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かしこい生き方を考える COMZINE BACK NUMBER
自分の仕事を図にしたらその人の仕事の捉え方がわかる。それがその人の器とも言えます かしこい生き方のススメ 第4回久恒 啓一さん


図が描けるということは現状を把握しているということ
 

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「図で考えればうまくいく」という図解学を提唱しておられますが、まずは図解学とは、どういうことでしょうか?

久恒

ビジネスマン時代、常に私の頭にあったのが、どうやったら仕事の能力が上がるのかということでした。それに対して私が得た結論は「コミュニケーション力」だったんです。この能力は具体的には理解力、企画力、伝達力の3つですが、ビジネスの場面では、この3つを文章で行うのがほとんどです。ところが文章というのはいろいろと問題があって効率が良くないんですね。加えて、周囲にいる「この人は能力があるな」と思える人を見ると、キーワードの捉え方が巧みだったり、図で指示を出したりする人が多かったような気がします。そんなこともあって図解に行き着いたわけです。
図を描くということは現状を把握することです。文章だと何となくごまかせてしまえますが、図では理解できていないものは描けませんからね。
そうやって図に描いていくと、物事の関係がクリアになってきます。例えば図の中で、矢印がAというものにつながらない、これは「疑問に思っている」ということを意味しています。それから、この人はAからBに線を引いたけれども、私は逆だと思った時には、それに対する「批判」となります。そうすると、あらゆるモノの関係が「理解」と「疑問」と「批判」に分けられます。
図解にすると全体が自分なりに分かってくるわけです。後は分かったものに少しずつ数や事例を肉付けしていけばいい。

 

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なるほど。ただ、私などもそうですが「図にする」というだけで戸惑ってしまいます。どんなふうにするのでしょうか?

久恒

丸と矢印ですべてを表現できる

まず、あるテーマに関してキーワードをいっぱい集めます。そしてそれぞれのキーワードについて、どれが大きいか、どれが小さいか、どれが上か下かと組み立てながら体系を作っていくんです。
図解は基本的に丸と矢印でできます。丸を大きく描いたり、上に描いたり、それらの丸を矢印でつないでいく。その時の矢印というのは接続詞なんです。図解学の極意は、接続詞の使い方です。文章を書く時に「従って」と書くか「故に」と書くか「逆に」と書くか、それぞれ意味が違いますね。これは前後の関係を表す、日本語として最も重要な言葉です。もう接続する言葉じゃなくて「関係詞」です。だから矢印の使い方が上手いということは、その関係を良く理解しているということになります。
企画書にしろ報告書にしろ最終的には文章にしなければならない場合が多いのでしょうが、図がしっかりしていればスラスラ書けます。

左脳も右脳もフル稼働する充実感
 

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矢印が接続詞というのは図解学を理解する上で非常に分かりやすいお話です。AとBの関係が自分の中でクリアになってないことには矢印は引けませんね。

久恒

そうです。重要なのは「関係」です。関係がないという関係もあるくらいですから。例えば私とあなたは太い関係にある、彼とは細い関係にある、それから、近い関係にある、遠い関係にある、私達はそういったものの集合体です。
その関係を表すのに、図は非常に便利です。矢印の向きを右から左に変えたり、下から上にしたりすることは「改革」ということになりますし、全く新しい図を作ることは「創造」です。

それに、図解というのは思考革命でもあります。
例えば、今「目をつぶって5分間、かしこい生き方について考えて下さい」と言うとします。すると多分、浮かぶのは「早く終えて家に帰りたいな」なんてことだけでしょう。それは「考えられない」ということなんですよ。
ところが図に描こうとすると、丸とか三角とか、とにかく描いてみようとします。そうやって手を動かすことで、頭が働くんですね。
実際、図を描いている時にはものすごく頭が働きますよ。僕の講義を受けている学生は「この授業は、頭をフル回転するので、終わった後ぐったりする」と言います。つまり、普段、左の論理脳を使って右脳をあまり使わないのですが、図を描くというのは右脳の仕事なので、これまで使っていない脳がコトコト動き出す感じがあります。だから充実感もありますし、とても楽しいんです。図の矢印の向きを変えただけで、新しい発見があるんです。

 

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図解学に関して講演もなさっていますが、実際に受講した方々も「うまくいく」のでしょうか?

