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今月の書籍

レビュワー:yomoyomo

  • 『暗号の子』

テクノロジーによる人間の変容と人間に残された居場所

インターネットなどのテクノロジーを中心的な題材とする小説が、これまでもSFの領域で書かれてきましたが、2018年から2024年の間に発表された八篇(掲載誌には雑誌『WIRED』日本版や『トランジスタ技術』も含まれます)を収録した短編集の本書も、その系譜に連なるものです。

表題作である「暗号の子」の舞台設定は2025年、つまり今年ですが、本書は今年読むのに特に適した本と考えます。
「暗号の子」で描かれるブロックチェーン技術を基盤とするDAO(分散型自律組織)で実現されるASD(自閉スペクトラム症)匿名会をはじめとして、資源配分などをめぐる複雑な合意形成への暗号通貨の利用、ディープラーニングにより過激な意見や煽情的な発言を消去するSNSアプリ、幻覚系ドラッグの代替物としてのVRシステム、量子暗号通貨の為替ヘッジ型無変動(ステーブル)コインで実現する「ゼロトラストの合意」といった本書に登場するテクノロジーは、もちろんどれも著者の想像の産物ですが、ソフトウェアエンジニアであれば、もはや実装者目線で読むこともできる段階まで来ていると思います。

また収録作の「ローパス・フィルタ」には、SNSというライフラインに「沈鬱な黒い毒が流れている」という表現がありますが、その痛切さは現在より強まっているのは間違いありません。

本書では、テクノロジーによる人間の変容、そしてテクノロジーに翻弄される人間による、他者との合意や和解の試みが描かれており、必ずしも明るい内容ばかりではありません。その中で、メイカームーブメントが超小型人工衛星として最終的に宇宙に到達する「ペイル・ブルー・ドット」は、切実な希望を感じますし、本書の白眉と言えます。

加えて、表題作の主人公が信奉する完全自由主義(リバタリアニズム)、並びに本書の間接的な登場人物と言えるイーロン・マスクやピーター・ティールについては、橘玲『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』が手ごろな解説書です。

『暗号の子』

著者:宮内悠介

出版社: 文藝春秋

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163919263

今月のレビュワー

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』など、訳書に『デジタル音楽の行方』などがある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。

2025/03/18

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