工場やプラント設備、建設現場において、設備の保全と作業員の安全管理は常に重要な課題である。NTTコムウェアが提供する「プラントコラボ」は、この課題に「現場のウェルビーイング」という新しい視点を持った解決策をもたらしている。今回、「メンテナンス・レジリエンスTOKYO 2024」(7月24〜26日、東京ビッグサイト)での取材を通じて、このサービスの特徴と将来性を探る。
プラントコラボ:統合的な保全管理を実現
プラントコラボは、設備の保全業務の計画立案から実施、データ蓄積、改善までを一元管理する。その主な機能には、保全計画の最適化、現場管理の効率化、作業進捗のリアルタイム監視、報告プロセスの簡素化、そしてノウハウの体系的蓄積が含まれる。さらに作業員のバイタルデータをもとにした身体不調リスクの予測、危険エリアの侵入検知や転倒・落下リスクの管理など、労働安全衛生の向上にも寄与する。
本システムの最大の特徴は、リアルタイムのデータ連携にある。工場などの設備を保有・管理するアセットオーナー、設備の保全メンテナンスを実施する施工会社の管理者、現場作業者の間で、計画、作業、実績報告のサイクルがシームレスに連携される。
例えば、アセットオーナーが「eServ」などの設備保全管理システムで作業計画を登録すると、その情報が即座にプラントコラボに反映される。「eServ」と連携することで保全計画に基づく現場の作業実績をリアルタイムで把握できるようになり、過去の作業実績を踏まえた点検作業の改善や作業見直しにより、最適な保全計画の策定が可能となる。
施工会社の管理者は、委託された作業計画をプラントコラボで確認し、適切な人員を配置することができる。現場作業者は作業実施後、モバイルデバイスを用いてリアルタイムでの報告が可能だ。管理者は報告された現場状況をリモートで把握できるため、迅速な意思決定が可能となる。
ユーザビリティと利便性の両立
プラントコラボの機能的な特徴を伺った。
「工場などの設備保全業務の現場では、以前は点検結果を紙に記入し、後で管理者に報告していましたが、タブレットを使ってリアルタイムに報告できるようになると、大幅に業務が効率化されます。しかし、タブレットやスマートフォンの入力が煩雑であったり、今までとあまりにも入力のフィーリングが違いすぎると結果的に現場の負担になったり、システムが現場に定着しないことにもなりかねません。その点を踏まえ、現場の担当者が迷わず直観的に操作できるように、普段スマートフォンなどで使用しているチャットツールに近いインターフェースを採用し、ユーザビリティを重要視しました」
これがプラントコラボの連携システムの1つ、「i-Reporter」連携※だ。i-Reporterは、プラントコラボの中で現場状況をデジタル化するための重要な連携システムだ。従来、紙に記入していた点検結果や異常報告を、タブレットやスマートフォンで簡単に入力できるようにする。現場作業者にとっては、紙に書いていた内容をそのままタブレットに入力する直感的な操作であるため、スムーズな導入が可能であり、すぐにデジタル化の恩恵を受けることができる。そして「入力がしっかりと行われることで、現場の状況を正確に把握することが可能になり、管理者も現場に足を運ぶ必要がなく、事務所からでも作業の進捗状況を確認できるので、時間と労力が大幅に削減されることになります」と、管理側の利便性も強調していた。
※オプション機能。i-Reporterとの連携について2024年9月25日にウェビナーを開催。
リアルタイムかつ簡単に情報を反映できることのもう1つのメリットとして、「小さな事象」も漏れなく報告され、蓄積されることがある。まとめて報告、となるとどうしても小さな異常や気づきは見過ごされがちだ。しかしこの「小さな事象」こそ、実は「改善のための宝の山」の可能性がある。現場担当者のさまざまな工夫や気づきは重要なノウハウと言える。「特にベテラン作業者のノウハウをデジタルデータとして蓄積することで、新人作業者への教育もスムーズになります。ベテランの知識や経験がデジタル化されることで、新しい作業者もすぐに作業に慣れることができ、全体的な作業品質の向上にも寄与します。さらに小さなミスや事故であったとしてもそこから得た教訓、ノウハウをもとに、原因分析をし、改善策を検討できます」と担当者は自信を持って語る。
安心安全機能の強化
ノウハウをデジタルデータとして蓄積することは、安心安全を実現する重要なファクターにもなる。プラントコラボの安心安全機能は、工場の点検作業におけるリスク管理を強化するために設計されている。保安エリアの侵入検知、転倒・落下のリスク管理など、現場での事故を未然に防ぐための機能が充実している。
例えば、保安エリアに誰かが侵入すると、即座に管理者に通知される仕組みだ。これにより、事故の初期対応が迅速に行える。転倒や落下のリスクが高い場所でも、リアルタイムで状況を監視し、異常が発生した場合には直ちに対応可能となる。
また、「AIによる体調リスク予測」「危険エリアへの侵入検知」「転倒検知」による迅速な初動対応により、労働災害防止に貢献する。
安心安全機能は作業員が現場で安心して安全に働ける職場を実現し、その結果、企業にとっては人材確保、ウェルビーイングにつながっていく大事な要素と言える。これらはプラントコラボのもっとも重要な機能と言えるだろう。
導入効果と本質的価値
プラントコラボの導入により、以下のような具体的効果が期待できる。
- 点検作業の効率化:
- モバイルデバイスを活用したリアルタイム報告システムにより、作業効率が大幅に向上。
- 事故件数の減少:
- 迅速な情報共有と初期対応により、安全性が向上。
- ノウハウの体系化:
- ベテラン作業者の暗黙知をデジタル化し、効果的な技術伝承を実現。
- 設備稼働率の向上:
- 予防保全の精度向上により、ダウンタイムが削減。
そして、NTTコムウェアが強調するのは、これらの直接的効果を超えた「現場のウェルビーイング」への貢献だ。担当者は次のように説明する。
「プラントコラボは、蓄積した作業実績データを分析することで、施工会社の定量的な評価だけでなく、製造業が直面している人材不足や技術継承の課題解決をめざし、現場全体の価値向上を実現するサービスです」
「近年、人手不足が大きな問題になっており、製造業の現場は若者を集めづらくなっている現実があります。それには、働くことがとても大変なのではないか?危険なのではないか?という不安があることは間違いありません。現場全体の価値向上から現場のウェルビーイングに寄与するサービスがプラントコラボと言えます」
設備関連情報・作業実績データ・作業員のバイタルデータ、ノウハウなどの一元管理・蓄積を行うことで、作業員に対する安心安全な作業管理を円滑に行い、蓄積したデータを元に保全計画を最適化し、アセットオーナー、施工会社、関係者間での評価とフィードバック、そして連携を強化する。結果、保全業務を最適化して設備の安定稼働に貢献し、現場作業の効率化と安全性向上を両立する。これはまさしく現場のウェルビーイングに寄与していると言えるだろう。
NTTコムウェアは、他の設備保全管理システムとの連携拡大や、AI・IoT技術の統合による自動異常検知や状態監視機能の実装などの機能拡充を計画している。今後のプラントコラボの発展と、それによってもたらされる産業界全体の変革に注目していきたい。
(ジャーナリスト:河野貴伸)
2024/08/30
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