−− |
松元さんは、日本におけるフリーダイビングの第一人者として活躍される一方、スクールも開いていらっしゃいますが、フリーダイビングというのは、どのような競技なのでしょうか? |
|
松元 |
簡単に言うと素潜りです。フィンと、マスク、ウェットスーツ、それにウェットスーツの浮力を打ち消すためのウェイト(重り)を身に付けて、海の中に垂直に潜っていくものです。映画『グランブルー』の中では機械を使って潜っていましたが、それができるのは、資金的にも余裕があるごくわずかな人達だけで、今、私がやっているフリーダイビングは、自力で潜るものです。ひたすらフィンをかいて、まっすぐ、まっすぐ海の底に向かって潜っていって、一定のところに来たらターンをする。ターンをしたら、またまっすぐ、まっすぐ水面目指して浮上する競技の場合は、その深度を競います。これが「コンスタント」と言って、フリーダイビングのメインの種目です。私の公式記録は、現在56メートルです。 |
|
|
−− |
フリーダイビングを始めたきっかけは何だったのでしょうか? |
|
|
松元 |
海が大好きで24歳の時にスクーバダイビングのインストラクターの資格を取って海に関わる仕事をしてきましたが、仕事ではなくてもよく素潜りも楽しんでいました。その頃は、素潜りで15メートルくらい潜れるようになって、すごく嬉しかったのですが、地元の素潜り仲間に「世界には100メートルも潜れる人がいる」と聞かされたんです。誰あろう『グランブルー』の主人公だったジャック・マイヨールのことです。「まさか素潜りで100メートルなんて!」と思っていたのですが、ジャックが来日するという話を聞いて、どうしても一目会いたくて名古屋のイベント会場に行ったのです。私が彼と出会った頃は、ジャック・マイヨールと言っても、日本では誰も知らなかった時代ですから、声を掛けたら、彼もすごく気を良くして、その後彼が日本に滞在する時には、一緒に行動するようになりました。 |
|
|
−− |
ジャックから直接フリーダイビングの指導を受けたのですね。 |
|
|
松元 |
いいえ。ジャックに「教えてくれ!」とお願いしたのですが「何を知りたいの?」と聞かれても「全部!」としか答えられなくて(笑)。それでも、行動を共にすることで、潜る前にヨガをしたり、プールや海に入って一緒に練習することができました。彼は私によく海に対する思いや潜水哲学も話して聞かせてくれました。いつの間にかそれが私のベースになりました。そして、それまで自己流で潜っていたのが、ジャックと出会ったことで「フリーダイビング」というものを、はっきりと意識し始めたんです。
その頃、ひとつの節目になるような出来事がありました。彼と出会ってから2、3年後のこと。沖縄の座間味で彼と一緒に練習したのです。ジャックは船で沖に出て、ヨガをして、呼吸を整えてから最初は浅く、徐々に深く潜っていく。その間私は、彼の動きをじっと観察していました。その後、私も見様見真似で潜らせてもらったんです。その頃には、素潜りで27メートルくらいまでは潜れていたのですが、ロープに沿って垂直に潜る本格的なフリーダイビングは初めてのこと。潜って、潜って、潜って…そして浮上。この時、これまでに経験したことのない感動が訪れたのです。それは生命の尊さを理屈ではなく全身全霊で感じる、まるで魂を揺さぶられるような、
それまで経験したことのない衝撃的な感覚でした。 |
|
|
−− |
その時フリーダイビング、さらには海の魅力に取りつかれたのですね。 |
|
|
松元 |
そうですね。海の魅力を味わうために、スクーバダイビングやスキンダイビングがあるのですが、機材を用いたスクーバと基本的には身一つで潜るスキンダイビングとは、分けて考えたほうが良いのでしょうね。
もちろん、それぞれ楽しさがありますが、スクーバはどちらかというと機材を使いこなすことが潜水の手段となる潜り方。対して、道具を使わないスキンダイビングは、例えて言えば、潜った時、海の生物と対等になれるような感覚があります。機材をつけて潜ると、排気音がするせいか海の生物達も「外から来たやつだ」と分かるらしく逃げてしまうのですが、スキンダイビングだと余計なことをしない限り、無視してくれます。同じ「海の生物」だと見なしているようなのです。そんな意味でもスキンダイビングのほうがより自然なのかなと思います。私は、潜る技術をいろいろと覚える前に、まずは水に浮かぶだけでも楽しいんだよ、ということを皆さんに知って海と遊んで欲しいと思います。そうやって海と遊んで、海に気持ちを寄り添わせることで、海の魅力が分かってきます。フリーダイビングは、筋力トレーニングや持久力をつけることももちろん必要ですが、それ以上にメンタルな要素が重要なスポーツなのだと思います。 |