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報酬と罰則が脳を刺激する

― 脳科学では、叱ったり罰を与えることをどう捉えているのでしょう?

叱られると、脳の中で偏桃体という恐怖反応の中核が反応します。私たちの脳は、生物として生き残るため、線条体よりも偏桃体の恐怖反応を強く感じるようになっており、いわば行動を抑制する働きをしています。ですから致命的なミスをなくすなど、行動を改めさせたい場合は、叱ることはある程度、効果的なわけです。

また、「罰を与えられること」は「損失を被ること」でもありますが、脳は損失を回避しようとする性質を持っていて、報酬よりも損失のほうが心理的に大きな影響があることが分かっています。それについては、ペンシルバニア大学の研究レポートで象徴的な事例が報告されました。「目標を達成したらこれだけの報酬を与える」とするよりも、先に報酬を与えておき「目標を達成しなかったら減額する」という罰則を付けたほうが、目標達成率が高かったというのです。ただし、新しいスキルを身に付けたり、新たな学習を始めるためには線条体が活性化している必要があるので、報酬と罰則、つまりアメとムチを上手に使い分けなければなりません。叱るときはビシッと叱りつつ、ちょっとした行動もこまめに褒めるのが効果的といえますね。

脳のクセにとらわれず、自分の中のキャラクターを使い分けること

― 過去に失敗した経験があり、同じような案件に対して消極的になってしまうのも、損失が心理的に影響しているからでしょうか?

そうです。日本人は特にその性質が強いと言われています。しかし、それでは新規開拓や新規事業に取り組むことができないので、損失を嫌うオドオドした自分を、それはそれと受け入れて、イケイケな自分をどう育てようかと考えるほうが建設的です。オドオドした自分の出番を抑えるためには、別のキャラクターの登場回数を増やせばいいわけです。

― キャラクターですか?

場面に応じて使い分ける自分の人格です。今の若い世代は、それをさらりとやっているように見受けられます。SNSではこのキャラクター、友達といるときはこのキャラクター、というように使い分けていて、その方が社会性としては健全であるともいえますね。脳をコントロールするのは、自分の中のキャラクターを使い分けることでもあるので、脳のクセにとらわれないようにするために、そういった振る舞いは有効だと思います。

― 自分の中にはいろんな自分が存在するということですね。血液型占いによる4タイプの人格が、実はすべて当てはまってしまうのと似ている気がします。

日本人は、自分についての設問に対して、自分に当てはまると思ってしまう傾向が強いのです。「○○なことがありますか?」と聞かれると、ほとんどなかったとしても、「そんなことがないわけではないし」と思って、「はい」と答えてしまう。ところが、まったく逆の質問をしても、やっぱり当てはまるような気がして、おそらく「はい」と答えたくなるはずです。そういう人は、自分の中のいろんなキャラクターを見つける能力が高く、自制力が高いとも言えます。

自分の中のキャラクターを知っておけば、脳のクセが異なる相手と対峙することになっても、相手に合わせたキャラクターで接することができるなど、人間関係の調整にも役立つはずです。
まず、脳のクセというのは、変えることは難しいでしょう。であれば、「Aさんは、そういう脳のクセを持っているんだな」と理解して接するほうがスムーズにいくでしょう。自分自身についても、無理に変えようと苦労するのではなく、そのクセを知って上手に付き合えば、より良い仕事ができるのではないかと思います。

取材後記
植木鉢の植物が太陽を向いて成長するのは、変えることはできない。まっすぐ伸びるようにするには、毎日、植木鉢の向きを変えて満遍なく太陽が当たるようにすればいい。同じように人の脳のクセは、良いとか悪いとかの問題ではなく、変えるのにも限界がある。であれば、植木鉢の向きを変えるがごとく、脳が気持ち良く目指す方向に向かうように、他の人や自分を誘導すればいい。今回、ご紹介できた脳のクセは一部だが、まずは「そういうものがある」と知って、より良く働けるように役立てられれば、と思う。

プロフィール

篠原菊紀(しのはら・きくのり)
諏訪東京理科大学共通教育センター教授。長野県茅野市出身。茅野市縄文ふるさと大使。「学習しているとき」「運動しているとき」「遊んでいるとき」など日常的な場面での脳活動を研究。テレビ、ラジオで脳活動に関する実験、分かりやすい解説に定評がある。著書に『「集中脳」をつくる30の方法』(中経出版)、『やらかし男子がみるみる変わる育て方』(小学館)、『脳活ドリルシリーズ(TJMOOK)』(宝島社)など多数。

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