今月の書籍
レビュワー:新野 淳一
- 『アジャイル開発の法務』
- 『「技術書」の読書術』
管理職必読。アジャイル開発を成功に導く適切な契約とは
アジャイル開発では、開発をスタートした時点で、開発すべきソフトウェアの仕様や完成時期などが明確でないことがほとんどだ。
しかし、この状態は、企業がソフトウェア開発を外部に発注する際によく行われるであろう契約、すなわち、あらかじめ決められた機能や性能一式を備えたソフトウェアを、特定の納期までに完成させることでその対価を支払う、という想定と大きく異なる。
そのため、企業がSIerなど社外の開発企業と契約し、そのITエンジニアとともにアジャイル開発を行う場合には、従来の、いわゆる外注契約とは異なる契約が必要となることは明らかだ。
では外部の企業とともにアジャイル開発を進める場合、どのような契約が適切であるのか。本書はこの注意点と適切な契約内容などについて説明した本である。
本書の著者である梅本大祐氏は、2020年にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公開した「アジャイル開発版『情報システム・モデル取引・契約書』 や、2021年に厚生労働省から公表されたアジャイル開発の契約に関する指針などを示した疑義応答集の作成などに関わった弁護士であり、アジャイルに関する契約に関して、国内でもっとも詳しい人物の一人である。
本書は、発注側の企業とベンダ側の開発者がひとつのチームとなり密なコミュニケーションを行うアジャイル開発の性格上、適切な契約を結ばずにアジャイル開発を進めようとすると、偽装請負とみなされ法律違反に問われる可能性が高くなる、などのアジャイル開発における契約の注意点を指摘する。
その上で、どのようにアジャイル開発を進めると偽装請負にならないのか、また、IPAが公開したモデル契約をベースに、実態に合わせてどのような変更が可能なのかなどを解説している。
日本の企業が本格的なDXに取り組もうとするとき、アジャイル開発のような柔軟性のあるプロジェクトの進め方を、SIerのようなITに強い外部企業の協力を得て実現することは典型的なスタイルだと思われる。
その際に適切な契約関係と現場での進め方を理解するために本書は欠かせないものとなるはずだ。管理職以上の方々に一読を勧めたい。
隣のエンジニアは、何をどのように読むのか。技術書読書の新しい楽しみ
新しいプログラミング言語を学ぶとき、新しい開発手法を学ぶとき、あるいは単に自分の技術的な好奇心を満たすためなど、技術書を好んで手に取り、読んでいるITエンジニアは少なくない。
技術書の多くは実用書であり、サンプルコードを動かしてみたり、方法論を職場で試してみたりなど、読むだけでなく実践と結びついている。それこそがITエンジニアが技術書を好む要素でもある。
この、単に読むだけではなく、実践と結びついたさまざまな「読書術」が技術書にはある、ということに気づかせてくれるのが本書だ。
それは技術書を読む手前の、本を選ぶところから始まっており、書店の本はどのように並んでいるのか、本の選び方、海外のサブスクで読める本などの項目が、本書の内容として並ぶ。
読み方では、プログラミング書の読み方、数学書の読み方、“積ん読”の解消法、オーディオブックの活用法、洋書を翻訳しながら読む方法、読書記録、多読法等々、多岐にわたる解説があり、それぞれは知っているつもりでもまとまった解説は新鮮に映る。
思い返せば、自分以外の人が技術書をどんな方法で探し、読み、内容を身につけようとしているのかを知る機会は実は滅多にない。
本書の面白さは、技術書の読み方というノウハウを知るのと同時に、自分以外の技術者はどんな風に技術書を読み、実践あるいは活用しているのかを知ることができる点にもある。著者が二人いることで、その楽しさはより増している。
技術書が好きな人には、技術書の読書の合間にリラックスしつつ楽しめる本だ。
今月のレビュワー
新野 淳一(にいの・じゅんいち)
ITジャーナリスト/Publickeyブロガー。一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA)総合アドバイザー。日本デジタルライターズ協会代表理事。大学でUNIXを学び、株式会社アスキーに入社。データベースのテクニカルサポート、月刊アスキーNT編集部副編集長などを経て1998年フリーランスライターに。2000年、株式会社アットマーク・アイティ設立に参画。2009年にブログメディアPublickeyを開始。2011年「アルファブロガーアワード2010」受賞。
2023/03/10