久恒

ある企業に研修の講師として行ったんですが、お子さんの進学の件で夫婦でいつもけんかしているという方がいらしたんです。その日その方が家に帰ると、また進学の話になった。そこで奥さんにいろいろと図にして見せたところ、奥さんと「ここ、変えたらいいんじゃない?」なんて話になって、スムーズに話ができたそうです。
それから企業の法務部長研修で、講師をやった時のことです。法務部ですから、契約書や社内規定といった難しい文章を書くわけですが、他の人には分からないですよね。その方達も皆、図解学にショックを受けて、1年後に「これを作りました」と『図解 取締役ガイドブック』っていうのが送られてきました。商法改正に伴う「取締役」について、六十数枚もの図にしてありました。かなり大変だったようですが、図解して初めて、それまでの情報が全部うろ覚えだったり、あらゆる例外を書き入れようとして煩雑になっていたことが分かったと反省したそうです。

自分の仕事を図にすれば、新しい発見が見えてくる

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図解というのはコミュニケーションのツールまたは技術ということでしょうか?

久恒

その通りです。企業の経営はコミュニケーションだというのが私の意見です。つまり、社内の経営資源をコミュニケーションによって活性化させて、商品やサービスを作り出す。それをコミュニケーション活動によって外部に販売する。外で得たお客様の声をコミュニケーションを通じて社内に戻す。そして再び社内資源を活性化させるという一連の流れのことなんです。ですから、経営の本質はコミュニケーションであって、人事とか財務とかではありません。
そこで図が役立つのはスピードが速いからなんです。例えば私があなたと「こんにちは」と挨拶します。そしたらそこに回路ができて情報が流れるわけです。ところがその情報が流れる時のスピードというのが、文章だと時速30キロなんです。途中で障害物があったり、信号があったり――つまり、細かい言葉の意味で議論になったり、書いた文章を誰かが直したりするので、時間がかかります。
一方、図解だと大きな枠がすぐに理解できるから、情報は時速100キロで走ります。図の場合は、見た人それぞれが自分なりに解釈してくれるから、押し付けがましい感じもせず当事者意識も高まります。

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私達が手始めに図解してみるのには、どんなことがいいでしょう?

久恒

自分の仕事から始めると良いと思います。一番関心があって、他の誰にも書けないものですから。実は自分の仕事を人に説明できる人ってあまりいないんです。よく組織図を描いて「自分はここです」と言う人がいますが、そうではなくて自分の仕事を軸にしたら、周囲がどんなふうに見えるか、ということが大切なのです。それがその人の仕事のとらえ方なわけですね。
編集者の仕事だって50人が50人、皆、とらえ方が違いますよね。あたかも「編集」という仕事があるような錯覚に陥っていますが、人それぞれです。
会社の中のポジションにしても同じです。同じポジションでも人によって全然違うんです。自分の仕事の範囲の捉え方が、その人の器という言い方もできると思います。

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それでは、もしも自分の仕事の図解に3つしか丸が描けなかったら無理矢理にでも一つ足してみたりすることで、幅が広がるということですね。

久恒

そうです。そうするとまたポーンと違った見方ができるようになります。
そうやって、何をどう判断するかが実は考えたということですよね。こうすると「考える」ことは、難しくなくなります。図を手にしたことによって、自分なりの意見を持つことができるのです。このコーナーのテーマは「かしこい生き方」ということですが、自分なりの意見を持った人生の方が、やはり着実な人生だろうと思います。人の言うことに惑わされて、うろうろすることがなくなりますから。

インタビュア 飯塚りえ
久恒 啓一(ひさつね・けいいち)  
宮城大学大学院事業構想学研究科長。1950年大分県生まれ。九州大学法学部卒業後、73年日本航空株式会社入社。広報課長、サービス委員会事務局次長を経て、97年4月新設の宮城大学教授に就任。勤務の傍らビジネスマン勉強会の全国組織である「知的生産の技術」研究会の代表幹事、顧問を経て現在はNPO法人知的生産の技術研究会の理事長を務める。宮城県では行政改革推進委員会委員や長期総合計画審議会専門委員を経て、県民サービス向上委員会委員長、NPO法人キャリア開発研究機構理事長を務める。著書に『人生がうまくいく人は図で考える』(三笠書房)、『図解で考える40歳からのライフデザイン10年単位の人生計画の立て方』(講談社α新書)、『図で考える人は仕事ができる』(日本経済新聞社)など多数。近刊に『図で考える人は仕事ができる 実践編』(日本経済新聞社)、『仕事力を高める方法は図がすべて教えてくれる!』(PHP出版)がある。
久恒氏のサイト『図解Web』
http://www.hisatune.net/
久恒氏のサイト『図解Web』。トップには久恒氏自身の仕事のとらえ方が見て取れる
撮影/加藤 翔(フリースペーススタジオ) イラスト/小湊好治 Top of the page

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