NTTドコモソリューションズは11月12日、NTT品川TWINSアネックスビルにおいて「DevelopersLive!2025」を開催した。同イベントはNTTドコモソリューションズを中心としたドコモグループ社員およびパートナーに、ビジネス価値につながる開発技術・動向を紹介する場であり、プロジェクト担当者やお客さまとの対話・共創のきっかけづくりの場として、2017年から毎年開催しているもの。今年は「技術革新が拓く新たな価値」をテーマに、技術戦略を知る3つのキーノートと未来の開発を支える技術と価値を探る4つのセミナー、展示を行った。後編ではセミナーの後半をリポート、登壇者に現在携わるプロジェクトと社会との関わりや自身のやりがいについてインタビューした。
次世代アイデンティティがもたらす新しい価値
〜DID/VCによる分散型の身分証明〜
NTTドコモソリューションズ株式会社
技術革新本部
システム技術部
オープンソーステクノロジセンタ Web3タスクフォースチーム
矢島真理人
矢島氏は、次世代のアイデンティティ管理について解説した。アイデンティティ管理は、個別サービスごとのID・パスワード管理(アイソレーテッドID)から、IDプロバイダーによる集中型認証(セントラライズドID)、さらに大手クラウドサービスのアカウントなどを介する連携型認証(フェデレーテッドID)へと進化してきた。現在の企業や政府など中央集権的な機関が個人情報を一元管理するような集中型や連携型では単一障害点や運営方針の変更による影響、個人情報の過剰収集やプライバシーリスクが問題となる。欧州のGDPR(EU一般データ保護規則)のような法規制や、プライバシー意識の高まりからブロックチェーン等を活用した非中央集権のID管理の普及が期待されていると述べる。
こうした現状に対して、「DID(Decentralized Identifier、分散型ID)」は非中央集権的な管理を可能にし、ID所有者自身が情報を管理できる仕組みを提供する。秘密鍵と公開鍵による暗号技術を用いて本人確認を行い、中央機関に依存せず認証が完結する。また、「VC(Verifiable Credential、検証可能クレデンシャル)」は検証可能なデジタル証明書として機能し、年齢や資格、所属などの情報をユーザーのスマートフォン内のアプリを通じて管理し、サービス提供者はブロックチェーンを介して発行元を検証できる。これにより、従来の身分証明の偽装リスクや個人情報漏洩の問題が解消される。
具体例として、コンビニでの酒・タバコ購入時の年齢確認や住宅ローン審査などのユースケースが提示された。ユーザーはVCを提示するだけで、必要な情報の検証が完了し、発行元への問い合わせなしに正当性を証明できるため、発行元に利用先が通知されることはない。これにより、プライバシーを保護しつつ、迅速かつ信頼性の高い認証(身分証明)が可能になる。
一方で、DID/VCの普及には標準化の遅れ、持続可能なビジネスモデルや具体的ユースケースの不足、法規制の未整備などの課題がある。NTTドコモグループでは、デジタルアイデンティティウォレットを中心にユースケースの推進をしており、NTTドコモソリューションズでは市場動向調査・PoC*1開発・実装パターンの検証等を進め、社会実装に向けて取り組んでいる。矢島氏は、今後は技術的課題と社会的課題を整理し、DID/VCの実用化を通じて、安全で効率的な個人認証の普及をめざす考えを示した。
- *1 PoC(Proof of Concept:概念実証)新たなアイデアやコンセプトの実現可能性、得られる効果などを検証すること。
インタビュー
私たちが取り組んでいるDIDやVCの技術は、まだ一般にはあまり知られていない先端技術ですが、今後、社会に必要不可欠な技術になると考えています。個人情報保護の観点や法的規制の高まり、AIエージェントの登場など、これからの社会ではデジタルIDを安全かつ個人がコントロールできる形で扱う必要があります。表からは見えにくいですが、将来の社会基盤として重要な提供価値を生み出すととらえています。
この技術は、より安全で信頼できるデジタル社会を作ることに寄与するものです。例えば、官民連携で進めているDID/VC共創コンソーシアムでは、政府や企業とともに身分証明やデジタルアイデンティティの新しい仕組みを検討しています。欧州や米国ではすでに実装が進んでおり、日本でも将来的に社会全体に広がる可能性があります。このように、技術を社会に実装していく過程そのものが大きな社会貢献だと感じています。
NTTドコモグループとしてこれらの技術に取り組むにあたっては、単に開発者として技術を調査するだけでなく、仕組みを社会にどう実装し、ビジネスとして成立させるかまで考える必要があります。そのため、技術とビジネスの両面を同時に追求できる点に大きなやりがいを感じています。もちろん、Web3やブロックチェーンといった新しい技術に触れること自体も面白いです。
