

NTTコムウェアは2025年3月21日〜22日、NTT品川TWINSアネックスビル(本社)の「IOWN技術実証施設」において、NTTコミュニケーションズ、NTTアーバンソリューションズとともに、IOWNを体感できるイベント「IOWN ショーケース」を開催。「IOWNを活用した未来の街づくり」に、来場者の期待も膨らむ。
IOWNはInnovative Optical and Wireless Networkの略で、NTTグループが国内外のパートナーとともに取り組んでいる、最先端の光技術を軸とした次世代情報通信基盤により、豊かな社会を創るための構想のことだ。
本イベントは、NTTグループが展開する「品川港南2050プロジェクト」の一環であり、品川港南エリアでの新しい価値の創造や共創活動の創出をめざす「品川テクノロジーテラス2025」(NTTアーバンソリューションズ主催)展示のひとつとして開催された。NTTコムウェアは、大容量の3D映像生成・配信を利用したイマーシブ空間制御によるゲーム体験、遠隔地とのリアルタイムコミュニケーション、遠隔地のGPUリソースのリアルタイム利用体験、デジタルツインによるロボット遠隔制御やビル管理といったユースケースの展示を行い、来場者の注目を集めていた。
目次
2025年3月21日〜22日に開催された、IOWN(アイオン)を体験できるイベント「IOWN ショーケース」
IOWN APNは「高速・大容量」、「低遅延」、「低消費電力」~3D映像イマーシブ空間制御、リアルタイムコミュニケーション体験~
IOWNを構成する主要技術のひとつが、オールフォトニクス・ネットワーク(APN: All-Photonics Network)だ。ネットワークの主要経路から端末のチップ内部の配線にいたるまで、エンド・ツー・エンドで光技術を導入することで、低消費電力で高速・大容量、低遅延の伝送を実現*する。世界的な通信ネットワークの需要増加に伴い、消費電力が拡大し続ける問題を解決し、カーボンニュートラルへの取り組みに貢献する。また、従来のネットワークではデータ伝送容量や遅延の問題により実現できなかった、新たなネットワークサービスを実現する。
* 従来のネットワークと比較し、IOWN APNは消費電力量:100分の1、データ伝送容量:125倍、遅延:200分の1を実現
IOWNショーケースが開催されたIOWN技術実証施設には、NTT東日本が提供するIOWN APNが敷設されている。さらに、Beluganos®(ベルガノス)を組み込んだ400Gbpsの長距離伝送が可能となる IOWNネットワークソリューション(400G)が導入されている。Beluganosは、光通信を制御し、保守運用・監視機能を強化したネットワークOS(オペレーティングシステム)である。
* Beluganos:NTTアドバンステクノロジ株式会社、およびIP Infusion Inc.(株式会社ACCESSの100%子会社)が提供するネットワークOS。ホワイトボックス装置を活用してハードウェアとソフトウェアを分離することで、任意のハードウェア選択が可能となり、従来装置に比べてオペレーションコストの削減などが可能となる。
https://www.ntt-at.co.jp/product/beluganos/
IOWN APNのユースケースとして来場者の人気を集めていたのが、巨大スクリーンに投映された品川港南の仮想空間の上空に入り込み、仲間といっしょにビルを作っていくというゲーム仕立てのコンテンツだ。体験スペースの床と正面、左右の側面に3Dで再現された品川港南の街並みが広がり、3Dグラスを身につけてスペースに入ると、まるでその空間に実際に入り込んだようなイマーシブな体験が得られる。ゲームプレイ人数は最大3人だが、プレイヤー以外も3Dグラスを装着すれば同じ仮想空間を体験することができた。技術的には、遠隔地にいる人との同時プレイも可能とのことだ。

3Dデータで作られた品川港南の仮想空間の上空から、コントローラーを使ってビルを建てていく。
映像データと3Dグラスが同期することで、プレイヤーには立体感のある映像が見えている。
驚かされるのは、会場に3D映像生成を行うGPU搭載機器がないこと。3D映像生成は遠隔地のデータセンターで行っており、データセンターと会場をIOWN APNで接続することで3D映像の伝送、複数スクリーンと3Dグラスの映像同期を実現している。

