NTTドコモソリューションズは11月12日、NTT品川TWINSアネックスビルにおいて「DevelopersLive!2025」を開催した。同イベントはNTTドコモソリューションズを中心としたドコモグループ社員およびパートナーに、ビジネス価値につながる開発技術・動向を紹介する場であり、プロジェクト担当者やお客さまとの対話・共創のきっかけづくりの場として、2017年から毎年開催しているもの。今年は「技術革新が拓く新たな価値」をテーマに、技術戦略を知る3つのキーノートと未来の開発を支える技術と価値を探る4つのセミナー、展示を行った。中編ではセミナーをリポート、登壇者に現在携わるプロジェクトと社会との関わりや自身のやりがいについてインタビューした。
AIを前提とした開発のエコシステム作り
〜信頼できるソフトウェアをAIで作る方法〜
NTTドコモソリューションズ株式会社
技術革新本部
システム技術部
DevTechセンタ
高鶴哲也
「AIを前提とした開発のエコシステム作り」をテーマに、「信頼できるソフトウェアをAIで作る方法」を解説した。社内でもAIのコーディング支援ツール「GitHub Copilot」の導入・定着が進み、「AIツール使用がデフォルト」という意識で推進していることが報告された。
今後はコーディング支援にとどまらず、設計やテストといった上流・下流工程にもAI活用範囲を広げていく。その効果を最大化するためには、AIツールそのものだけでなく、周辺の非AIツールも含めた「ドキュメンテーション」「オートメーション」「ベリフィケーション(検証)」の3つのエコシステムが重要になる。中でも、信頼性確保の要となるベリフィケーションの考え方に焦点が当てられた。
近年、AIに自然言語で指示を出しソフトウェアを生成する「バイブコーディング」などの手法が注目されているが、エンジニアリングを軽視し、表面的な開発スピードに頼るとメンテナンス性を担保できず結局高くつくことになると警鐘を鳴らす。AIの生成物は確率的な出力であり、ハルシネーションの可能性があるため、非AIの「ベリフィケーション」を強化すること、また、そのコストとのバランスが重要となる。システム開発においてAIを活用するためには、“神のように頼る”のではなく、人間が上位者としてAIと非AIツールを統合的に使いこなすことが求められる。そして、非AIの「ベリフィケーション」の強化およびコスト低減について2つの提案がなされた。
1つ目は、検証しやすいプログラミング言語への転換である。具体的には、業務モデルを数学的表現で形式的に記述し、実装との整合性を厳密にチェックできるRust言語などを採用することで、誤りの多くを除去できる。2つ目は、設計書などの中間成果物を減らし、検証対象そのものを減らす方法だ。顧客や技術者の合意情報であるADRs (Architectural Decision Records:アーキテクチャ決定記録、ソフトウェアやシステムの設計における重要な意思決定を、背景や理由とともに記録するドキュメント)を直接AIに入力し、設計書を最小限にとどめてコードを生成するアプローチが提案された。
高鶴氏は「AIが生み出す情報を盲信せず、検証のコストと精度のバランスを取ることが、信頼できる開発の鍵になる」と述べた。AIはエンジニアを代替するものではなく、エンジニアには、より抽象度の高い設計力と判断力が要求される。AIと人間が補完し合う開発エコシステムの確立が、次世代のソフトウェア品質を左右すると結んだ。
インタビュー

私たちの取り組みは、AIを活用したシステム開発の効率化に大きな価値を提供していると感じています。例えば、従来、エクセル形式の設計書など情報が分散していて、AIを効率的に活用しにくいといったことがありました。開発ドキュメントを「Semantic Documents」としてAIフレンドリ(AIが参照しやすい形)で整備し、エージェント型AIが自律的に活用できる環境を整えることでその課題を解決しています。
また、アジャイルやバイブコーディングなど迅速な開発と、顧客の財産や個人情報を管理するような社会的に重要なシステムとしての信頼性の両立を意識しています。AIを活用しつつも、検証のプロセスをしっかり確立することで、それらを実現する体制をめざしています。
私自身のやりがいは、最先端のAIツールや開発手法を研究・検証し、その成果を社内のプロジェクトに展開できる点にあります。AIの進化はすさまじいのですが、私はツールの流行に左右されず、エコシステム全体を整備することに注力しています。これにより、長期的な技術価値を維持しつつ、開発現場に必要な情報を提供できることに充実感を覚えます。当社は、長年培われたウォーターフォールやアジャイルなどの開発プロセスの共通認識をベースに、AIを活用した議論や開発を進めています。AIの急速な進化にも流されすぎることなく、正確で信頼性の高いソフトウェア開発を維持できることが大きな強みです。もちろん、最新ツールへの迅速なキャッチアップ体制も整っているため、今後はまだ業界に浸透していない新しい開発技法をAIと組み合わせ、幅広く実用化していきたいと考えています。