NTTグループには、膨大な研究知見と企業間の連携、実際の開発・実装力があります。ブロックチェーンやクラウドを活用したアプリケーション開発では、ソフトウェア開発力だけでなく、ビジネスを加速させるための迅速なPoC開発能力が求められます。私たちはその力を持っているので、新しい技術を社会に実装する際にも有効です。今後も、個人がデータを管理する新しいインフラを支え、未来の社会実装に貢献していきたいと考えています。
クラウドだけが正解じゃない
〜OSSで広がるAI開発の可能性〜
NTTドコモソリューションズ株式会社
技術革新本部
システム技術部
クラウドテクノロジセンタ
木村遼斗
木村氏は、生成AIの利便性と情報漏洩リスクを踏まえ、OSS(オープンソースソフトウェア)を活用したセルフホスト型AI駆動開発環境の構築について講演した。
まず、生成AI利用に伴う情報漏洩リスクが高まっている背景の説明と、SaaSを活用して作成したコンテンツが学習され、機密情報が意図せず公開される可能性があるといった事例が紹介された。2025年2月には中国企業で開発された大規模言語モデルが登場し、学習データの扱いやモデルの模倣に関する懸念が広がるなど、世界的にセキュリティ重視の傾向だという。また、企業買収により仮想化基盤の価格高騰のリスクが顕在化するといった背景もあり、機密性・セキュリティの確保とベンダーロックイン回避が課題となっている。
これに対する解決策として木村氏は、セルフホスト型のAI駆動開発環境を提案した。従来のクラウド型AIサービスは高性能で便利である一方、ベンダー依存や環境制御の制約があり、機密情報の取り扱いに課題がある。OSSを活用することで、自社内で制御可能な環境を構築しつつ、生成AIの利便性を享受できると説明した。これにより、通信やデータ管理の機密性を確保しつつ、特定ベンダーへの依存を排除できると説明した。
図. セルフホスト型のAI駆動開発環境
プラットフォームに関してはSaaS利用を前提としながらも、SaaSが機密性の観点で利用できない場合、IaaS、オンプレや自端末利用でOSS の LLM をプラットフォームしていく可能性など複数の選択肢があることを述べた。
参加者に向けてセルフホスト可能なOSSのLLMによるAI駆動開発手法のデモなどを交えながら具体的な利用方法について説明があり、今後も選択肢の1つとしてAI関連のOSSの技術を深めていくと最後にまとめた。
インタビュー

私たちが取り組んでいるローカル生成AI(Local LLM)は、セキュリティと利便性を両立させることが難しい領域において、非常に価値のある技術だと考えています。NTTドコモグループでは官公庁や機密情報を扱う業務も多く、従来のクラウド型サービスでは生成AIの導入が難しいことがありました。そこで、ローカル環境でAIを安全に活用できる仕組みを確立することで、これまで諦めざるを得なかった業務領域にもAIを導入し、業務改革を実現できる点が大きな提供価値だと感じています。
ローカル生成AIの活用により、機密情報や個人情報を安全に守りながら最先端技術を利用できる環境を提供することは、社会的にも意義があります。ブラックボックス化せず、技術の原理や運用方法を理解したうえで活用することが、技術蓄積や将来的な社会実装にもつながります。国内ではまだ市場規模は小さいものの、世界的には生成AIの需要が拡大しており、安全に活用できる技術を確立することは、将来の技術発展に貢献する重要なミッションだと考えています。
私自身は、技術者として最新のオープンソース生成AI技術を直接触り、NTTグループに展開できる点に魅力を感じています。世界的なAIの進化を肌で感じながら学習し、実務に技術を応用できる貴重な経験と考えます。日々技術が進化する中で学び続ける必要がありますが、アプリケーションがどんどん変わっていく中でもvLLM*2といったプラットフォーム部分は継続的に活用でき、基盤知識を蓄積すれば将来的にも応用可能と考えています。
蓄積された技術力とオンプレミス・クラウド両方の活用力が当社の強みです。すでにOSSで構築したクラウド基盤上で、AI利用に必要なGPUインスタンスを利用できる基盤が整備されており、その基盤にローカル生成AIを組み合わせることで、最新技術を安全かつ迅速に実装できます。こうした環境は、AI活用の実装力として大きな優位性を発揮しています。今後もこの強みを活かし、技術ナレッジを蓄積しながら、社内外での安全かつ効率的なAI活用を推進していきたいと考えています。
- *2 高速で効率的な大規模言語モデル(LLM)推論を実現するオープンソースのサービングエンジン
渡辺史敏(わたなべ・ふみとし)
2026/01/13
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