遠隔地にあるデータセンターと会場をIOWN APNで接続することで、
高精細な3D映像伝送やリアルタイムでの共同作業が可能となる。
プレイヤーが操作するコントローラーの入力信号はデータセンターに伝送され、操作を反映した3D映像が生成される。その映像が会場まで伝送されてスクリーンに投映される仕組みだ。体験してみると、コントローラーの操作がリアルタイムで3D映像に反映され、軽快なレスポンスでコンテンツを楽しむことができた。とても遠隔地とデータをやり取りしているとは思えない。高精細な3D映像をスムーズに楽しめるのは、IOWN APNの高速・大容量、低遅延という特長があってこそだ。
もうひとつ、遠隔地にいる人とVR卓球で対戦するコンテンツでも、IOWN APNの特長を実感することができた。このコンテンツでは、遠隔地にいる2人のプレイヤーがそれぞれVRゴーグルを装着し、卓球ラケットのようにコントローラーを操作する。コントローラーのモーション信号をもとに、卓球ラケットの動きやボールのバウンドなどをシミュレーションしてVRで表示する。

遠隔地にいる対戦相手と、VR上で卓球の対戦ができる。
タイムラグはなく、まるで目の前に対戦相手がいるかのような感覚。
特に注目すべきは、遠隔地にいるプレイヤー同士が、数十km離れたデータセンターを介して対戦していることである。会場とデータセンターの間はIOWN APNで接続しているため、コントローラー操作に対する画面表示のレスポンスが非常に速く、まるで目の前にいる相手と対戦しているかのようだ。遠隔地にいる人同士でお互いの姿を見ながら、違和感なくeスポーツが楽しめる。

プレイヤーがいる各会場からは遠隔地のデータセンターに接続している。
IOWN APNにより、会場間でタイムラグがほぼ無いリアルタイムなコミュニケーションができる。
これらのコンテンツを体験して感じられたのは、IOWN APNの高速・大容量、低遅延という特長によって、遠隔地にいる人と距離の遠さを感じさせないリアルタイムなコミュニケーションができるということ。例えば病院や介護施設にいる家族など、外出の難しい人たちでもこのようなコミュニケーションを楽しめるのは、うれしいことである。ビジネスなら、遠隔地にいる取引相手とリアルタイムでリッチなデータを共有しながら会話することができる。コミュニケーションのあり方に大きな変化がもたらされそうだ。
遠隔GPUリソースをストレスなく利用!手元の作業環境をライトでリッチに
IOWN APNの高速・大容量、低遅延によって、遠隔地にある高性能なコンピューティングリソースを、まるで手元にあるかのようにストレスなく利用できるようになる。
例えば、高度なシミュレーション演算やAI処理のために、ローカルのオフィスビルや自宅に高性能なGPUリソースを設置するのは、設置スペースや消費電力、導入/維持コストなどの観点で現実的とは言い難い。また、データセンターのGPUリソースを利用しても、従来のネットワークではレスポンスが遅くなったり、画面表示がコマ送りのようにぎこちなくなったりする。そこで、データセンターと接続するネットワークをIOWN APNに置き換えれば、レスポンスが大幅に向上する。

データセンターで行うような高度なGPUリソースの演算処理を、遠隔地からストレスなく利用できる。
会場では、街づくりで利用される3D設計モデルを動かすデモが行われた。3D設計のソフトウェアは高性能なGPUリソースを必要とするが、会場に設置されていた端末はARM®プロセッサを搭載した安価な小型端末。それでいて、まるで高性能なGPUを搭載したサーバーが手元に置いてあるかのように動作は軽快だった。3D処理はデータセンターにあるGPUリソースが担っており、データセンターと会場の間をIOWN APNで接続することで、低遅延のデータ伝送が可能となっている。会場側は送られてきたデータを表示する安価な端末で十分というわけだ。
ユースケースとして、遠隔地にあるデータセンターとオフィスビルをIOWN APNで接続すれば、そのオフィスビルに入っている複数のテナントでデータセンターのGPUリソースを共用し、低コストでリッチなコンピューティング環境を実現できる。オフィスビルとしては入居者を集める強みになるだろう。また、マンションや住宅地に導入されれば、自宅にいながらにして、高性能なコンピューティングリソースをストレスなく利用できるようになる。在宅ワークが普及している現代において、エンジニアなどにとっては望ましい環境と言える。

