずにマヨネーズのような調味料を作ることができたら、大きなセールスポイントになると考えたのだった。
具体的には、リノール酸の豊富なサラダ油と醸造酢を植物性たんぱくと乳化安定剤(ドレッシングなどに使われている天然ガム)で乳化させ、調味料、ワイン、ハチミツ、キャロットオイル、ビタミンEをブレンド。大豆の風味が出すぎないよう調整し、味を極力マヨネーズに近付けた。
発売は1980(昭和55)年の3月。当初は東京と大阪のみの試験販売だったが、翌年、全国販売に切り替えた。その商品コンセプトが消費者に受け入れられ、「日清マヨドレ」は短期間のうちにヒット商品となった。
発売当時の広告ポスター。純植物性であることを強調している。
こちらはノンコレステロールをアピール。広告効果は絶大だった。
スーパーでの店頭販売の様子。「健康」は大きな訴求ポイントだった。
マヨネーズとは似ていても、マヨネーズではない。マヨネーズに比べるとクドさが抑えられ、口当たりもさらっとしている。「日清マヨドレ」は新機軸の商品だったが、大いに売れた。どこが消費者にアピールしたのか。
日清オイリオグループが商品の追い風になると考えていたのは、消費者が抱く健康意識の高まり。70年代後半以降、心疾患や脳血管疾患など動脈硬化が原因で起こる血管の病気が増え、食生活そのものが注目されるようになっていた。
そこで話題になったのがコレステロール。コレステロールは脂質の一種で健康な体を作る上でなくてはならないものだが、LDL(悪玉)コレステロールの値が高すぎたり、HDL(善玉)コレステロールの値が低すぎたりすると高脂血症の状態になり、動脈硬化を引き起こす原因になる。卵はコレステロールを多く含む食材なので、取り過ぎを気にする消費者が、卵を全く使っていない「日清マヨドレ」に目を向けたのだ。ほかにも、動物性たんぱくではなく植物性たんぱくを使用していることや、従来のマヨネーズよりカロリーを約20%も低く抑えている点などが高く評価された。
日清オイリオグループは、発売当時からテレビCMで商品を強力にプッシュ。「コレステロール、ゼロ」のキャッチコピーを全面的に押し出し、一般的なマヨネーズとの差別化ポイントを明確に打ち出した。1982(昭和57)年にはテニス界のヒーロー、ビヨン・ボルグとジョン・マッケンローを起用したCMをオンエア。その翌年には「グッドバイ、コレステロール♪」と呼びかけるリズミカルなCMソングで、一層の知名度アップを図った。
この時期、同社は商品にも手を加えた。味と用途の多様化に対応するため、1982(昭和57)年には早くもバリエーション商品を追加。スタンダードタイプに加え、しょう油風味、ピクルス風味ハーブ入り、タルタル風味、サウザンアイランド風の4種類を追加販売した。
1984年発売の「日清マヨドレE」。ビタミンEが差別化ポイントだった。
1989年にはパッケージを一新。野菜がイラストから写真になった。
新シリーズに入り、名称も変わった1992年の商品。
1997年の「日清マヨドレE」。パッケージのコピーに注目。
発売から数年間は好調だった「日清マヨドレ」だが、1983(昭和58)年以降はその勢いを失っていった。背景にあったのは「日清マヨドレ」特有の問題。出荷増に備えてメーカーは製造設備を増強し、大量生産、大量販売の体制を取る。そうなると商品コントロールが難しくなり、商品が店頭で滞留し始める。滞留すると、乳化性の高い大豆たんぱくは徐々に劣化し始める。結果的に風味が落ち、「日清マヨドレ」は商品力を失ってしまったのだ。
出荷量は年々減少。最も厳しい年は往時の1割以下にまで落ちてしまった。それでも生産を止めなかったのは、「これしか食べられない」という固定ファンが付いていたから。この時期の健康志向にはブーム的な側面もあったが、「日清マヨドレ」にしかないメリットを理解している消費者は、商品をしっかりと支えた。
しかし80年代半ば以降、「日清マヨドレ」は迷走が続く。1984(昭和59)年にはビタミンEを強化して、商品名を「日清マヨドレE」に変更。89(平成元)年には元々少ないカロリーを更に低くし、パッケージも一新した。
だが、販売回復の兆しはまだ見えない。92(平成4)年には会社を挙げて展開しているヘルシーウォッチングシリーズに統合し、3度目の商品名変更を実施。「日清マヨネーズタイプ ノンコレステロール」として仕切り直した。95(平成7)年は中身に手を入れ、コクのある綿実油を採用。商品名は元に戻り、「日清マヨドレE ノンコレステロール」となった。
なかなか復活できなかった「日清マヨドレ」に転機が訪れたのは、1996(平成8)年のこと。この年、育児雑誌に「卵を使っていません」というコピーを使った広告を掲載したところ、大反響を呼んだのだ。支持してくれたのは、アトピー性皮膚炎などアレルギー体質の子供を持つお母さんや、妊娠中の女性たち。卵アレルギーは乳幼児や低年齢の子供に多く、悩みを抱えている母親層は非常に多い。食生活で使う機会の多いマヨネーズに選択肢があることが、大きな救いとなったのだ。
その翌年には、パッケージに新しいコピー「卵を使わずにつくりました」を大きく印刷。スーパーなど流通サイドの支持もあり、店頭における露出面積も約10%拡大した。 1999(平成11)年には5度目の商品名を実施して新登場。ネーミングは、晴れてオリジナルの「日清マヨドレ」に戻った。
現行の「日清マヨドレ」、内容量は315g。
「コレステロールゼロレシピ」から「ヘルシー野菜餃子」。「日清マヨドレ」は隠し味として使用。
「コレステロールゼロレシピ」から「温野菜のオーロラソース」。さっぱりとした仕上がり。
日清オイリオグループは発売20年目にあたる2000(平成12)年、「日清マヨドレ」の新たな研究をスタートさせた。研究テーマは味の改良と保存性の向上。それらを実現するため、大胆にも原料の変更を行った。長年使用してきた大豆たんぱくに代えて、加工デンプンを使用することにしたのだ。リニューアル版「日清マヨドレ」は、開発から3年後に発売。味はよりマヨネーズに近くなり、賞味期限も7ヶ月から8ヶ月に延長された。
開発担当者によると、この変更は化粧美人が素の美人になったようなものだという。これは、原料の持ち味をストレートに出したという意味。リニューアル商品の評判はすこぶる良く、苦しい時期に支えてくれた固定ファンだけでなく、調味料にこだわりを持つ層の支持も増えた。出荷本数は毎年プラスに推移している。これ以降、「日清マヨドレ」は味もパッケージも基本的に変わっていない。
厚生労働省の「2010(平成22)年国民健康・栄養調査」によると、血中コレステロールが高いと言われたことがある人の割合は男性が32.6%、女性が34.1%で、共に増加傾向にある。「日清マヨドレ」には、まだまだ市場開拓の余地が残されていると言えそうだ。
その方策として日清オイリオグループは、今年10月から「日清マヨドレ」を用いて開発したオリジナルWebコンテンツ「日清マヨドレ コレステロールゼロレシピ」を同社HP上で公開している。「かける」「和える」といった定番の使い方だけでなく、「炒める」使用法などが提案されていて、なかなか興味深い。
類似商品もあるが、「日清マヨドレ」はマヨネーズタイプ調味料の中では確固たる商品力と熱烈なファンを持つ。販売面では厳しい時期もあったが、そのコンセプトは間違っていなかった。時代を味方に付けた今、「日清マヨドレ」には新たな追い風が吹いている。