グリーンソフトウェアエンジニアリングが拓く持続的競争優位
NTTドコモソリューションズ株式会社
技術革新本部
システム技術部
オープンソーステクノロジセンタ
水野諭孝
ICT分野の成長に伴い増大するエネルギー消費等を背景に、ソフトウェア視点で環境的持続可能性を探求する「グリーンソフトウェアエンジニアリング」が注目を集めている。水野氏はNTTグループで進めている実証実験と今後の展望を紹介した。
冒頭で、ICTセクター(業界)の、世界での温室効果ガス(GHG)排出量が最大3.9%にも上る可能性が示されていること*1、また電力消費についても2030年には世界の2割超を占める可能性があること*2を指摘。これまで省エネ対策の主軸はハードウェアだったが、ハードウェアを動かすのはソフトウェアであり、「ICTの環境的持続可能性を高めるためにはソフトウェアのライフサイクルにも目を向ける必要がある」と強調する。
グリーンソフトウェアエンジニアリングとは、ソフトウェアの開発・運用・廃棄に至るまでの全工程で環境影響を定量的に評価し、継続的に最適化を図る方法論だ。単発の活動ではなく、改善を繰り返していく点に特徴がある。対象はソフトウェア製品そのもの(プロダクト面)と、ソフトウェアライフサイクル上の各活動(プロセス面)の両方に及ぶ。今回は特にプロセス面に焦点が当てられた。
NTTグループは他企業とともに、経済産業省が公募した支援事業を通じて「ソフトウェアに関するカーボンフットプリントの製品別算定ルール」を策定。今後、グリーン調達などで排出量の開示が求められる可能性も見据え、業界共通の算定基準を整備している。従来の「費用ベース」の算定は実態を反映しづらく、削減努力も評価されにくかった。これに代えて、開発に用いるICT機器の使用やクラウドの利用などに伴う排出量を「活動量ベース」で算定する方法を導入。開発現場の実データを基に排出量を積み上げて算出する手法を試みている。
昨年度は、この手法を実プロジェクトに適用する実証実験を実施。社内の開発プロジェクトを対象に、ノートPC等のICT機器の消費電力をスマートプラグで計測し、オフィスだけではなく在宅勤務による作業も含めた排出量を可視化。実プロジェクトを対象として排出量算定を完遂したことに一定の価値があるとしつつも、より実態を反映し、より現場負担の少ない算定を実現するために、活動量に占める一次データ比率の向上、消費電力計測の簡素化などの課題を抽出した。
今後は、より簡便で実態を反映した算定をめざし、第三者による検証も視野に入れて実証実験を重ねていく方針だ。「環境配慮は社会的責任にとどまらず、企業競争力の源泉になる」として、ICT業界全体での連携が重要と述べた。
- *1 出典:Freitag, Charlotte, et al. “The real climate and transformative impact of ICT: A critique of estimates, trends, and regulations.” Patterns 2.9 (2021).
- *2 出典:Andrae, Anders SG, and Tomas Edler. “On global electricity usage of communication technology: trends to 2030.” Challenges 6.1 (2015): 117-157.
インタビュー

私たちが取り組むグリーンソフトウェアエンジニアリングは、NTTグループ全体の競争優位性に直結しうる戦略的なテーマだと捉えています。そして、業界全体の環境的持続可能性を一層深化・浸透させる壮大な挑戦でもあります。無形のソフトウェアに環境配慮の視点を取り入れることで、今まで見えなかった新しい価値を創出できる点に意義を感じています。
算定ルールは業界標準の基盤づくりという位置づけであり、社会的要請も高まっています。特に環境意識の高い欧州などでは調達段階で環境面の要求が強まっています。業界全体で環境配慮を促進する動きの一端を担い、社会的価値を生みだす成果に貢献できることにやりがいを感じています。
この分野自体が新しく、明確な正解がない中で試行錯誤しながら進めること自体が刺激的です。環境分野の専門家や他企業の有識者と協働し、積極的に議論して知識を深めながらプロジェクトを前進させる過程に充実感があります。
当社には、ソフトウェア開発の現場に根ざしたものづくりのリアリティがあります。アカデミックな視点だけでなく、実際に事業や開発を行う現場の視点を併せ持つことで、グリーンソフトウェアエンジニアリングの取り組みにも現実的で冷静な洞察をもたらすことができます。これにより、実務に即した取り組みとして社会や業界に発信できる点が魅力です。
今後もQCDの普遍的な考え方を守りつつ、ソフトウェアライフサイクルに環境配慮の観点が自然に組み込まれ、当たり前に考慮されている― そんなイメージを形にしていくために、実践知の獲得に励みたいと考えています。
渡辺史敏(わたなべ・ふみとし)
2026/01/08
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