オフィスビルとデータセンターをIOWN APNで接続することで、
データセンターにあるコンピューティングリソースをビルに入居している複数テナントで共有できる。
「IOWN×デジタルツイン」による設備遠隔管理で人手不足解消
IOWN APNは、データセンターや工場、ビルなどの管理業務における人手不足の問題解決にも寄与する。会場ではユースケースとして、IOWN APNとデジタルツインを組み合わせた展示が行われていた。
デジタルツインとは、現実世界からさまざまなデータを収集し、サイバー空間上で再現する技術である。サイバー空間上でデータ分析やシミュレーション、モニタリングなどを行い、その結果を現実世界へフィードバックすることで、リスクの事前回避や設備保全の最適化などが可能となり、コスト削減などのメリットが得られる。一方で、現実世界とサイバー空間の間で大容量のデータをリアルタイムで同期することが求められるため、IOWN APNの高速・大容量、低遅延の特長が生かされる。
1つめの展示では、データセンターや工場に配置されているカメラ、IoTセンサーなどから収集したデータをデジタルツインに反映していた。デジタルツインによって、オペレーターは遠隔地にある管理オフィスから現場全体を俯瞰的に確認でき、UI上で場所と合わせて各種情報を参照できる。さらに、IOWN APNの低遅延という特長を生かし、まるで現地にいるかのように遠隔からロボットを遅延なくスムーズに制御し、効率的に施設点検を行うことができていた。

データセンターや工場にはさまざまな監視用デバイスが配置されている。
デジタルツイン上に再現されたデータをIOWN APNを通じて管理オフィスに届け、遠隔からのリアルタイム管理を可能にする。
2つめの展示は、デジタルツインを活用したビルの遠隔管理を可能にするCityTwinOps*1とIOWN APNを組み合わせたものである。まだ実証段階には至っていないものの、Smart Data Platform for City(SDPF for City)*2がめざす未来の姿を感じさせる内容であった。遠隔地にあるビルをデジタルツインで再現し、管理オフィスからはIOWN APN経由でデジタルツインを表示・操作する。例えば、デジタルツインによってオペレーターが遠隔地のビル内の来訪者を案内するロボットを確認する。また、IOWN APNを組み合わせることで、ロボットの現在位置と周囲の状況がデジタルツイン上にリアルタイムで反映されるため、来訪者の案内状況を遠隔からタイムリーに把握することができる。さらに、IOWN APNの大容量通信の特長を生かし、将来的にロボットの台数を増やすことやカメラの映像を高解像度にすることも可能である。
- *1 CityTwinOps:スマートシティにおけるリモートオペレーションを実現するNTTコムウェアのサービス
- *2 Smart Data Platform for City(SDPF for City):NTTコミュニケーションズが提供するスマートビルディングプラットフォーム

デジタルツインによって遠隔地からビルやロボットの状況を確認することができる。
また、ビルと管理オフィスをIOWN APNで接続することで、リアルタイムでの状況把握ができる。
これらのデモから見えてくるのは、デジタルツインにIOWN APNを組み合わせることで、工場やビルなどの遠隔管理が滞りなくできるということだ。3Dで再現されたサイバー空間と収集した各種データを用いて、現地まで行かなくても状況を的確に把握できるし、IOWN APNによってリアルタイムで制御できる。工場やビルを管理する人手不足の解決に一役買ってくれそうだ。
来場者の関心も高く、IOWNの次世代情報通信基盤が実現する、新しい豊かな都市が確実に近づいていることを実感させるイベントだった。
ITライター 湯浅英夫
2025/04/25
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